W杯での悔しい経験を、五輪で晴らすためにやってきた
縦横無尽にピッチを駆け回り、攻撃の軸となる長谷川 photo/Getty Images
─前回の東京オリンピックではベスト8、2023年W杯でもベスト8とメダルまであと一歩というところで敗退してしまいましたが、そのとき何を思いましたか。またその経験を今回のパリオリンピックでどう活かしたいと考えていますか。
「前回のオリンピックの時にはチームとしてやりたいことがほとんどできずに負けてしまったなという感じがありました。
─東京オリンピックの時は右サイドや左サイドなど、色々と試合によってポジション変更がありましたが、やっぱり中央のボランチのポジションの方が長谷川選手としてはやりやすいと感じていますか。
「そうですね。当時はボランチというか、トップ下気味で、少し前めの中盤のポジションが自分にとって一番特長を生かせるポジションかなと思っていました。でも現在では、ボランチで前も後ろにも絡んでいけるというポジションの方が自分の長所を生かせると感じています。今回は普段からチームでやっているポジションを代表でもできることをポジティブに捉えていますし、すごく楽しみな気持ちが大きいです」
─東京オリンピックの時とはポジションが変わり、長谷川選手自身のプレイも変化したと思いますが、今のなでしこの強みや逆に課題と感じている部分はありますか。
「これまで日本は一対一では難しいからプラスワンの状況を作らなくちゃいけないという戦い方をしていましたが、今は日本人もフィジカル的に長けている選手が、特に若い子は出てきているなと感じています。同数でも守れたりする部分はあると思うので、そういう部分は強み。世界と同じ戦い方もできるようになって、そういう強みを活かした前線からのプレスなどはできるようになっていくんじゃないかなと思っています。またチームとしてはいろいろなフォーメーションにチャレンジしている中で、パターンが増えてきているので、試合中に戦い方を変更できるという点はすごくプラスなんじゃないかなと思っています。
「でもフィジカル的に長けている選手がどんどん出てくることによって、やっぱり考えてプレイする選手が少なくなってくる傾向があると感じています。そういうところは自分だったり、いつも一緒にやっている(清水)梨紗などがしっかり伝えていければいいなと思っています。フィジカルに長けた選手が考えていないというわけではないですけど、そういう傾向になってきているのかなと感じるところはあるので、そこの日本人の良さっていうところも受け継いでいけたらいいなと思います。あとは個人戦術も大事だと思うので、チームの戦術だけではなくて、守備時や攻撃時を含め、試合中の状況判断や個人戦術の部分も高めていかなければならないと思います」
─メダル獲得への道筋だったり、メダルを獲る、優勝するためにチームに求められる必須条件などありますか。
「正直今のチームのままでは優勝できるというところまでいけていないと思っています。どの大会でも強いチームはその大会の中で成長していって、勢いも含めて、それが優勝につながるという印象があります。前回のW杯の時は自分たちがいい試合をすることで、自信がついて次の試合でもいいパフォーマンスができたという経験もあるので、優勝するためには大会中の成長というのが1つ鍵になるかなと思います。オリンピックのような大会は期間が短いぶん、修正も大事になってきます。本大会前の親善試合などで試してきたことを修正していく必要もあると思います。ポジティブなエネルギーというかよかった部分をどんどんお互いに引き出すということも大切になってくるかなと感じています」
ブラジルには負けない 日本の強みを活かせる試合に
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昨年の女子W杯では世界王者スペインに4-0と大勝。カウンター戦術がハマった photo/Getty Images
─グループステージで対戦するスペイン、ブラジル、ナイジェリアに関してのそれぞれの印象を教えてください。
「まずスペインは上手くて強いという印象のチームで、本当に今世界で一番強いチームじゃないかなと思っています。
