ECサイト企画・構築・運用オープンソース「エレコマ」や楽天・Yahoo!・Amazon・ポンパレとの在庫、受注、商品連携ツール「モールコネクター」などを運営する株式会社アピリッツ(以下、アピリッツ)が東京証券取引所JASDAQスタンダードに上場承認された。承認日は2021年1月20日で、2021年2月25日に上場を果たす。
アピリッツは「ザ・インターネットカンパニー」という理念に基づき、「セカイに愛されるインターネットサービスをつくり続ける」ことを目指して人々の生活を変革するという考えの基に事業を展開する。2000年7月の創業からおよそ21年での上場となる。
本記事では、新規上場申請のための有価証券報告書Ⅰの部の情報をもとに、同社のこれまでの成長と今後の展望を紐解いていく。
売上高、営業利益ともに順調に成長

上図は過去5年間の売上高と営業利益の推移である。2020年1月期の売上高は2016年1月期の1.6倍に成長している。2020年10月には既に前年度の80%を達成しており、さらなる成長が見込まれる。
また、2020年1月期の営業利益は前年度比で1.2倍と着実に成長しており、こちらも今後増加する傾向にあるといえる。
ふたつの事業を支える16のサービス
同社は顧客企業のECサイトやWebシステムの企画、開発、保守、Webマーケティング、セキュリティ対策などを一貫して行うWebソリューション事業と、ゲームの自社開発・開発代行などのオンラインゲーム事業を展開している。
(1)Webソリューション事業
〈受託開発〉
①WEBシステム開発企画、要件定義、設計、開発、保守・運用など、Webシステム構築における上流工程から下流工程の各分野まで、Webビジネスの運営をワンストップで行うサービス。
②モールコネクター
楽天市場、Yahoo!ショッピング、Amazonなどの各種ショッピングモールと企業ECサイト、基幹システムをつなぎ、情報の受け渡しを行うモール提携サービス。
③エレコマ
同社がオープンソースとして公開しているRubyで作られた、ECサイト構築パッケージサービス。
④スマートフォンアプリ開発
企画から参加し既存ECサイトやSNSのアプリ化から新規アプリ開発まで、様々な分野のアプリ企画・開発を行うサービス。
〈ASP(注1)・コンサル等〉
①Advantage SearchECサイトなどのサイト内コンテンツや商品を対象として、キーワード検索できる検索ASPサービス。
②Webコンサルティング
数値指標に基づき論理的にWebサイトの課題点を抽出するアクセス解析を行い、効果の高い改善案を提案するサービス。
③UI設計・デザイン設計
定性的なユーザビリティ調査と、アクセス解析による定量データ、Webマーケティングノウハウなどから総合的に判断し、Webサイトの効果的な動線設計・UI設計・デザイン制作を行うサービス。
④SEMコンサルティング
アクセス解析の数値データを利用し、広告運用後のリピート化施策の立案、内部SEO施策など、集客に関する総合的なコンサルティングを行うサービス。
⑤Googleアナリティクスセミナー
細かなツール設定方法からレポーティングテクニックまでGoogleアナリティクスのあらゆる解析ノウハウをレクチャーする少人数制かつインタラクティブな講義。
⑥セキュリティ診断サービス
Webアプリケーションやネットワーク、スマートフォンアプリなどに対して専門スタッフが検査を行い、システムにある脅威を洗い出すサービス。
〈メディア〉
①OSDN.netオープンソースソフトウエアの開発者に対して、総合的かつ容易にプロジェクト管理を行うことができる環境を提供する無料サービス。
②スラド
インターネットやソフトウエア、科学、技術、工学、数学といった分野、関連する技術や政治、法律、特許や権利といったトピックについて議論を行うためのコミュニティ型ニュースサイト。
〈人材派遣〉
①人材派遣Webソリューション開発のノウハウを持つ同社の人材を顧客企業に派遣し、派遣先に常駐して開発を支援するサービス。
(2)オンラインゲーム事業
①自社ゲーム開発オンラインゲームプラットフォームである「Appirits Games Project」及び他社オンラインゲームプラットフォームである「Google LLC、Apple Inc」を通じてオンラインゲームを提供するサービス。
②パートナーゲーム開発
パートナー企業のオンラインゲームの受託開発を行うサービス。
③人材派遣
オンラインゲーム開発のノウハウを持つ人材をゲーム開発企業に派遣し、派遣先に常駐してゲーム開発を支援するサービス。
注1:ソフトウエアをインターネットなどを通じて利用者に提供するサービス。コスト削減効果、利用方法の簡便さなどにより、利用が広がっている。

