TBSラジオ「ACTION」月~金曜日の15時30分から生放送。金曜パーソナリティは武田砂鉄さん。

11月8日(金)のゲストは映画監督・作家の森達也さん。
今月15日から、映画『新聞記者』のドキュメント版で、東京新聞の望月衣塑子記者の姿を追った『i 新聞記者ドキュメント』が公開されます。本日は映画の話を中心に、作家と編集者の間柄でもあったという武田砂鉄さんがお話を伺います。

武田:今回の『i 新聞記者ドキュメント』観させてもらいましたが、森さんが映画の半ばで「なんで望月さんが注目されてるのかが分からなくなる」とおっしゃったシーンが印象的でした。望月さんは世の中的にはスター記者ですが、それが入り口で撮影していく中で、どういう変遷があったのかなと。

森:この話もなんとなく受けてしまったんですよね。僕そういうの多いんですよ。『FAKE』も自分で選んだ被写体じゃないし、『A』のオウムもあの頃のテレビってオウムしか取り上げないし。能動的じゃないんですが、撮ってるうちにいろいろ思いますね。砂鉄さんの言うシーンって、その前に外国人記者が「あなたってアメリカだったら普通の記者だよね」という会話をしていて。

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森:「”政治権力に関して質問する。答えがよく分からなかったら重ねて聞く”という当たり前のことをしているのに、なぜ日本ではそれがこんなに注目されるのか」という話をされていて。
これって望月さんがすごいんじゃなくて、周りが地盤沈下しているから彼女が浮き上がるんですよね。メディアやジャーナリズムが地盤沈下するって民主主義にとってはかなりの損失ですよね。

武田:望月さんへの質問妨害というのも話題になっています。望月さんが質問してある程度時間が経つと、「質問は簡潔にお願いします」と。質問って簡潔なものと説明が必要なものとがありますよね。それって質問の可能性の大部分を奪っていることですよね。

森:妨害が入るのってほぼ彼女の質問だけなんですよね。

武田:菅官房長官側は「事実に基づかない質問はやめてくれ」という言い方をしますね。でもインタビューって「こうかもしれないですけど、どうですか?」みたいに聞くわけです。だから事実に基づいた質問って、質問なんてできないですよね。

森達也が警鐘を鳴らす「自由に発言できない空気」

森:質問する意味がないですよね。

武田:でもそこに対する怒りみたいなのは伝わってこないですよね。

森:その場面で言ったら、事実に基づいた質問をしていないという前提で彼らが言っていたのは、沖縄の赤土の問題ですね。事実は50%が赤土で、事実に基づいていないわけでもなんでもなくて。だから結局のところ、彼女の質問が目障りで、そういう質問を排除したいという意識が表れているんだと思います。

武田:実際に赤土が使われて、写真も複数提示されていて、規定である10%を超えていると。それで「事実に基づかない」って言われたらどうしたらいいんですかね。

森:本当だったら彼女のあとに、ほかの記者がどんどん質問するべきなんだけど、なぜか沈黙してしまうらしいですね。

武田:この映画を観ていても、「タブーをぶち壊す」みたいなことじゃなくて、ただただやりたいことをやる映画だと思いました。

森:東京国際映画祭で上映したときに、中国のメディアの人からインタビューを受けたんだけど、彼は10年ぶりに日本に来て様子がすっかり変わってしまったとびっくりしていました。あと、「中国には共産党があるから言論も表現も非常に不自由で、それは住民のほとんどが分かっている。で、日本には共産党はないけど、空気がある。

森達也が警鐘を鳴らす「自由に発言できない空気」

森:空気のもとで自由に発言したり、表現したり、報道したりということができなくなっている。でも空気って可視化できないから、自分たちが不自由な状態にあることが自覚できないんじゃないか」と言っていて、返す言葉がなかったですね。

武田:たしかに空気って処方箋があるわけじゃないから、どうすれば取り除けるものということじゃないですもんね。

森:空気って読むものじゃなくて吸うものですからね。

森達也が警鐘を鳴らす「自由に発言できない空気」

武田:最近は公権力が芸術作品の上映や発表を止めることが多いです。先週是枝監督にお越しいただきまして同じ質問をしましたが、森さんはこの一連の流れをどうお考えですか?

森:僕は「表現への検閲だ」って言葉に対して違和感があります。検閲という露骨なことはまだ権力側はやっていないと思います。それよりもやる側のほうが忖度や自己規制など、自分たちのほうで後退していくことが顕著で。その原因はセキュリティ意識かなと。

森達也が警鐘を鳴らす「自由に発言できない空気」

森:リスク軽減や万が一があったらみたいな意識ばかりが突出していて。一番はやらないことなんですよ。そうしたらリスクはゼロになるので。だからイデオロギーや政治的選択ではなくて、安全を選んでるんです。それによっていろんな言論が消えてますね。

武田:「これはヤバいんじゃないか」と思わせる環境に浸せば、そういった表現が出てこなくなるという読みですね。

森:そこまでの読みがあるかは分かりませんが、結果的にはそうですね。日本人は空気的なものへの感度が高いんでしょうね。周りに感応する力が強いというか。これってメリットもあるんですが、今はデメリットが非常に強く出てしまってますね。特にジャーナリズムにおいては絶対ダメですよね。自滅行為ですよね。

このほか、作家と編集者の間柄だったゆえに、若干やりにくそうな武田さんも垣間見れたり…森さん、貴重なお話をありがとうございました!

◆11月8日放送分より 番組名:「ACTION」
◆http://radiko.jp/share/?sid=TBS&t=20191108153000

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