ライムスター宇多丸がお送りする、カルチャーキュレーション番組、TBSラジオ「アフター6ジャンクション」。月~金曜18時より3時間の生放送。
『アフター6ジャンクション』の看板コーナー「週刊映画時評ムービーウォッチメン」。ライムスター宇多丸が毎週ランダムに決まった映画を自腹で鑑賞し、生放送で評論します……
が、今週は宇多丸多忙につき、特別企画。TBSアナウンサー山本匠晃が独自の目線で映画を語る特別編、「山本フードムービーウォッチメン」。今回で評論した映画は、『Swallow スワロウ』(2021年1月1日公開)。その全文書き起こしを掲載します。

山本匠晃:
さて、今夜の週刊映画時評ムービーウォッチメンはお休みいたしまして、代わりに私、山本匠晃が独自の目線で映画を語る「ヤマモト・フードムービーウォッチメン」をお送りします。作品は、こちら!『Swallow スワロウ』。
(曲が流れる)
『マグニフィセント・セブン』や『ガール・オン・ザ・トレイン』などのヘイリー・ベネット主演のスリラー。ニューヨーク郊外の邸宅に暮らす主婦のハンターは誰もが羨むような暮らしをしている一方で、孤独で息苦しい生活をしていた。そんな中、ある日ふとしたことからガラス玉、ビー玉を飲み込んだ彼女は、異物を飲み込むことで多幸感を抱くようになっていく。日本では1月1日から公開中で、私もこちらの作品、見てきました。宇多丸さんも見ていただいたということで。
宇多丸:はい、拝見しました。
山本匠晃:では、始めてよろしいですか?
宇多丸:ぜひぜひ、お願いします。もうあなたの好きなように!
■「飲み込む」ことがやめらない主人公が一番最初に飲み込んだものとは
山本匠晃:すいません(笑)。私、見まして。とにかくやっぱりフードシーンというか、食事をするシーンが大好きでして。この『Swallow スワロウ』というのは主に……もうポスターにも予告編にもたくさん出てますけども、「飲み込む」ということがやめられない女性の話なんですけれども。とにかくいろんなアイテムをもちろん飲み込んでいくんですよね。そこの描写とか意味合いとかを見たり考えたりするのがもう本当に楽しくて、もう大好きな作品でございました。なので、それをちょっと切り取っていけたらなという風に思っております。
まず、この映画紹介にもあったんですけど、予告編でも映っていて印象的なガラス玉、ビー玉を飲むっていうことがあるんですけど。あのね、今の紹介にもあったように「ふとしたことからガラス玉を飲み込んだ彼女」と言ってるんですけど、僕はまず、その前に飲み込んだもの、そのシーンがもう素晴らしい。お見事!っていう。
宇多丸:えっ、ビー玉の前に飲み込んだもの?
山本匠晃:ビー玉の前にすでに始まっていたっていう風に思うシーンがあったんですよね。それが、氷。
宇多丸:はいはい、はい!