セグメント別ではオンラインゲーム事業が6割近くを占める

カテゴリー別の売上高に注目すると、2020年10月期における全売上高に占める割合は、Webソリューション事業が46.49%、オンラインゲーム事業が53.51%となっている。
新型コロナウイルス感染症の影響が長期化する中でも、同社はオンラインゲーム事業の拡大のために新規タイトルの開発や既存タイトルの売上の維持に努め、Webソリューション事業においても新規案件の獲得や新サービスの拡充、自社ASPサービスの機能強化を進めてきた。
Webソリューション事業は、大型の受託開発案件の開発を進めるとともに、新規案件の獲得に努めた結果、売上高は13億3,827万9千円、セグメント利益は3億9,607万円となった。
オンラインゲーム事業は、主要タイトルの売上維持に努めるとともに不採算タイトルのサービス終了を実施し、利益率向上のため運営体制の見直しを行った結果、売上高は15億4,092万8千円、セグメント利益は1億2,768万5千円となった。
同社は今後も規模の拡大を図ることを経営上の目標とし、既存事業の安定的成長と新規事業の育成を常に両輪で連続的に模索する方針だ。
技術の進歩への対応と人材の確保が今後の成長の鍵
同社は事業上の対処するべき課題として以下の3つを挙げている。
①技術革新への対応②優秀な人材の確保と育成
③内部管理体制の強化
技術の進化とそれに伴う市場ニーズの変化を的確に把握・予測し、サービスの向上、新規 開発に結びつけるよう努める方針だ。インターネット関連技術に関しては、デジタルトランスフォーメーション時代に対応するために高いスキルを備えた人材やデジタルネイティブな若い人材の確保及び育成が必要不可欠だと同社は認識している。
また、内部管理体制の更なる強化や従業員に対する法令遵守、リスク管理の教育の充実を図ることで継続的な成長を目指している。
今後も成長が見込まれるDX市場とスマートフォン向けゲーム市場において価値あるサービスの提供を目指す
同社が属するインターネット業界・オンラインゲーム業界において、既存のビジネスモデルや業界構造を大きく変化させるデジタルトランスフォーメーション(DX)による新たなデジタル化の流れが続くと見込まれている。また、次世代モバイル通信「5G」の登場によりさらなる市場の活性化が予想されている。富士キメラ総研の「2020 デジタルトランスフォーメーション市場の将来展望」では、国内DX市場は2019年に7,912億円の規模と想定され、2030年には3兆425億円の規模にまで成長すると予測されている。
今後急成長が見込まれ、競争が激化しているスマートフォン向けゲーム市場において、同社はこれまで培ったブラウザゲーム開発などの技術・ノウハウを活かして技術難易度の高いスマートフォン向けゲームを開発・提供する方針だ。
AIやIoTなど様々な分野での技術革新、スマートフォンやタブレット端末をはじめとする利用端末の多様化によりますます便利になっているインターネット社会に、同社の技術力・クリエイティビティを適応させることで、顧客にとって価値のあるサービスを提供することを目指している。
想定時価総額と上場時主要株主
上場日は2021年2月25日を予定しており、上場する市場はJASDAQスタンダードとしている。
今回の想定価格は、1,180円である。調達金額(吸収金額)は3.2億円(想定発行価格:1,180円×OA含む公募・売出し株式数:276,000株)、想定時価総額は、14.8億円(想定発行価格:1,180円×上場時発行済株式総数:1,261,100株)となっている。
公開価格:1,180円初値:5,600円(公募価格比+4,420円 +374.6%)
時価総額初値:70.62億円※追記:2021年2月26日

筆頭株主は、投資育成目的に設立されたアピリッツの親会社であるエイ・ティー・ジー・シーが42.67%を保有する。次いで、クリエイティブスタジオのクリプトメリアが9.872%、同社の取締役の魚谷幸一氏が8.61%を保有している。
その他、同社代表取締役社長の和田順児氏が7.31%、サイバーエージェント代表取締役社長の藤田晋氏が3%を保有している。
※本記事のグラフ、表は新規上場申請のための有価証券報告書Ⅰの部を参考