TBSラジオで毎週土曜日、午後1時から放送している「久米宏 ラジオなんですけど」。
1月25日(土)放送のゲストコーナー「今週のスポットライト」では、東京大学生産技術研究所教授・腰原幹雄(こしはら・みきお)さんをお迎えしました。
腰原さんは1968年、千葉県生まれ。東京大学工学部で建築を学び、大学院でも研究を続けながら、同時に設計事務所で7年間実務にあたりました。現在は東京大学生産技術研究所や、理事長を務めるNPO法人「team Timberize(チーム・ティンバライズ)」で、都市に木材を使ったホテルやマンション、商業施設など「木造の高層ビル」をつくることを提案しています。
20年前からずっと同じことを聞かれてます「これから都市に木を使ってビルを建てよう。どういうお考えで、こういうことになるんですか?」(久米さん)
「それ、20年前ぐらいから同じことを聞かれて、だいぶ飽きてるんですけど(笑)」(腰原さん)
対談のお相手にはこれまで誰にも聞かれたことがないような質問をすることを信条としている久米さん。腰原さんにこう言われて動揺を隠せませんでした。木造高層ビルの話が一般の人にも知られるようになってきたのはつい最近のこと。木造高層ビルが注目されるようになるまでの流れはこうです。
日本では太平洋戦争からの復興期を迎えた1950年代以降、都市化が進んで大規模な多層・高層建築物が増えました。そしてそれらは鉄筋コンクリートや鉄骨でつくられるのが一般的になりました。木が使われるのは主に低層の住宅になっていきます。
そんな中で木造が注目されるのは1980年代。
再び木造建築が活気づくきっかけは2000年の建築基準法改正。

「山の木というものは大きくなればなるほどいいというもんじゃなくて、切り頃というものがあるんですか」(久米さん)
「ひとつは、使い勝手のいい太さまで育てましょうという話と、もうひとつは、山の役割としては光合成があるわけですよね。二酸化炭素を吸って酸素を出すというのは生物活動なので、若い木のほうが元気に活動するわけです。使い勝手のいい木と森林の活性化という意味では、ある時期に切ってあげて更新することが重要になるんです。都市にいる人というのは、日本の山がどうなっているか知らないですよね?」(腰原さん)
「たまに飛行機に乗ると驚くんです。日本列島の上を飛ぶと、ほとんど森です。こんなに森が多い国なのかと思いますよね」(久米さん)
「でも、それってすごくきれいな森だと思ってません? 現実には、戦後植えた木があまり手入れしきれなくて、荒れちゃってるんです。だけども量はある。だから木を切って更新してきれいな森、健全な森にしていかなきゃきけないわけです。

こうした流れは海外で進んでいて、世界各国に木材を多用したビルや集合住宅が次々とつくられています。カナダのバンクーバーにあるブリティッシュコロンビア大学の学生寮(18階建て)、ノルウェーにある複合ビル(18階建て、85m)、スイスの時計メーカー「スウォッチ」の本社ビル(工場や博物館、イベント会場を併設した全長240m、幅35m、高さ27mの巨大オフィスビル。設計は日本人・坂茂さん)。
また、さらにスケールの大きいも超高層木造ビルのプロジェクトも続々と発表されています。例えば、シカゴ(80階建て)、ロンドン(80階建て)、ストックホルム(130m住宅用高層ビル)。
日本でも住友林業(350m、70階建て。2041年完成予定)や大林組(10階建て、純木造。2020年3月着工、2022年竣工予定)がプロジェクトが発表されていますが、まだまだこれからというところです。
「森林資源が豊かな国は〝自分のところの木でこんなことができるんだ〟というアピールをするわけです。

上の写真は東京大学生産研究所の腰原研究室にある木造高層ビルの模型です。腰原さんは、山の木のいろいろな使い道をもっと考える必要があると言います。いまは需要が少ないので、切られないまま太くなってしまった木がたくさんあります。それをいざ使おうとなるとだいたい木造住宅の柱になるので、太い木をわざわざ細く削って細い柱として使うことになります。これはもったいないですよね。太い木を太い柱として活用する使い道があれば、そういうムダは少なくなるでしょう。高層ビルを木でつくれば、太い柱の需要が生まれます。
「いま山に木が余っている状態なんです。
また腰原さんは、伝統的な木造建築のように1000年もつ建物をつくる一方で、山の循環のために40~50年サイクルで伐採し環境負荷の少ない木造のつくりかたを考えることを両輪でやっていくことが大事だとも言います。腰原さんは、東京オリンピックのスタジアムもすべて木造にして、大会後はそれを解体し、柱を再利用して跡地に住宅街をつくるというアイデアも提案していました。長持ちするのがいい木造建築というのはひとつの価値観であって、再利用を繰り返しながらずっと木を使い続けるのもまたひとつの価値観です。
「実際に木造のビルが建ってみなさんが体験できるということが大事なんです。日本で木造ビルが盛り上がらないのは、体験ができないから。いくら『木造はいいね』って言っても、体験したことがない人には伝わらないんですよね。だから久米さん、5階建ての豪邸でも建てたらいかがですか?(笑)」(腰原さん)
腰原幹雄さんのご感想

都市に木造の高層建築ってできるんですか?って、もう20年前からずっと同じ質問をされて飽きていると言ったら、久米さんを動揺させてしまいましたね(笑)。2000年代に入って、最初は木造を研究している本当にコアな人たちしか知らなかった時代が10年ぐらいあって、2010年頃から木造に興味のある工務店とか建築の人たちがやり始めて、去年ぐらいから木造のことを知らなかった一般の人たちが興味を持ち始めて、木造がいまこういうふうになっているということに気づいてくれるようになったんじゃないかなと思うんですよね。
実はそのステージが大事で、久米さんのように木造を使う側、発注する側の人たちが「木造ってそんなことができるんだ」とか「だったら木造に住みたい」って言ってくれるようになるには、今日みたいな機会があってよかったと思います。そういえば、今日は木の話をするのにスタジオには木が全然なかったですね。テーブルだけが木でしたけど(笑)。
久米さんは、木とはどういうものかというを感覚的に持っていらっしゃる。久米さんみたいに木造に住んだことがあると本当に木の良さが分かるんですけど、いま日本ではそれを体験する場がないんです。自分が経験した木の良さというものをみなさんが伝えてくれるといいなと思います。だから、やっぱり久米さんに木造5階建ての豪邸を建てていただくといいんですけどね(笑)。
◆2月1日放送分より 番組名:「久米宏 ラジオなんですけど」
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