TBSラジオ『アフター6ジャンクション』の看板コーナー「週刊映画時評ムービーウォッチメン」。ライムスター宇多丸が毎週ランダムに決まった映画を自腹で鑑賞し、生放送で評論します。
今回評論した映画は、『チャーリーズ・エンジェル』(2020年2月21日公開)。
宇多丸:
さあ、ここからは私、宇多丸がランダムに決まった最新映画を自腹で鑑賞し評論する週刊映画時評「ムービーウォッチメン」。今夜扱うのはこの作品。『チャーリーズ・エンジェル』。
(曲が流れる)
アリアナ・グランデがね、初の本格的な映画音楽というかね、主題歌とかも含めて参加してるんですよね。1976~81年にテレビドラマとして人気を博し、2000年と2003年にはキャメロン・ディアス、ドリュー・バリモア、ルーシー・リュー主演で映画化もされました、『チャーリーズ・エンジェル』。今回が三度目の映画化ということになります。
国際機密企業チャーリー・タウンゼント社に所属する……まあ元々はね、探偵社っていうことでしたけども、今回の設定ではかなりデカくなってる、という設定です。チャーリー・タウンゼント社に所属する女性エージェント、通称「エンジェル」たちが、新エネルギー開発の裏に潜む陰謀に迫る。新たなエンジェルを演じるのは、『トワイライト』シリーズなどのクリステン・スチュワート、実写版『アラジン』のナオミ・スコット、本作が本格的映画デビューとなるエラ・バリンスカさん。『ピッチ・パーフェクト2』などで監督も務めた俳優のエリザベス・バンクスが本作の監督も務め、出演もしている、ということです。
ということで、この『チャーリーズ・エンジェル』をもう見たよ、というリスナーのみなさま、<ウォッチメン>からの監視報告(感想)をメールでいただいております。
賛否の比率は「褒め」が6割、「否」が4割、ということでございます。主な褒める意見としては、「最高のガールズ・エンパワーメント映画。新エンジェルたちが皆、美しい。彼女たちを見ているだけで満足」「過去シリーズにリスペクトを払いつつ、世界観やテーマを現代風にアップデートしていて見事」「旧シリーズのキャストや思わぬスターのキャメオ出演も嬉しかった」などがございました。否定的な意見としては、「テンポの悪い構成。突っ込みどころ満載の脚本。平凡なアクションと、全体的に物足りなさが残る出来。前回のマックG監督版にあった抜けのよさがない」「作品のテーマをセリフで説明しすぎ」などがございました。
■「最近のガールズ・エンパワーメント映画の中でも群を抜いて最高でした」(byリスナー)
代表的なところをご紹介しましょう。まず褒めてる方。ラジオネーム「カメ」さん。「最近のガールズ・エンパワーメント映画の中でも群を抜いて最高でした。こんな映画を待ってました。正直、鑑賞前は旧シリーズのあの感じ……女性が男性にフックアップされ、その庇護の下で活動する。お色気シーン多め。は、今の価値観に合わないんじゃないかと思い、見るのをためらっていたのですが、思いっきりちゃぶ台をひっくり返されました。
冒頭のシーンからこの映画の伝えたいメッセージがセリフのやり取りで提示されます。私はクリステン・スチュワート演じるサビーナのセリフを聞いてはっとさせられました。女性は自分のやりたいことを自分の意思で選んでいいのです。男性に許される必要は無いんです。
でもそれ以上にあそこまで女性が男性を、文字通り全ての男性をやり込める映画を見れて、とても嬉しくなりました。今までさんざん男性のための男性が喜ぶ映画がつくられてきたのだから、こんな映画があってもいいんじゃないでしょうか。男性に女性を性的に消費させない『チャーリーズ・エンジェル』のような映画がこれからもつくられ続けますように」というカメさんでございました。
