■ 9月から願書受付開始
夏も終わりを迎えつつ、暑い中でも秋を感じる季節となってきました。夏が過ぎるといよいよ受験シーズンが到来します。
「受験」と聞くと、大学受験、高校受験そして大都市圏を中心に加熱している中学受験がすぐに思いつきますが、どの受験よりも早く行われるのが小学校受験、通称「お受験」です。
募集要項の配布から入試が9月から11月に集中しており、志望する私立小学校や国立小学校に入学するために年長の秋、つまり子どもが5歳や6歳の時点で臨みます。
小学校受験をする際、受験する数年前から念入りに準備をし、本番に臨むことが常識になっているのは中学受験に似ています。
しかし、中学受験以上に「親の受験」と言われているのは、子ども本人が「この小学校に入りたい」と明確な意思を示す以前から親が志望校を選んで対策を講じるからです。
私立小学校に通う小学生はかなり少ない

出典:文部科学省「私立学校・学校法人基礎データ」
■【小学校受験】親にとっては子どもの人生最初の「勝ち負け」
もちろん、全国の全ての小学校受験に共通することではありませんが、有名私立小学校や人気のある国立大学小学校を志望する場合、「数ヵ月前に何となく受けようと思いました」という親子はほとんどいません。
乳幼児期からお受験を想定して習い事を始めたり、お受験に特化した教室通いをしたりするなど入念な準備をしていきます。
とはいえ、全ての子ども達が第一志望に合格するわけではありません。合格を勝ち取る子、不合格となる子もいます。
東京都内の有名私立大学の小学校での令和4年度入学者試験倍率は、以下の通りです。
■青山学院初等部
- 定員 男女各44名(青山学院幼稚園からの内部進学者は含まず)
- 志願者 男子251名 女子273名
■学習院初等科(学習院幼稚園からの内部進学者は含まず)
- 定員 男女各40名
- 志願者 男子約380名 女子約390名
■慶應義塾幼稚舎
- 定員 男子96名 女子48名
- 志願者数 男子978名 女子700名
■立教小学校
- 定員 男子120名
- 志願者数 男子519名
■立教女学院小学校
- 定員 女子72名
- 志願者数 女子653名
■早稲田実業学校初等部
- 定員 男子72名 女子36名
- 志願者数 男子778名 女子613名
ご覧の通りの高倍率で狭き門です。第一志望に合格し、ご縁のあった親子はまさに「勝ち組」と言えるような厳しい世界です。
■お受験の道のりは平坦ではない
お受験をテーマにした角田光代「森に眠る魚」では、同い年の子どもを持つママ友たちの関係や心の変化を赤裸々に描写しています。
親が子どもをリードする小学校受験では、習い事や幼児教室で他の子との比較を全くしない、または気にせずに過ごすことは難しいものがあります。
とくに小さい頃は子どもの出来は親、とくに母親の評価につながる向きがあるのも事実。お受験をする場合、「子どもが合格できるかどうか」「他の子にはないキラリと輝くものを出せるか」と躍起になり、母親を一層苦しめます。
そして、中学や高校そして大学に比べると、受験をして入る国立小学校や私立小学校の数は少ないため、限定された枠に大勢の親子が押し寄せるという構図になっています。
もちろん、受け入れる小学校側はそこまでの苦行を強いているわけではありませんが、高倍率を勝ち抜き、意中の学校との縁を引き寄せるために「日々平穏な気持ちで過ごす」のは極めて難しいものがあります。
少ない定員を勝ち取るためにライバルとのしのぎを削る。高校や大学受験とは比べられないほど親にかかるプレッシャーは大きいです。
■エスカレーターは魅力的だが
とくに有名私立大学の附属小学校に入ると、目に余るような素行不良や成績不振といった問題がなければ原則「大学までのエスカレーター」が確保されます。
中学受験、高校受験そして大学受験をせずに過ごせることは、習い事などに打ち込める環境を手に入れたことを意味します。
そして、公立小とは違い教育方針や家庭環境が似た子ども達が集まる安心感もあります。とはいえ、何事にもデメリットはつきものです。
国立大学附属や私立大学附属の小学校では、中学受験組や高校受験組が入ってきます。
さらに、大学に進学する際も、学部学科の選択は成績などに基づいて決まります。「エスカレーターだから楽勝」ではなく、人気のある学部への進学を叶えるには学業を疎かにすることができません。
しかし、全ての学部を網羅している大学は一握りです。入学した附属小の大学には必ずしも子どもが進みたい学部がないことも十分考えられます。
小学校に入った時点では子どもの将来の夢というのはあやふやで、確固たるものではありません。例えば、医学部のない大学付属小学校に入ったけれど学年が上がるにつれて医学部志望になった場合は、中学や高校の時点で「大学では違う学校に行く」「医学部に進むためにはどうすればいいのか」という戦略を立てる必要があります。
■お受験が全てではないと割り切る気持ち
小学校受験は数年かけて準備をするため、結果がどう出るかは親にとってプレッシャーがかかります。周囲の「結果は気にしないで」という言葉は軽く感じ、我が子の幼さにイラつき要領の良い子の存在に悩む。
合格するために必死になる分、思うような結果が出ない時は自分を責め、子どもを責めてしまうなど、平穏な気持ちになかなかなれません。
少し立ち止まって考えてみると、子どもの前には無数の選択肢が存在しています。小学校受験はその一つであり、全てではありません。
たとえ志望する小学校と「ご縁」がなくとも、他の道でも子どもはちゃんと歩いて行けるという子どもを信頼する気持ちを持つことで、小学校受験で闇を抱えずに臨めるのではないでしょうか。
■参考資料
- 文部科学省「私立学校・学校法人基礎データ」( https://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/shinkou/main5_a3_00003.htm#topic3 )
- 青山学院初等部「入学試験日程(2023年度)」( https://www.age.aoyama.ed.jp/admission/schedule.html )
- 学習院初等科「入試説明会」( https://www.gakushuin.ac.jp/prim/admission/briefing.html )
- 慶應義塾幼稚舎「幼稚舎の教育」( http://www.yochisha.keio.ac.jp/orientation/examination.html )
- 立教小学校「入試情報(新1年生)」
- 立教女学院小学校「募集要項」
- 早稲田実業学校初等部「初等部」