「ナイジェリアはここ最近対戦していない感覚ではあるんですけど、やっぱりアフリカのチームって身体能力に長けていて、本当にトレーニングでは追いつけない身体能力の差はあると思っています。だからそこを埋めるための予測だったり、先に動くこと、特に頭を使った部分で対応していかなくてはいけない。まだチームとしてサッカーをするという意味では日本の方が組織として強いのかなと思うので、そこを生かして1つのカウンターに気をつけて戦いたいなと思っています」
「ブラジルは最近何回かやっているので印象には残っていますが、正直親善試合でやった感覚であれば、負けてはいけないチームかなという印象です。でも点が取れない試合が続いていたりもしていて、本大会でもそういうことはあり得るので、まずは自分たちがしっかり先制点を取ることが特にブラジルに対しては大事かなと。あとはマンツーマンのイメージがあるので、それを逆手にとった3人目の動きだったり、日本が得意な部分をどんどん生かせる試合になっていくんじゃないかなと思います」
─短い大会の中では初戦が大事になってくると思います。その初戦が強敵スペインになりますが、どのように感じていますか。また初戦で気をつけるべきことはありますか。
「もちろん勝ち点3を目指さなくてはいけないですし、初戦でそれが取れるかどうかは本当に重要なところだと思います。でもあまり焦りすぎずというか、いろいろな戦い方があると思うので。
─今回のなでしこジャパンのオリンピックメンバーには10代の選手が2人いたりと、若い選手も多いですが、大舞台経験者としての長谷川選手の視点、ピッチ内外での取組みや役割の変化、心境の変化などはありますか。
「そうですね……。なでしこに選ばれた当時、19、20歳の時から自分のプレイでチームの中心になりたいっていう思いはあったので、心境の部分ではいい意味で変わらないかなとは思います。昔からそういう気持ちではやってきましたけど、今はよりいいパフォーマンスをしなければいけないなと感じているのと同時に若い子だけではなく、全員がよりプレイしやすくなるためにはどういう風にしたらいいかなと考えてプレイするようになりました」
「でもやっぱり年齢が上の選手に対して意見を言うのをまだ遠慮している若い選手もいるので、できれば全員が意見を言い合えるチームになれるように心がけています。自分が思ったことはその場で相手に伝えるようにしていて、相手の意見も聞きながらどういう考えを持ってプレイしているのかをピッチ上でしっかり聞くようにしています。ピッチ外の部分でいうと、そこまで気を遣って話しかけよう、などはしていないです。若い選手からベテランの選手までみんな仲が良くて、これはもちろんキャプテンの(熊谷)紗希ちゃんを中心にそういうチーム作りができているからだと思うので、それはすごくこのチームの長所だと思います」
─多くの人がなでしこの戦いを楽しみにしていると思います。個人として、またチームとしてオリンピックで注目してほしいアピールポイントを教えていただけますか。
「チームとしてはW杯でもテレビ上からも伝わる一体感だったりもすごく大事だということを経験できたし、たくさんの人に応援してもらっているなっていう感覚を自分自身も感じることができて、見ている人たちも応援したくなるようなチームでありたいと思っています。まずはそういう気持ちが表れる戦い方をしたいなと思っていますし、そういうところを見てほしいなと思います。でもサッカーとしてはW杯を見ていた人たちにそこから1つレベルアップをした自分たちを見せたいので、勝ち切るってところを見せたいです。
─最後にパリオリンピックへの意気込み、目標を教えてください。またサポーターに向けて一言お願いいたします。
「もちろん、結果として金メダルというところを目指して戦いたいと思っています。でも本当に1つ1つの試合に向けていい準備をして、そこでチームとしても個人としても成長していくことでその結果が決勝だったり、金メダルに繋がってくると思っています。目標は金メダルですけど、目の前の1試合1試合に集中してプレイすることを忘れずにやっていきたいです」
インタビュー・文/高木航平
※電子マガジンtheWORLD(ザ・ワールド)第295号、7月15日配信の記事より転載