毎週日曜、夜9時からお送りしているTBSラジオ【ラジオシアター~文学の扉】。
今回はゲストに鶴見辰吾さんをお迎えして、フィッツジェラルドの『氷の宮殿』をお届けしました。
鶴見さんは、以前この番組の公開録音でゲストにいらっしゃっています。
その時のラジオドラマは中嶋さんにとって忘れられない名作だそうで、安心のお相手という感じ。
今回鶴見さんが演じたのは、アメリカの南部の男と北部の男、両極端な二人。
脚本には、南部の男クラークは「暗いことを話していても明るい調子」北部の男ハリーは「明るいことを話してもどこか沈んだ調子」というト書きがあり、本番がどうなるのか個人的に楽しみにしていました。
翻訳物がお好きだという鶴見さん。
文字で読むと日本人の生活感には根付いていないような台詞もダンディに馴染んでいて人間味があり、とても素敵でした。
今回のラジオドラマは男女の会話が多くを占めていました。
中嶋さん演じるキャロルの二人の男性への接し方の微妙な違いが素晴らしかったです。
中嶋さんのお芝居にはいつも、原作を切り取ったというより、原作を凝縮したわかりやすさと深さがあります。
鶴見さん演じる北部の男ハリー。これに言及せずにはいられない!
「あのね」「なんだか」と歯切れの悪い言葉遣いがもったりしていて、それなのにこちらが言葉を挟めない感じ。
異様な空気感を放っていました。

時にその口調が冷たく聞こえたり脅迫めいて聞こえたりするのも面白かったです。
なんとも言えないキャラの濃さにスタッフ一同爆笑でした。
自分の中の鬱屈したものを打破したいと、変化を求めて北部に行くキャロル。
その思いを打ち明けるクラークとの関係は、退屈しながらも安心できるものでした。
物語の最後、結局南に戻ってしまうキャロルの「いいわね、南は...」という台詞は、安心に少しの切なさ・やるせなさが混じった複雑な音になっていて、聴いていて思いが巡りました。
この収録後に原作を読んだのですが、キャロルがハリーと意気投合し、惹かれ合う瞬間が確かにあったとわかると、さらに切なさが増したように思います。
フィッツジェラルド作品の多くは、手に入れたいものは結局手に入らないということが描かれています。
当初は期待でいっぱいだったはずのキャロルも、北部の人々に退屈さを見出してしまい、南部出身の素敵な男性教授との会話で、それが確信に変わっていくのです。
本を開いてすぐに感じるのですが、登場人物が言葉を発するまでの様々な描写が、非常に文学的で美しいです。
なかなかぴったり言い表せないような感覚を、言葉を駆使して言い得ており、豊かな読み物にしてしまう凄さがあります。
by田上真里奈
◆1月6日放送分より 番組名:「ラジオシアター~文学の扉」
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