山本匠晃:もう、あそこのシーンでグッと心つかまれちゃって。「来た来た来た、来たーっ!」って。あそこでもう、僕の中ではスワロウが始まったんです。もうね、一連の所作が本当に味わい深いシーンでして。まず、その氷の方から見ていきたいと思うんですけど。
まず、このスワロウをしていくきっかけっていうのは、映画紹介にもあったんですけど、新婚の家庭で、主人公はその妻で。お金持ちの家族と夫。で、その夫の両親と外食のディナーの場で氷が登場するんですけど。
やっぱりそこって気遣いだったりとか、緊張感だったりとか、嫁ですから、そういうのがもう渦巻いてるわけですよね。で、そんな中で、しかも夫とその両親の会話に入れない状態がずっと続けていて。
宇多丸:ちょっとお父さんがさえぎってね。デヴィッド・ラッシュさんがまたね、憎々しいっていうか、なんか取り付く島もない感じなんですよね。
山本匠晃:そうなんですよね! 最高の演技なんですけども。
■主人公の置かれた不安定な内面を象徴する「氷」
山本匠晃:まあ、そんな空気の中でふとハントの目に止まったのが、目の前の透明なグラスいっぱいに入ったたくさんの氷なんですよね。ここって印象的に描写されていて。
まず、その絵作りなんですけど、画面いっぱいに映るグラスの中の氷の集まりがあって、で、氷がライトで照らされてキラキラキラキラってするわけですよ。で、ゆっくりゆっくり、画面の中でそのいっぱいの氷が溶けていくんですね。で、ここで音が入ってくる。もうすっごく繊細な音。
宇多丸:氷の中の空気がちょっと溶けてる時にパチパチするやつですね。
山本匠晃:氷の中の小さい空気、気泡とかっていうのが弾けて鳴るような音。皆さんも人生で聞いたこと、あると思うんですけど。なんか超高感度マイクで拾わないと無理なような、本当に繊細な無数の音が鳴り始めるんですね。で、ここでグーッとカメラが氷に寄っていって。
宇多丸:ゆっくりズームしていきますね。
山本匠晃:ズームしていきますね。で、氷を見つめるハントをなんか、誘い込んで呼んでるような画面というか、音づくりっていうか。
宇多丸:彼女の目線でこう、引き込まれているわけだ。
山本匠晃:グーッと引き込まれている。
宇多丸:溶けることによってね。それもよくあることですけど。ちょっと動くっていうことですかね?
山本匠晃:そうです。じわりじわりとひとつひとつの氷がポジションを変えることで、全体のバランスとか動きにも繋がっているような、生きているような、そんな感じ。で、あれはずっと撮り続けて、早回ししたのかわからないですけども。その後に本当にもうはっきりと、氷が集合体全体としてグラスの中で回りだすんですよね。グーッと。「あれ? 回っている? 回っているぞ?」みたいな。
これ、ゆっくり撮り続けて、それを倍速で見せてるのかわかんないですけども。渦巻くように回転していくわけです。氷の塊が。ブワーッと。「なんだこの動き?」みたいな。かなり速く動いている、みたいな。実際にこんなことあるのかな?っていうぐらい。で、そのゆっくりと渦巻く氷に吸い込まれていきそうな画。数秒のそのシーンがすごく魅惑的に映っているんですよね。で、次の瞬間、パッと画面が変わって、その食事をしていた円卓のディナー全体の画に戻るや否や……。
宇多丸:ちょっと引きの画になるんだよね。
山本匠晃:引きの画になって、ハントと家族が映っていて。画面左の端に座っているハントがもう急に何かに取りつかれたように……あんなにお行儀よく気を遣っていたのに、氷を手づかみして、ガッ!って。で、口の中に放り込むんですよ。それで間髪入れずにそこで咀嚼。ガリガリガリッ! ボリボリボリッ! ジャリジャリッ!って。
宇多丸:結構な音が鳴り響いて。
山本匠晃:結構な音。もうはっきりと。ガリガリ、ボリボリ、ジャリジャリ、ザクザクみたいな。もう無数の音を出すわけですよ。響くわけですよ。で、その瞬間、ハントに無関心で会話を続けていた義理の父と母、そして夫の会話がフッと止まるんですよ。で、ハントは気づいたように「あ、ごめんなさい」って。行儀よく座り直すんですね。みんな驚いて、不思議で、苦笑してるみたいな。その時のハントの表情が、そこまではずっと気遣いして気まずそうにしてたのに、「ごめんなさい」って言って恥ずかしそうにした後に、開き直ったようにフッと満足とか安心とか満ち足りた落ち着きを見せるっていう。ここから「うわっ、スワロウ、始まってる!」みたいな。「この効果、なんだ?」みたいな。ハントの中で。
宇多丸:「やっちまった」よりも満足感が勝っている?