一方、ダメだったという方。「シムシム」さん。「残念ながらこれはいまいちと結論付けざるをえないでしょう。テンポの悪い脚本と編集。鈍重なアクションシーンとダラダラ続く会話劇。そして何よりシリーズに貢献してきたあのキャラクターの、ああいう使い方。
「本国での評価もむべなるかなと感じてしまいました。そしてナオミ・スコットが訓練をするエンディングを見て感じたのですが、強い女性像をあそこまで画一的に描く必要があるのでしょうか? 強い女性像が求められるのは良いとしても、その『強い』とは何を意味するのかについて、もうちょっと踏み込んでほしかったです。ナオミ・スコットの役柄は劇中で『MITで主席となるほどの秀才』として紹介されます。とすれば、わざわざ肉体的な強さを求めずとも、エンジェルとして活躍できる資格や強みは十分にあるはずです。
『私もエンジェルになりたい』と思って劇場に足を運んだ女の子たちが『自分には自分のよさがあって、それでエンジェルになれるんだ』とした方が断然、現代的なメッセージ性を帯びるのではないでしょうか? 時代的な流れは間違いなく『チャーリーズ・エンジェル』シリーズの方にあったはずなのに、それを生かすことができなかったのはもったいないとしか言いようがありません。(大コケしたため)続編は難しいかもしれませんが、折に触れてその時々の強い女性像が見える娯楽作として、今後も続いていってほしいシリーズだなと思います」というシムシムさんでございました。

■ その時代その時代に女性たちをエンパワーメントする役割を果たしてきたとも言える『チャリエン』フランチャイズ
はい、ということで『チャーリーズ・エンジェル』。私もTOHOシネマズ六本木とTOHOシネマズ日本橋で2回、見てまいりました。どちらもちょっとシアターとしては小さめでしたが、そこそこ入っていったかな、という感じがします。
まあ僕ぐらいの世代、歳でギリ、オリジナルのドラマシリーズ『地上最強の美女たち! チャーリーズ・エンジェル』をテレビで見たことがある世代かな、っていう感じがしますね。
特にまあ、オリジナルドラマシリーズはやっぱり、ファラ・フォーセットが大ブレイクするきっかけとなった作品としても有名ですね。で、さらにこのフランチャイズが今も多くの人の記憶に強く残っているのは、やはり2000年代初頭の、ドリュー・バリモアがね、出演だけでなく製作も兼ねた映画シリーズ二作の功績は、やっぱり大きいわけですよね。
監督マックGの、とにかくコメディ的なバカバカしさ、ケレン味を押し出した、味の濃ゆい演出がですね、たとえば一作目は97年かな、『オースティン・パワーズ』とか、あとは『オーシャンズ』シリーズとかも入れてもいいかもしれません、あのへんなどとも通じる、ちょっとレトロ風味……音楽の使い方とかも含めた、レトロ風味な時代的トレンド感ともちょうどフィットしていた、という。
あるいは『マトリックス』以降の、ワイヤーを多用した、いわゆる現実離れしたアクションの流行などとも、ちょうどその『チャーリーズ・エンジェル』は、テイストが合って。要はすごく「2000年代初頭感」あふれる二作でしたね。まあ大変に見ていて楽しい作品になっていた、という風に私は思います。あとまあ、ルーシー・リューのキャスティングで、そのエンジェルたちの人種バランスが、時代の進歩と共にアップデートされていた、というのも大きなポイントじゃないでしょうか。
ちなみに、2011年にも1回、新たなテレビシリーズ『新チャーリーズ・エンジェル』っていうのが始まっているんですが、視聴率がめちゃめちゃ低迷して、もう即打ち切りになっちゃった、ということがございました。これはちょっと僕、すいません、現状では見られていないんですが。日本でも一瞬、テレビでやっていたりしたんですけどね。
