新型コロナウイルスの蔓延は多くの上場企業の株価に影響を与えましたが、今回は国内自動車メーカーの中でも時価総額の大きさでランキング上位の4社を取り上げ、コロナ禍前後の株価を紹介し、値動きの違いについて簡単に説明しようと思います。
■時価総額ランキング上位の中でもここまで違う!4社の株価パフォーマンスを比較!
今回取り上げる会社は以下の4社です。
- トヨタ自動車<7203>(時価総額:33兆2000億円)
- 本田技研工業<7267>(時価総額:5兆7600億円)
- 日産自動車<7201>(時価総額:2兆3000億円)
- SUBARU<7270>(時価総額:1兆5900億円)
※時価総額は2021年12月2日ベースの概算
こうしてみると、時価総額ランキング上位メーカーといっても、その中でも数字に大きな開きがあることがわかりますね。上記したメーカーの名前はたくさん聞くことがありますが、トヨタの時価総額がSUBARUの20倍以上、日産の15倍近くあるなんて知ると、なかなか驚きですよね。
では、肝心の各メーカーのコロナ禍前後の株価を見てみましょう。

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上のグラフは、コロナ禍前の株価水準として2020年1月6日(大発会:その年最初の取引日)の終値を1とした、株価のパフォーマンスを表しています。
株式投資をしている人であれば、「同じ業種は同じような株価の値動きを見せる」という印象を持っているかと思いますが、こうしてグラフを見てみると、明暗が分かれていますね。2020年の3月下旬に期間中の最安値をつけていたのは4社共通です。しかしその後、トヨタやホンダは好調な持ち直しを見せてコロナ禍以前の株価を上回るパフォーマンスを見せている一方、日産やSUBARUは持ち直しの動きが鈍いです。
個別にポイントをまとめると以下のようになります。
■トヨタ
コロナ禍を受けた2020年3月時の株価下落率は相対的に小さく、その後は右肩上がりに長期安定して持ち直し、2021年12月時点でコロナ禍前の株価を30%以上上回っている。
■ホンダ
トヨタ同様にコロナ禍以降株価は好調に持ち直し、一時はコロナ禍前と比べても20%近くの値上がりを見せた。ただ、2021年9月以降は上昇が鈍り、2021年12月時点でコロナ禍前をわずかに上回る水準に落ち着いている。
■日産
2020年3月時の株価下落率は4社の中で最大。その後急速に持ち直すも、コロナ禍前の株価水準をなかなか上回れないでいる。
■SUBARU
2020年3月時の株価下落率は日産ほどではなかったものの、持ち直しの動きが長期的に鈍く、2021年に入ってからはパフォーマンスが最下位となった。なお、2021年12月時点の株価はコロナ禍前と比較して20%近くも下落している。
■時価総額ランキング上位4社の業績を比較!同業でもここまで違う!
ここで、4社の売上高の四半期ベースでの推移を見てみましょう。なお、トヨタ、ホンダ、日産は会計方針上、厳密には「営業収益」ですが、簡便的に「売上高」と記載しています。

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こうして見ると、2021年3月期1Qに売上高が大きく落ち込んだのは4社共通ですが、トヨタとホンダについてはその後すぐ持ち直し、コロナ禍前の水準を安定して取り戻しています。とりわけ、トヨタに至っては若干ではありますがコロナ禍前よりも売上高が増えていますね。
一方、日産とSUBARUについてはもともと四半期ベースでの売上高のブレが大きいことから、どの程度持ち直しているのかがわかりづらい状況となっています。日産についてはコロナ禍前から緩やかに減収が続いていたこともあって、ある程度の持ち直しは見えつつも従来からの減収トレンドが継続しているように見えます。
■4社の利益動向もチェック
次に、利益動向を見てみましょう。なお、トヨタ、ホンダ、日産は会計方針上、厳密には「税引き前利益」ですが、簡便的に「経常利益」と記載しています。

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こうして見ると、より明暗が分かれていますね。トヨタとホンダは売上高と同様、すぐに持ち直しています。とりわけトヨタは売上高同様に利益もコロナ禍前を上回っており、利益率も大きく改善しています。
一方、日産とSUBARUについては売上高以上に苦戦が見て取れます。日産は2022年3月期に入って持ち直す動きが見れますが、利益率は5%未満が続いており、収益性の点でまだ懸念がくすぶっています。SUBARUについては、売上高では捉えづらかったものの、利益については長期的に減益傾向が続いており、コロナ禍前からの収益性悪化が不安材料となっています。
4社の業績のポイントをまとめると、以下のようになります。
■トヨタ
売上高に安定感がある。売上高と利益は現在コロナ禍前の水準を上回っており、利益率も大きく改善している。
■ホンダ
売上高に安定感がある。売上高と利益は現在コロナ禍前の水準を回復している。
■日産
売上高は不安定で、長期的に減収が続いている。
■SUBARU
売上高は不安定。利益はコロナ影響含めて長期的に減益傾向が続いている。
■まとめ
以上、国内自動車メーカー時価総額上位4社の株価・業績動向を見てきました。トヨタは売上高と利益がコロナ禍前を上回っているので、株価が好調なのも納得できますね。一方でSUBARUはコロナ禍以前から減益が続き、収益性の点で大きな懸念が残っている以上、4社の中で株価パフォーマンスが最低なのもうなずけます。
もちろん、株価は業績以外にも多くの影響を受けます。トヨタは大規模な自社株買いや株式分割も好感されていたり、一方で日産については仏ルノーや独ダイムラーとの資本関係で不透明感がくすぶっていたりと、4社の株価にはいろいろな材料が影響を与えています。
ただ、業績が大きな要因のひとつであることは間違いないので、気になる銘柄・業種があればこうして調べてみることで、漠然としていたイメージがより鮮明になり、新たな発見につながることでしょう。
■参考資料
- トヨタ自動車株式会社( https://global.toyota/pages/global_toyota/ir/financial-results/2022_2q_summary_jp.pdf )の決算資料
- 本田技研工業株式会社( https://www.honda.co.jp/content/dam/site/www/investors/cq_img/library/financialresult/FY202203_2Q_financial_result_j.pdf )の決算資料
- 日産自動車株式会社( https://www.nissan-global.com/JP/DOCUMENT/PDF/FINANCIAL/ABSTRACT/2021/20212nd_financialresult_904_j.pdf )の決算資料
- 株式会社SUBARU( https://www.subaru.co.jp/ir/finance/pdf/data/quarter/quarter_data_2022.pdf )の決算資料
- トヨタ自動車株式会社「株式分割及び株式分割に伴う定款の一部変更に関するお知らせ」( https://global.toyota/pages/global_toyota/ir/stock/share/commonstocksplit_20210512_01_jp.pdf )
- 日本経済新聞「( http://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR10F4Q0Q1A111C2000000/ )独ダイムラー、ルノー株をすべて売却 資本関係( https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR10F4Q0Q1A111C2000000/ )解消」( http://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR10F4Q0Q1A111C2000000/ )