山本匠晃:「やっちまった」の後に瞬時に満足感みたいな。「なに、この微妙な演技? 名演だ!」みたいな。引き込まれちゃうんですよね。
宇多丸:あと、そういうさっきの音の演出……その、引き込まれて。で、引きの画でレストランのザワザワした感じ。こっちではビジネスの会話みたいなのを続けてるんだけど、フッと切れるみたいな。フッと切れるっていうのをこの映画はちょいちょい効果的に使うじゃないですか。だから、それでも1発目だ。
山本匠晃:そうです。咀嚼音がバッと出てくる。咀嚼音で切り裂くみたいな。で、これ思ったのが「氷」という選択なんですよね。氷だったんだ。なんで氷を選んだんだろう?ってすごく気になって。自分で勝手に考えたんですけど。やっぱり均衡がとれて一見、きれいに見える氷の集まりがあって。それがじっくり溶けて変化していって。氷ってそのままの形は保てない。いつかそんなきれいな形は無くなる。水になっちゃう。
どこか、なんだろうな? 外見はいい子に振る舞ってる、うまく見せようとしてるハント。でも、氷と同じく……「そのままじゃ、もう無理が来てるよ。このままの生活は無理だよ。一過性でしかないよ。このままじゃハントって精神が保てなくなるよ」みたいな。「保てない」っていう部分でなんか氷はハントとかぶっているのかな?って思ったり。キラキラして見えた、そんな風に想像していた新婚生活が始まって、希望に満ちていたんだけど蓋を開けてみると「あれ? こんなはずじゃなかった。なんか限界を迎えてるよ」みたいな。
傍から見ると優雅な豪邸暮らしなんだけど、実はそれは外側だけで。内情は不安定でグラついてて。もう脆さが出てきてる、みたいな。そんなハントに目の前に登場した氷っていう存在がすごく、すごく印象的で。その状況をふいに、氷がハントに伝えたような、その氷の様子を見て、なんかハントはどう思ったかわかんないですけど、突きつけられたような部分もあるのかなって。で、無意識の現実逃避なのか、それを食べちゃうみたいな。ウワッ!って食べちゃう。そしたら「あれ? 意外とほっとしたな」みたいな。そんな一連の動きに僕は見えて。考えてみるとすごく楽しそうだったんですよ。
宇多丸:いやー、でも聞くと「そうかもな」っていう感じ、してくるね、これね。
■初めて主人公が発した「声」=咀嚼音
山本匠晃:あと、ディナーの場で氷を食べるっていう行為って、何だろうな? 初めてハントがここで咀嚼音という「声」を出したんじゃないかなっていう。新婚生活がスタートして初めての強い主張に見えたんですよね。ハントが初めて1歩、踏み出した。もう、意図していないのに。自らの意思が表に出た瞬間が、この氷を掴んだ瞬間。掴みだした瞬間なのかなって。なんかそんな気がする。
ディナーのその場で、その氷を食べる前にハントは「あの例の話、話してよ。あれ、面白かったからさ」って夫に振られているんですよね。「自分の父と母に聞かせてやってよ」みたいな。それで振られてハントがいざ、「ああ、やった!」って話し始めるんだけど、結局ちょっと聞いて……もう上の空で聞いてるから、その夫と義理の母父はいつの間にか、ハントの話は聞かずに別の話を始めているみたいな。そんなことがあっての氷食いだったんですよね。
だから、「私もいるんだよ。なんで私の話、聞かないの? なんで私に関心がない?」がグーッと溜まって「氷を食べる」っていうアクションに繋がっているようにも見えた。噛み砕く音とか主張した。3人の会話を切り裂いたような役目をしていて。その咀嚼音の意味ってすごく重いのかなっていう風に思って。で、最近で言うと、2020年の山本の個人的なシネマランキングに入れた『ボーダー 二つの世界』を思い出したんですよね。
あの『ボーダー』でエスカルゴの中身を吸い出す。チューチューチューって食卓で。で、そのチューチューチューって吸い出す音だけ鳴り響くみたいな。そこでシーンとして同居人を黙らせるみたいな。
宇多丸:ずっとね、同居人に対してちょっと控えていたあれがね、ついに「これ、私の家よ? 好きなように食いますよ」っていう風にね、主張している感じだもんね。
山本匠晃:はい。そうですね。あのフードボイスで主張するみたいな。シーンとさせるみたいな。なんかそういうシーンだったんですよね。
宇多丸:でも、まさにそういうことじゃないですかね。この氷のシーンも然りね。
山本匠晃:しかも氷っていうのが、なんか日常的にそのままなかなか食べることはないんだけども。別に食べられるし。食べる人もいるのかなっていう絶妙な、微妙な……口にしてもおかしくないけど積極的には食べないっていう狭間のアイテムというか。
宇多丸:あと、福田里香先生的に言うなら、栄養もないし、腹に溜まるわけではない。
山本匠晃:ただの水っていうことなんですけどね。だからここでね、ハントはいろんな気づきがあったと思うんですよね。ものを口に入れて、舌に触れさせて、歯に当たって、形をたしかめて、固さをたしかめて、噛んで……その全ての感覚・感触。そして飲み込むことで得られる安堵感。自分だけの方法に無意識で気付いた。そんな場面だなという風に思うんですよね。
で、予告編でも出てきてる「私、特に金属の冷たい感触が好き」っていうセリフがあるんですけども。やっぱりこの「冷たさ」ってこの氷から来てるんじゃないかなって。癖になったんじゃないかな、頭にインプットされたんじゃないかなって思います。そんな氷のシーンでしたね。
宇多丸:いやー、すごい。皆さん、まだビー玉手前ですからね? すごい。さすが!