実際そのエリザベス・バンクスさんは、俳優としてのみならず、特にあの『ピッチ・パーフェクト』シリーズを、プロデューサーとか監督として成功に導いた実績もありますから。まあ特に昨今、フェミニズム的なメッセージがブロックバスター的なエンターテインメント大作にもガンガン盛り込まれるようになりつつあるこの時代に、そもそもその時代その時代に女性たちをエンパワーメントするような役割を果たしてきたとも言える『チャリエン』フランチャイズのですね、その最新アップデート版を担う人物として、エリザベス・バンクスさんというのは、まさに打ってつけだった、ということは言えると思います。
■最初から最後までフェミニズム的メッセージが前面に押し出された作り、そこをもってオールOK!となってもいいんだけど……
まあ実際、今回の『チャーリーズ・エンジェル』……ちなみに今回はリブートではなくて、前の映画二作や、なんならオリジナルテレビシリーズとも一応連続した世界ですよ、ということになっている作品なんですけど、とにかくその今回の『チャリエン』。これこそやっぱり、エリザベス・バンクスさんがやりたかったことなんでしょうね。本当に冒頭から最後まで、文字通り全編にわたって、フェミニズム、ガールズ・エンパワーメントなメッセージが、ちょっと露骨なぐらい前面に押し出されたつくりになっています。
なので、先ほどのメールにもあった通り、そこをもってまずはオールOK!という方がいるのも、もちろんそうかもしれないなと思います。
たとえばオープニング、クリステン・スチュワート演じるサビーナというキャラクターが、クリス・パンという方が演じている東洋系の金持ち男……僕は勝手にマックス松浦似だと思っちゃいましたけども、金持ち男と対峙しているという、最初から始まる会話が、すでにもう完全に、要は「お前ら、女なめんなよな」っていう内容ですよね。で、実際にまんまと、女性だからと油断しきっていた男性陣を、さっき言ったクリステン・スチュワートのサビーナ、そして今回、大抜擢されましたエラ・バリンスカさん演じるジェーンなど、要はエンジェルたちが、バッタバッタと、事もなげになぎ倒していく。
で、そこからサビーナが、ものすごく荒唐無稽な感じでこう、ヘリコプターに乗っかりつつ、投げキッスをして……で、そこにおなじみのテーマが流れている、という。このぐらいまでは、なるほどこれは新時代の『チャリエン』、ガールズ・エンパワーメントな時代の『チャーリーズ・エンジェル』だ、というワクワクも、ちゃんとしっかりある。「ああ、このバカバカしさはすごい『チャリエン』っぽいし、いいな!」っていう感じがしたんですね。
ただですね、まず今回、例の、『チャーリーズ・エンジェル』と言えばこれでしょう!的な……要するに『007』と言えばあのシルエット・オープニングでしょう!的な、そのチャーリーの声によるメンバー紹介オープニング、「テーレレー♪」っていうあれ(テーマ曲)が流れてくる、これをですね、やってくれないんですよね。
で、その代わりに、さっき言ったそのヘリコプターに乗っかっていくシーンの後に続くのは、これは実際の、ドキュメンタリーチックな映像というか、世界中の少女たちが生き生きとやってます!みたいな感じの、まあ非常にこのガールズ・エンパワーメントっていうのを、ものすごく分かりやすく……悪く言えば非常に説明的に表現したモンタージュが、しかもすごく唐突に、いきなりこれが始まるわけですね。はい。
「How It's Done」っていう曲に乗せて、そのモンタージュが流れるんですけども。それで、そこからタイトルが出る、という。もちろんね、そのメッセージとしての正しさ、というところに僕は疑義を挟んでいるわけではないんですけども。それにしても、ちょっといきなりそういうメッセージ性を、あまりにも説明的に表現した映像が、しかも非常に唐突に出てくる、というところで僕は、それはメッセージの伝え方としては、いくらなんでも安易なんじゃないか?っていう風に、正直ちょっと鼻白んでしまったんですね。その段階で。
