■日本マクドナルドの株価がついに上場来高値を更新
約1カ月前の6月15日、日本マクドナルドホールディングス(以下、日本マクドナルド)の株価が上場来高値(6,270円)を付けました。2001年7月の株式上場以来、約19年目での高値更新です。
6月中旬と言えば、3月の株式相場大暴落からの株価回復がいったんピークを付けた頃です。実際、日経平均株価を見ると、3月19日に付けた安値16,358円(ザラバ値、以下同)を底に、6月9日には23,185円まで約+7,000円戻しました。株式市場全体が急回復したのですから、日本マクドナルドの株価が上昇しても何ら不思議でないと思われるかもしれません。
しかしながら、今もジャスダック市場という新興株式市場に上場する日本マクドナルドは、日経平均株価やTOPIXに連動した値動きを示すものではなく、むしろ、個別要因で動く銘柄と考えるべきでしょう。つまり、6月中旬にかけて日本マクドナルドが上場来高値更新となる何らかの理由があったと考えられます。
一体、何があったのでしょうか?
日本マクドナルドホールディングスの過去2年の株価推移

拡大する
■実は非常に高い収益力を有しているかもしれない日本マクドナルド
結論から言うと、それまであまり明らかにならなかった日本マクドナルドの高い収益力が「期待先行」という形で評価されたためと考えます。そして、その隠れていた高収益力を表面化させたのが、一連のコロナ禍によるテイクアウト(持ち帰り)の大幅増加でした。
振り返ると、感染拡大が本格化した3月中旬からの約2カ月間、政府による緊急事態宣言や地方自治体からの“強い”休業要請により、ほぼ全ての飲食店が休業や営業時間短縮を余儀なくされました。さらに、いわゆる“3密”を回避するため、店内飲食を休止してテイクアウトに変更せざるを得ない状況でした。
ファストフード業界も例外ではなく、日本マクドナルドも約1カ月間(注:地域によって異なる)はテイクアウトのみの営業となったのです。そして、その月次販売動向が発表されると、サプライズとも言える事態が判明しました。
まずは、その月次販売の実績を見てみましょう。
■コロナ禍で売上激減が続く外食産業で“ほぼ一人勝ち”
ファストフードを含めた小売消費業界で重要な指標は「既存店売上高」の対前年同月比であり、とりわけ「客単価」の対前年同月比が最重要と言われています。
今年1月以降の日本マクドナルド既存店売上高、客数、客単価の対前年同月比は、同じ順序で以下の通りです。
- 1月:+2.6%、+1.5%、+1.0%
- 2月:+14.7%、+9.2%、+5.1%
- 3月:▲0.1%、▲7.7%、+8.3%
- 4月:+6.5%、▲18.9%、+31.4%
- 5月:+15.2%、▲20.7%、+45.3%
この実績を見てお分かりの通り、コロナ禍の影響で客数は大幅減少となったものの、客単価はそれを補って余りあるほどの大幅増加となり、売上高も大幅増加となりました。
他の飲食店やファストフード店が売上激減を強いられた中、日本マクドナルドの好調さが際立ったと言えます(なお、ケンタッキーフライドチキンの日本KFCHDの4月・5月の既存店売上高、客単価も大幅増でした)。
そして、3月に急落した日本マクドナルドの株価が一転、上場来高値更新まで上昇し始めるのが、驚異的な4月実績が出た頃からなのです。
それにしても、5月実績のように、客数が▲20%減少しながら客単価が+40%上昇するというのは、常識的には少し考え難いものがあります。この時期、日本マクドナルドが値上げを実施した事実はありません。確かに、季節限定の新商品が好調だったようですが、これは毎年のことなので、客単価の大幅上昇を説明するには不十分です。
その理由は店内飲食の客数が激減したことにありそうです。
■午後3時頃を境に客層が一転するマクドナルドの店内
マクドナルドの店舗に行くと分かりますが、ランチ時を除けば、平日は午後3時くらいまで意外に空いており、静かな一時を味わうことができます(注:店舗所在地によって異なる)。
しかし、午後3時以降になると客層が一転し、帰宅途中や学習塾に行く前の中高生の“溜まり場”と化します。最近は小学生も散見されます。
さらに、もう少し遅い時間になると、退社後のサラリーマンによる“残業場”となります。マクドナルドは電源コンセントが完備されている店舗が多いため、パソコン作業には非常に適しています。
そして、こうした午後3時以降に登場する客の多くは、1杯100円(Sサイズ)や150円(Mサイズ)のコーヒーしか注文しません。たまにチキンナゲットやフライドポテトを買う人もいますが、かなり少数派でしょう。筆者も、スマホのアプリのクーポンでMサイズのコーヒーを120円で購入し、2時間近く仕事をしています。
■不採算客の一掃とテイクアウト増加が客単価の大幅上昇を引き起こした
筆者を含め、こうした多くの客が、店の収益に貢献していないのは明らかです。それどころか、足を引っ張っている可能性が高いと言えましょう。
コロナ禍の影響でマクドナルドが店内飲食中止に踏み切った4月~5月は、こうした客が一掃されたわけですから、客単価が大幅上昇したのは、ある意味で当然とも考えられます。
また、テイクアウトの高い利益率も容易に推察できます。なぜならば、コーヒー1杯とかハンバーガー1個をテイクアウトする人は極めて少なく、「ビッグマックセット」のような高付加価値商品を注文するケースが多いと考えられるからです。さらに、テイクアウトは一度に複数個の注文が多いことも理由の1つです(たとえば家族3、4人分)。
コロナ禍の時期、マクドナルドの採算性は大幅に向上したと考えていいのではないでしょうか。
■注目は第2四半期決算(4-6月期)、高収益力が日の目を見るか?
ただ、5月に発表した日本マクドナルドの第1四半期決算(1-3月期)は、コロナ禍に対応すべく諸費用が増加したことで、+5%増収にもかかわらず最終利益は▲15%減益でした。
しかし、前述したテイクアウト増・不採算客減の効果が本格的に表れるのは第2四半期(4-6月期)です。8月中旬に予定されている第2四半期決算は、今までにない大きな注目が集まりそうです。
さて、冒頭で記したように、6月12日に株価は上場来高値を付けましたが、その後は停滞しています。現在は、その高値から▲10%前後安い水準(5,500円前後)をウロウロしている状況ですが、店内飲食の再開を契機に株価がピークアウトしたのは皮肉とも言えます。
もし、日本マクドナルドの株価が再び上場来高値を更新するような場面があるならば、それは今春に起こった営業時間短縮のように、社会経済活動が再び停滞する時期なのかもしれません。
【参考資料】月次 IRニュース( https://ircms.irstreet.com/contents/data_file.php?template=1553&brand=74&data=278032&filename=pdf_file.pdf )(日本マクドナルドホールディングス株式会社)