■ビー玉を飲み込むことで見せる、まさに「腑に落ちた」表情
宇多丸:でも、たしかにおっしゃる通り、実はその後のシーンのセッティングというかね。「こういう意味ですよ」も含めてね。「彼女にとってこういう意味を持ってますよ」も含めて、もう完全におっしゃっている解釈そのものですね。
山本匠晃:だから見事な助走だなと思って。しびれましたね。氷というチョイス。で、その氷の後に待っているのがビー玉なんですけど。予告編とかでもいろいろ映っていますけど。このビー玉はなんというか、ある本当に、本当にふとしたきっかけでビー玉を口に入れよう。飲んでみようかなっていう。本当に些細なきっかけだったんですけどね。まあ、それはちょっと作品でご覧になってほしいんですけど。それでチラッと光るビー玉が目に入って。この一連の所作がまたいいんですよね。
見つめて、手にとって、少し上に掲げてじっくり眺めるんですね。ビー玉を。そうすると、ビー玉が画面いっぱい広がってアップになるんですけど。外見、ツルンときれいで。でも、そのビー玉は中を覗くとプレーンじゃないんですよね。赤い帯みたいなものがうねっているような柄で。なんかすごく、もうその時点で怪しげに見える。怪しい魅力を放っているような、なんかもう「ああ、この柄のビー玉を選んだか!」みたいな。もうたまらないですよね。そこからもうワクワクしだすんですけども。
で、そこからスワロウを始めてしまう怪しさとか危うさとか。魅惑的な……そんなものが中に詰まっているな柄なんですけど。これをゆっくり口に運んでいく。で、わずかに開いた口からちらり見える舌、ベロがあるんですけど。ハントはもう完全に舌でビー玉を迎えに行くんですね。で、その形とか質感とか口当たりとか冷たさとか、じっくり感じ取りたい。感じ取りたいと思っているアクションがもう、その口のアップの画でわかるっていうか。「うわっ、すごい演技だな!」って思う。
で、「氷が教えてくれたあの感覚をもう1度」って絶対思ってるはずなんですよ。それで氷から今度はガラスへという流れなんですけど。そのビー玉が舌の上に乗る。口を閉じる。同時に歯に当たる音がカチッ、カチッ、カラカラ、コロコロ……なんか、ちょっと大きめの丸い飴を食べた時のような、それを口に入れた時のような。駄菓子屋で買った飴。カラカラ、カラカラっていう、あの音。なんか軽快な音が響いて。それでゆっくり口を閉じるハント。しばらく飲み込まない。
口の形をしっかりビー玉を包むように、大事にそっと口を閉じて。なんかハントはずっと感じてるんだな。口の中でじっくり……ちょっと数秒、あるんですよね。その空間……「口の中」という空間でしか味わえない、そのものの存在感を確認するような静かな時間がある。まだ飲み込まないんですよね。もう名演だと思って。で、ここから初めてのスワロウ。ゴクッと飲むんですよ。
宇多丸:異物飲み、これね。
山本匠晃:異物飲みが始まるわけですよ。「あっ、飲んだ……」。BGMもない。もう静寂の中、飲んだ。で、スーッとハントは立ち尽くして遠くを見てるんですよ。立ち尽くしている。静寂に包まれて。その時点で「あっ、ビー玉。なるほど。フォルムからもそうだけども、意外となめらかに入ったんだな」っていう。
宇多丸:ああ、そうか。「痛い」とかがなくてね。この後のスワロウと比べても、まさにね。こっちはスムースでしたね。
山本匠晃:スッと入った。立ち尽くしているその状態。明らかに飲んだ後の、しかも経過を感じ取りに行ってるような表情。
宇多丸:要するに、食道から下りてる、下りてる……っていう。
山本匠晃:そうです。重力によって口から喉、食道、胃へと運ばれていく。
宇多丸:冷たいからね。