あと、そのおなじみのオープニングをやらなかった、というのもですね、今回はある意味「エピソードゼロ」でもあるので、最後にとってあるのかな?とも思ったんです。だからずっと見てたんですけども、「ああ、やっぱないんだ」っていう感じで……もちろん、先ほどのメールにもあった通り、ひょっとしたらそもそもこの『チャーリーズ・エンジェル』という設定が持っている、「チャーリーという力を持った男性の、結局はそのしもべたちである」というその構造を、嫌ったのかもしれない。で、一応今回の『チャーリーズ・エンジェル』は、最後の方でこのチャーリーという存在に対して、一ひねりを一応、提示してはいるんですけども。
でも僕は、「だとしたら、そもそも『チャーリーズ・エンジェル』なんかやらなきゃいいじゃん」っていう風に、ちょっと思わざるをえないし。
■志は立派だし、主演の3人も魅力的。だが、もろもろが中途半端
あと、だったら最初からそのチャーリーを、「今回はもうチャーリーも女性です!」って、シレッと提示すればいい話じゃないですか、別に。だから何て言うのかな、『チャーリーズ・エンジェル』をやる意味もなければ、なんかそのひねった設定も、「えっ、じゃあなんでそんなことしてるの?」って感じにもなっちゃって……っていう感じで。とにかくこれは、『007』のシルエットオープニングがない、みたいなもんで、少なくとも『チャーリーズ・エンジェル』としては、誰だってがっかりしてしまいますよ。これはツボを外してる。
だから要するに、「フェミニズム的なメッセージと(『チャーリーズ・エンジェル』本来の設定やお約束を)両立させる」っていうことを、工夫するべきですよ。そうした上でやるべきだし。だから、「(お約束のオープニングが)ないのかよ?」っていう感じで、大変がっかりした。たぶんそういう人は、世界中に多いと思うんですね。で、事程左様にですね、今回の『チャーリーズ・エンジェル』は、そのフェミニズム的、ガールズ・エンパワーメント的メッセージを込める、というその志は立派だし、主演の3人もそれぞれに個性的ですごい魅力的。すごくいいんです。
特にやっぱり、クリステン・スチュワートが非常にワイルドに演じるサビーナ。キャラクターとして、最高に立っている。クリステン・スチュワートがまあたぶん、いろんなアドリブとかもあるのかな、すごくいろいろ工夫していて。ファッションの着こなしとかも含めて工夫してやっていて、彼女が出てくるだけで楽しい、っていう部分はたしかにあるし。あと今回抜擢された、エラ・バリンスカさん。非常に手足が長くて、しなやかな体躯を持っている。それを生かしたアクション、非常に美しいし。
あとね、『パワーレンジャー』とか『アラジン』でも非常に好演していました、ナオミ・スコットも、少なくとも今回のエレーナという役には……彼女のあの、驚き・戸惑い顔がすごくいいんですよ。目を見開いて驚いたり、戸惑っている顔が大変キュートな方なので、合っていると思うし(※追記:放送時には触れ忘れてしまいましたが、発表会の直前、RUN DMC『It’s Tricky』の一節をラップして緊張をほぐす、という本筋とは関係ないくだりなども、個人的には楽しいディテールでした)。なので、要はアップデートされたメッセージ、その志やよし。だし、主演の3人もすごくいいんです。なのに……っていう感じで。
まずその、『チャーリーズ・エンジェル』ならではの楽しさ、たとえばあれやこれやのコスプレをして職業擬装をするという、そのバカバカしい楽しさの部分だとか、あるいはやっぱり『チャーリーズ・エンジェル』ならではのケレン、荒唐無稽な、振り切った、カラッとした愉快さ、みたいな方向では、あんまりツボを押さえてくれないんですね。コスプレもあんまりしない、っていう感じだし。
