TBSラジオで毎週土曜日、午後1時から放送している「久米宏 ラジオなんですけど」。

9月7日(土)放送のゲストコーナー「今週のスポットライト」では、オルゴール製作者の永井淳さんをお迎えしました。


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小さな箱からポロンポロンとかわいらしい音がこぼれてくる…そんなオルゴールのイメージを大きく変えるのが、永井さんが開発・製作している「楽器オルゴール」です。世界的メーカーの技術者を驚かせ、作曲家・坂本龍一さんにも認められたその音色の秘密は…。
オルゴールのイメージを変えた!「楽器オルゴール」製作者・永井淳さん

60歳からオルゴール作り

永井淳さんは1937年、東京都生まれ。中野区に工房を構え、オルゴールの音を共鳴させる「箱」を作っています。でも、作り始めたのは60歳になってから。元々は学習塾を長年、経営していました。

5歳上のお兄さん(当時20歳)が、家庭教師では効率が悪いということで自宅で塾を開いたので、15歳だった永井さんも一緒に講師として手伝うように。その後、高校・大学・大学院に行きながら講師を続け、そのまま経営者に。最盛期は700人の子供たちが通っていたそうです。

永井さんの人生が面白いのはここからです。家族の事情もあって塾をたたんで、新たに建築の仕事を始めます。そのときが50歳。

親類が経営している建築事務所で実務を積んで、57歳で二級建築士、60歳で一級建築士の資格を取得。インテリアの設計を手がける中で「江戸指物(さしもの)」の技術に興味を持ち、東京の職人に学ぶようになりました。そして指物の技術を使ってティッシュボックスを作り、義理の弟さんにプレゼントしたのですが、これが世界的なオルゴールメーカーとして知られる日本の三協精機(現・日本電産サンキョー)の目にとまり、永井さんはオルゴールの箱の製作を依頼されたのです。身内に贈ったティッシュボックスがどうしてオルゴールメーカーの目にとまったのかというと、実は義理の弟さんが勤めていたのが三協精機だったのです。
オルゴールのイメージを変えた!「楽器オルゴール」製作者・永井淳さん

「箱」を研究

三協精機から自宅に送られてきたオルゴールのムーブメント(機械の部分)を調べているうちに、永井さんはあることに気が付きました。

「箱に入れると低音が消えてしまうな…」

ムーブメントを動かすと高音から中音、低音まですべての音がよく聞こえているのに、箱の中に入れてしまうと低音が十分に響かないのです。

オルゴールはきらびやかな高音が魅力ですが、裏を返せば、低音が出にくいということ。それは箱に原因があったのです。永井さんはオルゴールについていろいろ調べ始めました。すると、低音の問題のほかに、音量が小さい、音が伸びないという課題があることが分かりました。それもやはり箱の構造が関係しています。オルゴールの箱は、ムーブメントを収納するためのものであって、音響のことまで十分に考えて作られていないようだということが分かってきました。

「オルゴールには『音量』『低音』『共鳴』という3つの課題があるから、音を奏でる楽器としては限界があるんです。低音が出ないから幅広い音域の曲はできないし、音に厚みもない。大きな音量がでないから広いホールで演奏することも難しい。音が伸びないからゆっくりした曲は演奏できない。だからオルゴールは精巧ではあるけれど『おもちゃ』と認識でとまってしまう。だけど、ピアノでもバイオリンでも、楽器はスピーカーを使わなくても広いホールで演奏できますよね。

私は『楽器』の域まで高めたオルゴールを作りたいと考えたんです」(永井さん)
オルゴールのイメージを変えた!「楽器オルゴール」製作者・永井淳さん

「楽器」に負けないオルゴールを開発

永井さんは、楽器の構造を取り入れ、指物の技術も使って独特の箱を開発しました。

「ピアノやバイオリンに使われている響板というものが、このオルゴールの箱にも入っています。この板は真ったいらではなくて、両端から圧力をかけて少し曲げているんです。触ってみると中央が盛り上がっているのが分かります。板にストレスがかかっていると、音が大きくなるんです。金属よりも木の板のほうが良く響く。

木は何百年たっても元の形に戻ろうとするんです。だからずっとストレスがかかって、音がよく響くんです。だから楽器やオルゴールは木じゃないとだめなんです。木の持っている力は大したものですよ」(永井さん)

永井さんが作ったシリンダー式オルゴールで音の違いを聴かせていただきました。長辺20cmほどの手のひらサイズ。永井さんのオルゴールはフタを開けてもムーブメントが見えません。上に響板が入っているからです。普通のオルゴールよりは音がよく鳴りますが、シリンダー式オルゴールは箱本体が小さいので音量はやはり小さめです。

オルゴールのイメージを変えた!「楽器オルゴール」製作者・永井淳さん

そこで永井さんは3段重ね(小・中・大)の「共鳴箱」を作りました。高音・中音・低音、それぞれが増幅するように作ってあるこの共鳴箱の上に乗せると…。音が劇的に変化しました。まず音量が全然違います。はじめのかわいらしい音が、まるでスピーカーを使ったようなボリュームに変わりました。そして低音までしっかり聴こえてくるので音が一気に重層的になりました。そして音に広がりと奥行きが出てきたのがはっきりと分かります。
オルゴールのイメージを変えた!「楽器オルゴール」製作者・永井淳さん

オルゴールのイメージを変えた!「楽器オルゴール」製作者・永井淳さん

スタジオにはシリンダー式のほかにも、金属の円盤で音を鳴らすディスク式オルゴールや、穴の開いた細長い紙を使って音を出すペーパー式オルゴールも持ってきていただきました。電動のオルゴールも作っていて、それだと曲のスピードが変えられたり、タイマー演奏ができるそうです。

永井淳さんのご感想

オルゴールのイメージを変えた!「楽器オルゴール」製作者・永井淳さん

久米さんがあんまり知識が豊富なのでびっくりしました。私が話そうとしたことをみんな知っていました(笑)。オルゴールについて勉強なさったんでしょう。また、私をできるだけリラックスさせようという久米さんの気持ちが伝わってきました。

奥様はどういうふうに思っていらっしゃいますかという質問はどうやって答えようかと…。うっかりしたことを言うと大変だから答えませんでしたけど(笑)。今度は趣味のクルマの話をもっとしたいですね。ありがとうございました。

◆9月7日放送分より 番組名:「久米宏 ラジオなんですけど」
◆http://radiko.jp/share/?sid=TBS&t=20190907140000