山本匠晃:そう。そのビー玉の旅を感じ取っているような。「どこにいるんだろう? 大丈夫かな?」みたいな。
宇多丸:しかもこれさ、ちょっと補足だけどさ。冷静に考えて、さっき仰った音とか演技だけで表現しているんだよね。本当に飲んでいるわけないんだから。
山本匠晃:そうなんですよ! しかも、セリフもないんですよ。やっぱりハントの中での問題だから。
宇多丸:だからこれ、ヘイリー・ベネット、すごいよね。
山本匠晃:すごいですよ! もう怪演、名演というか。で、ビー玉が体内を進むにつれて……ずっと静かなんですよ。ずっとじっとしてるんですけど、進むにつれて徐々に顔に変化が。浮かび上がる顔の和らぎなんですよね。不安げから和らぎへ。不安、安堵、安心、満足、達成感みたいな。この繊細な顔の表情が数秒で演じられているこのすさまじさ。それこそ、まさに腑に落ちた表情というか。「ああ、これだ! 自分にとっていいわ、これ。これだ!」っていう風に合点がいったような発見。これがね、いいんですよね。で、飲むだけじゃないじゃないですか、宇多丸さん。この後も、いっていいですよね?
宇多丸:ああ、もちろん。大丈夫。
山本匠晃:で、ここからですよね。どうしよう?
宇多丸:あ、ビー玉のその後?
山本匠晃:ビー玉のその後! えっ、大丈夫なのかな?
宇多丸:いや、いいんじゃない。そこまでは。
山本匠晃:たぶんそのような予告編でしたよね。
宇多丸:全然大丈夫。うん。いいでしょう。いいでしょう。私が許可しましょう(笑)。勝手に。
■飲み込んだものを出して、それを慈しむまでがワンパッケージ
山本匠晃:それで、ビー玉を飲むことで……「飲む」っていう作業は溜まった、鬱屈とした気持ちとかを抑え込むっていう意味もあったのかなって。言いたいことを口に出さない分、グッと自分の中でこらえるためにも飲み込む作業をしたんじゃないかっていう、その表情。なんか安堵感みたいな、ほっとした表情を見るとすごく感じ取れて。ああ、スワロウの意味ってそんなところにあるのかな?って思ったんですけど。で、飲むだけじゃない。もう1歩踏み込んで、ビー玉を出すんですよね。
宇多丸:まあ、いつかは出ますからね。
山本匠晃:出すんですよ。これが大事で。トイレで用を足して、まさかのビー玉ピックアップみたいな。
宇多丸:ええ。やおら、ゴム手袋をして。「なにをするのかな?」って思ったらね。
山本匠晃:そうなんです。見つけた瞬間、あの反応。安心感と同時に浮かぶあの表情が異様っていうか。満ちる達成感みたいな、不思議な満足感だなって。これって、言いたいことが言えない日々で我慢して飲み込むんだけど。自分の意見も気持ちも飲み込む。物も飲み込む。でも、本当は言いたいことを言いたい。吐き出したい。だから、物を飲んで我慢して。でも、こっそり吐き出せた。出せた!っていう意味合いもあると思うんですよ。
だから彼女の中で大きな意味がある。身体的な面は別として、「出せた」という達成感。抗えない日常を受け入れるためにグッと飲み込んで、独り言のようにその物をこっそりと出す。そこで晴れ晴れしてるっていう、この心を保つ異様な方法がここで成り立つっていうことですよね。ハント自身の中の消化法。だからこそ、実際これも予告編でチラッと映っていたんですけども。出したものをなんとトレイに並べていくんですよ。
宇多丸:1個1個、並べていく。
山本匠晃:飲んで出したものを。彼女の中でそれらっていうのは、何か賞状とかトロフィーを飾るみたいな感覚。自分の成果っていうか。出した後のビー玉の持ち方もそうなんですけど。出したビー玉を持つ時って、落とさないように手のひらで包み込むように、囲むように。すごく大事に運ぶんですよ。やっと手に入れたメダルみたいな。「私の証なんだ」みたいな。