あとちなみに今回の『チャーリーズ・エンジェル』、銃をガンガン撃つんです。なんなら銃で撃ち殺しもしているんですね。これは正直、すごく『チャーリーズ・エンジェル』っぽくないです。銃は撃たない、マーシャルアーツ、自分たちの身ひとつで戦う、っていうところが『チャーリーズ・エンジェル』なんだ、という風に、たしかドリュー・バリモアもそこをこだわって作った、って言ってたはずなんですけども。そこも「ぽくない」あたりだったりしますけど。
かと言って……じゃあ、いい。今までの『チャーリーズ・エンジェル』らしさは捨てても、それとは違う最新型女性アクションとして何か突出したものがあるか?っていうと、そっちとしてもかなりヌルい仕上がり、と言わざるをえない。やたらとグラグラするカメラに、せわしない編集で、とにかくすぐにカットを割ってしまう。アクションをひとつながりの流れとして見せないから、アクションとしてのすごさ、みたいなものも伝わってこないし。
あと、ところによってはなんか、編集が上手くないのか、つながりがよくわかんない流れがあって。「あれ? この人、なんでいつの間に車に乗っているの?」とか、「いつの間にここにいるの?」みたいな、つながりがよくわからない流れも多かったりして。アクションシーンがとにかく、かなりヌルい仕上がり。少なくとも女性アクションとして、『アトミック・ブロンド』や韓国映画『悪女/AKUJO』があれだけの水準を示して以降、このレベルではとてもとても……という感じになっちゃってると思います。
■見せ場に新鮮味がなく話運びもガタガタ
そして何より、各見せ場に新鮮味が全くない上に、お話運びがグダグダ、ガタガタで。「なに、結局今までの大騒ぎは何だったの?」っていう風に、見ているこちらも何だかよく分からなくなってくるような、ピントが著しくボケた内容になってしまっている、という。だからつまり、『チャーリーズ・エンジェル』的でもなければ、だからといって違う方向でも面白くはなっていない、という、非常に中途半端な内容になっちゃっている。
たとえばですね、本作におけるまさに「マクガフィン」、要するにみんなが奪い合うお宝である、「カリスト」という装置が出てくるわけです。で、それを盗み出すために、3人とも変装して会社に潜入する。まあ、とても『チャーリーズ・エンジェル』らしい見せ場になっておかしくないくだりですよね。でもまず、その潜入の手口が、単に関係ないおじさんからIDを盗んでピッとするだけ、なんですよ。前の『チャーリーズ・エンジェル』だったらたぶん、おじさんに変装する、ぐらいの感じだと思うんだけど。ねえ。LL・クール・Jに変装までしてたんだから。
それが、IDを盗んでピッとするだけ。で、盗み出すくだりも、何のサスペンスも盛り上がりもない。ただ単に、みんなが見ていない時にこうやって持ち出すだけで、単にこの会社の警備がザルなだけ、にしか見えないわけですね。で、これはちなみに、クライマックスでもそうで。部屋に閉じ込められたキャラクターがどう救出されるのか?っていうくだりで、単に敵が、その場をお留守にしているうちに、鍵をスリ取られて、ガチャッて開けるっていう……単純にこの段取り全体がつまんねえよ!(笑)っていうことになっちゃっている。
で、まあとにかくその、会社に潜入するシークエンス。結局1個だけ手に入れたその大事なカリストという装置。まあ、これを取るために入ったわけですね。それをどうするか?っていうと、単に「シャッターを開けるためだけ」に、使い捨ててしまうんですよ。「じゃあ今までの騒ぎって何だったの? これを取りに入ったのに、それを今、使い捨てちゃうってどういうことなの?」っていう。しかも、シャッターが開くだけ、なんですよ。そして、がっかりな着地なだけではなく、ここの場面は、特に罪もない人の命を奪う結果にもなってしまっている。
