南果歩さん(Part 2)
1964年、兵庫県尼崎市出身。短大在学中の1984年に映画『伽耶子のために』のヒロイン役でデビュー。
出水:南さんは兵庫県浜崎市のご出身ですね。どんな女の子だったんでしょう?
南: 5人姉妹の5女なんですよ。コシノ姉妹みたいですよね(笑)親はよく名前間違えてました。いっぱい呼んで、「ああ、ああ??」みたいな。
JK:うちもそうですよ。5人だったらごっちゃになっちゃうね。
南:姉が多かったので、すごくマセてたと思います。
JK:上のお姉さまといくつぐらい?
南:11歳離れてるんです。だから小さいお母さんみたいで、子どもの頃から姉のファッション雑誌とか映画雑誌を見てましたので、幼稚園から「an an」「スクリーン」「ロードショー」。姉と一緒に映画に行くので洋画しか見てなかったです。
JK:かっこいい!
南: あとお人形さんごっこが異常に好きだったんですよ。毎日友達を集めてリカちゃん人形で遊んでたんですけども、みんなリカちゃんを持っているんで、リカちゃんを名乗りたいがためにいろんな設定を考えるんです。ここは実はアメリカ!とかって言って、「みんなアメリカ人だから、メアリーとかそんな名前にせーへん?」って。一応みんな面白いねって言って、アメリカ人の名前をするんですよ。そしたら「そっか、そしたら私はリカちゃんでいいわ」って(笑)最後の最後にリカちゃんを名乗る。
出水:策士でらっしゃる!
南::みんなを楽しませつつ、自分を通すみたいな子でした(笑)
出水:大学は東京の桐朋学園大学短期大学演劇科に進学。この時には映画界とか演じることへの憧れみたいなものが芽生えてたんですか?
南:第一目的としては、円満に親元を離れる。末っ子なので、大阪でも京都でも大学はあるじゃないですか。やっぱり実家を離れないと自分の人生じゃないってなんか思ってたんですね、高校の時から。
JK:それはありますよね。大阪とか東京に憧れて、東京に行ってやっと1人になる。東京に行って初めて、自分の人生始まる。
南:私も本当に思いました! わかります! だから着々と計画は進めていて、一応大阪の大学とかも受けたんですよ? 受かったりもしたんですけども、やっぱり東京だから、2年だから!っていう感じで、上京して。
JK:役者の道は、子どもの頃から演劇とか好きだったんですか?
南:夢見がちですよね。空想の世界が好きというか。本を読んだり、映画を見たり、自分で設定を考えたり。現実以外の別の場所に生きる自分に憧れもありましたし。私は在日韓国人の3世なんですね。だから自分がここに生まれ落ちた意味とか、すごく考えがちな思春期だったんですよね。「私はなぜここにいる?」「私はなぜ生きている?」みたいなことを掘り下げる思春期。そういう意味で表現したいというか、自分でないものを見てみたいというか・・・それで演劇が始まったと思います。
JK:自分の心境は子供の頃から分かっていたわけね? みんなと違って、私はこうなりたい! こうするべき! みたいな。
南:そうですね、友達仲間を集めて、文化祭で映画を作ったり、部活で発表をやったりするのは好きだったんですけども、何か決めるときは事後報告。
出水:映画に出るときも?
南:決まってから言ったので、親兄弟は何の話なのか分かっていなかったと思います(^^)
JK:それが人生のマサカですか?
南:1人にならないと自分の人生が始まらないと思って、出てきた東京でオーディションを勝ち取ったので、これが本当にマサカだと思いますね。コマは1つずつでも前に進めた方が、また違う出会いが待っているって本当に実感しています。
JK:やってみないと前に行かないですよね。今、本当に満足でしょ?