なんかね、そこの飲むだけじゃなく、出すまでがワンパッケージみたいな。なぜ、それを必要とするのか? いろんな意味合いを考えるのも楽しいなっていう。ああ、ダメだ。全然まだちょっと……違うんです、違うんです。もっと、画鋲もあるし。大好きな大好きな物体が……これは言えないんですけど。予告編には出てないんですけど。もう後半戦で僕、大好きなのが2つ、出てくるんですよ。
宇多丸:大好きな物体。
山本匠晃:大好きな物体が2つ……ヒントで言うと、盗み食いっていうか、盗み飲み込み。盗み食い、盗み飲み込みしているものがある。盗みスワロウしているところがあるんですよ。周囲の人にスワロウがバレて、それで「やめろ!」って言われているんだけども、人目を盗んで盗みスワロウしている。この2つの物があるんです。それがね、すごく大量であったり、咀嚼するとすごい音が出るような物。この2つ、大好き! ああ、ちょっと待って? もう時間ですよね。ちょっと待ってください。これ、すごいのよ。すっごくいいのがある……。
宇多丸:いいですよ。大丈夫。残りの時間でぜひぜひ。
山本匠晃:どうしようかな? その2つのシーンって食べる時の姿勢とかも異様だったり。口に入れた時の音とか咀嚼音とかもすごく異様で。あと、食べる環境。場所がどこか?っていうのもすごくて。あと、たっぷりとした量。異物のドカ食いみたいなことをするわけですよ。もうなんか、むさぼるように食べるっていうか。この2つをね、ぜひ見てほしいんですよ。
宇多丸:スナックみたいに食べてる時もあるもんね。
山本匠晃:スナックみたいに食べる時もあるんですよ。ひとつはもう大量に袋に入っている何かなんですけど。大量に袋に入った何かをどこかに隠して、それを取り出して。もうむさぼり食うっていうか。あと、ある場所から持ってきた物。運んだ物をガッと広げて。その広げる場所もすさまじいんですけども。なんていうんだろうな? そのイメージとしては、やけ食いっていうか。ドラマでいうとよく見るのが、失恋してお菓子をやけ食いする女子みたいな印象なんですよね。
宇多丸:本来はね、彼女も普通にスナック食べてる、やけ食いしている瞬間もあったのにね。
山本匠晃:そういうシーンもあるんですよ。それがね、もうすごい場所ですごい姿勢で食べるんですよね。「かわいい」とすら思ったんですけど。「よしなさい!」っていうぐらいの、その音とかも……ああ、「締めて」というカンペが。すいません。もうこれはダメだな……。
宇多丸:いやいや、全然ダメじゃないよ! すごかったよ! 少なくとも『Swallow スワロウ』の前半に関しては素晴らしい。実はこの後もある映画ではあるけども、そこはネタバレにも触れますからね。
山本匠晃:そうですね。これで最終的にそのハントの生活がどうなるのか? それからスワロウという依存。これがどうなるのか? そしてこの作品の中で最後に飲んで最後に出すものってなんなのか? 決着はつくのか、つかないのか? ぜひ、皆さん。この映画、フード目線でウォッチしてください。映画『Swallow スワロウ』でございます。宇多丸さん、ありがとうございました!
(ガチャ回しパート中略 ~ 来週は宇多丸が復帰。そして課題映画は、来週も『Swallow スワロウ』に決定!)

以上、「誰が映画を見張るのか?」 週刊映画時評ムービーウォッチメンのコーナーでした。
◆1月15日放送分より 番組名:「アフター6ジャンクション」
◆http://radiko.jp/share/?sid=TBS&t=20210115180000