もちろんね、人の死をギャグにするタイプのエンターテイメント映画っていうのはありますよ。僕も好きですよ。たとえばロジャー・ムーア時代の『007』とか、あとシュワルツェネッガーはだいたい、99%がそういう映画ですよ(笑)。だけどこの『チャーリーズ・エンジェル』の、このシーンでの人の死はですね、その後もやたらと「その人を死なせてしまった」っていうことを話題にするわりに、ギャグにしたいのか何なのか、単に後味がふんわり悪い、というだけにしかなってなくて、全く意図が不明な感じです。後味が本当に悪い。
■とにかくピントがボケすぎてて……ただし最終勝利のロジックやエンドロールはメッセージ性とケレンが合致していたりもする
あるいはですね、中盤の見せ場ですね、イスタンブールの競馬場に潜入する、という、やっぱりこれも『チャーリーズ・エンジェル』らしい、コスプレとか荒唐無稽な展開が期待できるシチュエーションですよね。ちなみにその前、エレーナが、「あなたは死んだことになってるんだからバレないようにおとなしくしてろ」とか言われるのもですね、なんかよくわかんない。「えっ、どこで死んだってことにされてたんだっけ? 車が水没したくだり? でもその後、会社に潜入とかしてるしな……」って。
まあ、よくわかんないんですよ。とにかく一事が万事この調子なんで、全部に突っ込んでいるとキリがないんですけども。とにかくその競馬場。差し当たっての悪役が、カタールの王子と一緒にいる、なんてことを言うんですね。そうすると、そのエラ・バリンスカさん演じるジェーンがですね、麻酔銃で狙撃……まあ、急に狙撃しだすのもよくわかんないんだけど、麻酔銃で狙撃をしようとするんですけど、「普通に失敗する」んですよ。別にアクシデントが起こったわけでもなく、「普通に外す」んですよ。なんだそりゃっていう感じなんだけども。
まあとにかく悪役たちを乗せた車が出発しちゃった、ということで、慌ててサビーナが馬で追いかけるわけ。まあ、馬も当然出てくるでしょう。「これは馬vs車の、『ジョン・ウィック3』ばりのチェイスが始まるのか?」と思いきや……特にそれはなく。追跡のための、なんか信号装置みたいなのを投げて、ペチーンって貼り付けて終わり、なんですよ。馬を使うの、ここだけなんですよね。なんかがっかり……って感じだし。それでまあ、追跡装置を付けたんですよ。
じゃあ、その追跡装置のピコンピコンってなってるレーダーとかを追うのか、って思うじゃないですか。でも、普通に車で頑張って追跡しているんですよ。「いや、追跡装置、付けたんでしょう? 頑張らなくていいじゃん!」っていう感じなんだけどさ(笑)。追いかけている。それで行き着く先が、いかにも悪党が取引等に使いそう、そして銃撃戦とかが始まり、石を砕くベルト上で格闘とかが起こりそうな……で、実際にそうなる、っていう採石場に行くんですね。つまり、非常に陳腐なロケーションで、そこを実際に陳腐化した使い方しかしない、っていう。
で、この時点で、さっき言ってたカタールの王子云々は、どっかに消えています! だからもう、本当によくわからない。で、その後も、とあるキャラクターがその場から突然姿を消して、後に疑惑の的になる、というくだりがあるんだけど、後からいろいろと真相なるものを説明するくだりがあるんだけど……「いや、お前がその場を去ったことの説明には一切なってないから!」っていうことだったりする。で、またその採石場で、またですよ、まーたシャッターを開けるの開けないので、ゴチャゴチャとやっているんですよ!(笑)
あと、せっかく麻酔銃を使ってるっていうはずなのに、人死にばかり出て、何の成果もない、っていうことになって。だからとにかくピントがボケまくってて、ちょっと理解に苦しむ、イライラさせられる。「今のくだり、何だったの?」っていう……そのくせ起伏にも乏しい、という展開が延々と続く。で、まあ辛うじてね、そのクライマックス。パーティー会場に乗り込んできたサビーナとジェーンがね、やおらそこで、ステップをビシッと決める!という。そこはまあすごく『チャーリーズ・エンジェル』らしいケレンが一瞬あって……でもまあ、そんぐらいなんですね。こういうのをもっと全面展開すればいいのに、っていう感じなんです。