南:これがまたね、満足感のない人間なんですよ! いつも何かが満たされていないので・・・人生の哲学としては「いつも何かを探している」なんですけど、実質はいつも忘れ物が多いので、本当にスマホ探したり財布探したりするんですけど、でも総じて人生の中でいつも何かを探しているとは言えます(^^)
JK:明日って見えないから、見えないのを見えるように言う。何を言ったっていいんですよ、見えないんだから。答えはないんだから、大げさに言ったっていいんですよ。やった形跡なくてもいいんです。なるかもしれない。何にも言わないより、言ったほうがいい。
南:面白い! その言葉に引っ張られる自分もいますよね。言霊ですね、言霊!
JK:自分の耳には聞こえてるから。
南:そうなんですよ。だからネガティブな言葉を聞きたくないんで、その場を去ります、私。

出水:2011年の東日本大震災後、絵本の読み聞かせボランティアを始めていますが、きっかけは?
南:東日本大震災の後も被災地に訪れて、皆さんにお会いしてお話ししたりしてたんですけれども、少しずつ避難所から移って日常を取り戻しつつあるときに、別のお手伝いができないかなと思って、幼稚園、保育園、いろんなところで読み聞かせをやったら楽しんでもらえるかなと思ってスタートさせたんです。
出水:その活動の中で1冊の絵本を出版しました。
JK:かわいいですね。『一生ぶんのだっこ』。
南:ありがとうございます。コロナ禍で直接現地に行けないときに、オンラインで読み聞かせをやろうと思っていろいろ出版社に掛け合ったんですけれども、許可が下りなくて、読みたい本が読めなくなっちゃったんですよ。そのときに「そうだ、自分で作ってしまえば版権は自分にあるから、自由だな」と思って。
出水:読みかせをして皆さんの反響いかがですか?
南:「だっこ、だっこ」のときに、子どもたちのところにいって抱っこしちゃうんですよ。子どもたちは「やめて~~っ!」って言いながら、次のときは「次、私のところに来て」みたいな感じになります(^^)
JK:ギュッと抱っこすると安心するよね。
南:そうなんですよね、ぬくもりというか。20秒ハグすると幸福物質セラトニンが出るらしいです。コロナのときにソーシャルディスタンスが日常になってしまって、やっぱりスキンシップって大事だなと思って。
出水:去年はカンボジアの日本語学校や孤児院を訪れています。
南:事前にお渡ししてカンボジア語に翻訳してもらって、私は日本語で読んで、みんなは意味がわかる、みたいな。すごく素敵な経験をしました。1人の少女が「すごくこれ好き」って言ってくれて、「カンボジア語で読んでくれる?」って言ったら「はいっ読みます」って前に立って読んでくれたんですよね。彼女は学校にも行けていなくて、バラックに住んでいるような厳しい暮らしから抜け出せない少女だったんですけど、目がキラキラしていてすごく向上心があって、本当にそういう出会いがあってすごく良かったです。
出水:もう14年ぐらい様々なお子さんや大人の皆さんに読み聞かせしている中で、言葉でメッセージそして物語を届ける意義、効果をどんな風に感じていますか?
南:やっぱり肉声が大事かなと思うんです。もちろんオンラインはいろんな便利なものがあって、不特定多数の方に聞いてもらえるんですけども、実際同じ空間にいて、対面でお話をする意義って、もっとも豊かじゃないかなと思うんです。読み聞かせもそうだし、舞台空間、先生がやっているショーも、直接関わることが今一番贅沢じゃないかなと思っていて。
出水:今月末からは舞台『ハハキのアミレット』に主演しますが、これはどういう作品?
南:近畿地方にある過疎化が進む街が舞台なんですけど、私は棕櫚ほうき職人の4代目で、兄が捨てていったほうき業を守りながら必死で生きている女性です。過疎化、後継者問題、日本の地方都市が抱える問題を含みつつ、関西が舞台なので全編関西弁!
JK:そうなんですか!
出水:そこへ何年も家を捨てた兄が帰ってきて、また人間関係が変わっていく。作・演出が演劇界で大注目の横山拓也さんという作家なんですけど、台本がすごくいいんです! セリフがすごく生きていて、家族劇でもあり、人生それぞれの選択があり、笑いの中で人生を見つめるとても深い物語です。


(TBSラジオ『コシノジュンコ MASACA』より抜粋)