「エモい」という言葉をよく使う方も使わない方のどちらも、「エモい」という言葉が実際のところ、どういう意味なのかを正しくつかめている方は珍しいのではないでしょうか。
今回は、直近の「エモい」事例をご紹介し、「エモいとはどういうことか」について考えてみたいと思います。
■最近の「エモい」事例を振り返る
直近の「エモい」とされた事例を簡単に振り返ってみます。2021年12月6日にドン・キホーテのPBブランド商品を紹介している記事に「ドン・キホーテの「素煎りミックスナッツ」 がエモい。他社品との違いを大発見!」というタイトルがついていたり、12月14日に放映された「所JAPAN」にて、カセットテープや静岡の「ハトヤホテル」に「エモさ」を感じる若者についての特集が組まれたりと、食品から建物まで幅広く「エモい」と形容されています。
なお、特定の言葉が日常的に使われているかどうかについては、「Yahoo!リアルタイム検索」で調べてみるとわかりやすいです。「Yahoo!リアルタイム検索」はTwitterの投稿をリアルタイム検索する機能です。誰かが流行らせたい言葉は、特定のユーザーが投稿していることが多いですが、「エモい」の場合は毎ツイートごとに違うユーザーがリアルタイムで投稿していることがわかります。
ここから、「エモい」は2021年現在、日常的に使われている言葉であると言えるでしょう。
■「エモい=あはれ」の見解は過去に出されている
「エモい」とされる事例はミックスナッツなどの食べ物から、カセットテープなどの無機物、果てはホテルなどの大きな対象物にまで及びます。このように、形容する対象があまりにも幅広い言葉について、思い当たる言葉が一つあります。それは、古文で勉強した「あはれ」という言葉です。
実は、「エモい=あはれ」説は私の妄想ではなく、三省堂「「今年の新語2016」の選考結果」でも言及されています。該当部分を引用してみます。
2位の「エモい」は、エモーショナル、つまり感情が高まった状態になっていることを表す形容詞です。
(中略)
「エモい」は、感動・寂しさ・懐かしさなど、漠然としたいろいろな感情表現に使われます。古代には、これとほとんど同じ用法を持った「あはれ」ということばがありました。「いとあはれ」と言っていた昔の宮廷人は、今の時代に生まれたら、さしずめ「超エモい」と表現するはずです。
今から5年前の新語として認識されていて、2021年現在も特に違和感なく使われていることを考えると、流行語の枠を越えつつあるのかもしれません。
比較として、2016年に同じく新語として6位に選ばれた「スカーチョ(スカートとガウチョが組み合わされたもの)」は2021年現在、日常的にはまず使いません。Yahoo!リアルタイム検索をしてみても、「スカーチョ」については特定の業者と思しきTwitterアカウントが定期ツイートしている程度でした。
■流行語というよりは日本古来の心の現代的表現だった?
「あはれ」は平安時代によく使われた言葉であり、「あはれ」が示そうとしていたものについては本居宣長が江戸時代に「もののあはれ」として定義しています。「あはれ」「もののあはれ」共に、日本における「美学研究」の源流の一つともなっているものです。このようなルーツを持つ言葉である「あはれ」と似た意味を表す、汎用的な言葉である「エモい」が2010年代後半に生まれ、日常語として定着しつつあるというのは、先祖との感性の近さを感じざるを得ません。
したがって、「エモい」という言葉は単なる流行語ではなく、「やまとことば」「日本的なもの」の現代的な表現の一つとして認識した方がより適切でしょう。そうすると、「エモい」という言葉への見方も変わってくる気がします。
■参考資料
- Yahoo!リアルタイム検索( https://search.yahoo.co.jp/realtime )
- 三省堂「「今年の新語2016」の選考結果」( https://dictionary.sanseido-publ.co.jp/topic/shingo2016/2016Best10.html#senpyou )