それで後はもう、さっき言ったように、その監禁から解放が、全く盛り上がらない!っていう。鍵をただスって、ガチャッと開けるだけ。あと、悪漢たちが、エレーナに金の首輪をつけるんですね。これは分かります。「女性を従属的な存在におとしめようとしている」というのを記号的に、メタファーとして使っている、というのはわかりますが、物語上の必然性が全く示されない……なにせ、その金の首輪に鎖がついているんですけど、その鎖を、途中ではもう、誰も持ってないんですよ。持ってないまま部屋に放置されて……だって、この女の人がこの機械をプログラミングしたんでしょう? それを置いていっちゃうんですよ。なんかいろいろ油断しすぎじゃないか?っていう。
とにかく、よくわからない。まあ、最終的なそのチャーリーズ・エンジェル側の勝利のロジックとか、あとエンドロールで、歴代エンジェルであるとか、あるいはさまざまなジャンルで活躍する女性たちが出て来くるくだりとか、まあそのエンパワーメントというメッセージと『チャーリーズ・エンジェル』的なケレンっていうのが、一応一致してる感じもするところも、なくはなくて。もっとこのテンションで全体をやればいいのにな、という風には、エンディングに至って思った次第です。
■次があるならもっと良くなる可能性も秘めていたのに……もったいない
まあエリザベス・バンクスさんですね、アメリカの『SUN』という新聞のインタビューに答えて、「もしこの映画がヒットしなければ、ハリウッドで『男性は女性のアクション物を見に行かない』というそのステレオタイプ(偏見)を助長してしまうよ」なんてことを言っていたんですけど……ただ、今回のその『チャーリーズ・エンジェル』、興行的にも大コケしましたし、そしてその評価的にも大不評なんですけど、僕はそういう問題じゃないと思うんですよね、これ。
端的に、まずその『チャーリーズ・エンジェル』という題材のツボを外してしまってる、ということと、後は各見せ場の質がぶっちゃけ中途半端で著しく低いから、ということに尽きるという……つまり、メッセージとしての正しさは、作品としての良さを全面的に担保するわけではないですからね、っていうことに尽きると思うんだよな。ただ、全部が悪いわけではない。見ていて楽しいとこもあるし、っていうところで僕、この微妙なバランスは、『エージェント:ライアン』とかを思い出しました(笑)。ケネス・ブラナー(監督)のね。あれも一作で終わっちゃいましたけども。
ということで、主人公、主演の3人は、大変魅力的にキャラクターも立ってたし、まあ「エピソードゼロ」的なところもあるので、ぶっちゃけ次があるなら、もっと良くなる可能性はある作品でもあると思います。その可能性は全然秘めている作品だと思うんです。ただ、あまりにもやっぱりコケてしまいましたし、それもむべなるかな、な出来なので。まあ、次はないということでしょうね。
なので、ちょっとこれはもったいないかな、志はいいと思うだけに……っていう感じだと、僕は結論づけざるをえない感じです。ただ、僕が言っているような、「またシャッター?」みたいな感じで(笑)、いろいろと突っ込んで見るのは楽しいかもしれません。ということで、コロナウィルスの影響とかいろいろあるとは思いますが、落ち着いたあたりでもいいですからね、皆さんぜひぜひ劇場、もしくはいろんな形で、ウォッチしてください!
(ガチャ回しパート中略~次回の課題映画は『1917 命をかけた伝令』です)
以上、「誰が映画を見張るのか?」週刊映画時評ムービーウォッチメンのコーナーでした。

◆2月28日放送分より 番組名:「アフター6ジャンクション」
◆http://radiko.jp/share/?sid=TBS&t=20200228180000