日銀の政策修正観測後退で先週一時1ドル=142円の円安に迫る

 先週は1ドル=138円前後から142円近くまで約4円の円安となりました。日本銀行の植田和男総裁が18日、G20(20カ国・地域)財務相・中央銀行総裁会議後の記者会見で、「持続的、安定的な2%のインフレ達成にはまだ距離がある」と発言したため、市場では緩和政策修正への期待が後退し、為替相場はドル高円安が進行しました。


 その後も円売りは続き、21日(金)には、日銀関係者による「現時点においてYCC(イールドカーブコントロール、長短金利操作)修正の必要性は乏しいとみている」との観測報道が伝わり、日銀の修正観測が急速に後退しました。

日中値幅で約2円の円安となりました。先々週に日銀の政策修正期待が広がり、円高が進んだ反動も大きかったのかもしれません。


FRBの利上げと日銀の金融緩和維持で円高に転じるかどうか

 この円安への動きによって日銀の緩和継続はかなり織り込まれたようです。そのため、日銀が27~28日の金融政策決定会合で緩和維持を決めても、為替はそれほど円安に動かない可能性もあるかもしれません。もちろん、予想に反して政策修正となれば円が急騰することが見込まれるため注意が必要です。


  米国の中央銀行に当たるFRB(連邦準備制度理事会)が25~26日のFOMC(連邦公開市場委員会)で0.25%の利上げをすることが市場で織り込まれています。FRBは前回6月のFOMCで2023年末の政策金利の見通しを0.50%引き上げ(5.125→5.625%)、年内あと2回の利上げがあるとタカ派見通しを示唆したことに市場は驚きました。


 しかし、FRBは今週のFOMCで利上げして、年内あと1回することで、6月に示した利上げ回数の見通しを維持すると予想されています。そのため今回のFOMCでは6月と違ってあまりサプライズはなさそうです。


 しかし、ニューヨーク株式市場のダウ工業株30種平均は25日までに12連騰となったことが示すように、市場はFRBが9月以降、実際に利上げする可能性は低いとみているようです。インフレ鈍化を背景に利上げが打ち止めとなり、景気後退を回避する軟着陸シナリオの見方が高まり、米株は活況となっています。


 従って、FRBのパウエル議長が26日のFOMCで利上げした後の記者会見でタカ派姿勢を継続して貫いても、「利上げ」の材料出尽くしによってドル売りになることも予想されます。


 ただし、このドル売り・円買いは、日銀の政策決定会合が27、28日に控えていることから限定的な動きになるかもしれません。


 一方で、日銀が28日の政策決定会合終了後に予想通りに緩和維持決定を公表しても、材料出尽くしによってさほど円安は進まないかもしれません。ドル売り・円買いの動きの方が勝るかもしれません。


「FRBの利上げ+日銀の金融緩和維持」によって、もう一段ドル高・円売りが進むのか、上述したように日米とも材料出尽くしによってドル高や円安があまり進まず、場合によってはドル安円高に動くのかどうか見極めたいです。


日銀物価見通し上方修正の公算大、総裁会見で今後の政策修正示唆あるか焦点

 今週のFOMCでサプライズがあるとすれば、パウエル議長がFOMC後の記者会見で年内の利上げ継続に慎重姿勢を示すか、逆に年内あと1回ではなく、複数回ある可能性を示唆した場合です。さらに「データ次第」では来年も利上げする可能性をにおわせた場合はかなりの驚きとなりそうです。


 日銀の政策決定会合では、28日の会合後に発表される「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」と植田総裁の記者会見がサプライズの要素をはらんでいるかもしれないため注意が必要です。


 展望リポートの物価見通しが上方修正されるとの見方が大勢ですが、どの程度上方修正され、それによって円安にブレーキがかかるのかどうか注目したいと思います。


 日銀の展望リポートに先立ち、内閣府は20日の経済財政諮問会議で、2023年度実質GDP(国内総生産)成長率を1.3%とする見通しを示しました。閣議決定した1月時点の見通しから0.2ポイント引き下げました。


 一方、物価について、2023年度のCPIは生鮮食品を含む総合指数で前年度比2.6%上昇とし、1月時点から0.9ポイントも上方修正しました。


 そのため、日銀の展望リポートの物価見通しも大幅に上方修正があるかもしれないとの思惑も出てきています。日銀の物価見通しは生鮮食品を除いた総合指数ですが、前回4月時点の見通し(2023年度に1.8%上昇)から今回2%台半ばに大幅に上方修正されたら、かなりのサプライズになります。


 植田総裁は18日に「持続的・安定的な2%の物価目標までに距離があるとの認識に変化がなければ、粘り強く金融緩和を続ける姿勢も変わらない」と述べました。


 金融緩和の修正には「認識に変化があること」が前提条件となっていますが、展望リポートの物価見通しが大幅に上方修正されたとしても、わずか10日で「認識を変化」させて政策修正するとは思えません。市場の信頼感がなくなることになるからです。


 しかし、物価見通しの上方修正によって、市場では次回9月会合での政策修正が強く意識されることが予想されます。植田総裁が28日の会合後の記者会見で、物価見通しの上方修正について問われた時に、今後の「認識の変化」をほのめかす発言をすれば、為替が円高に振れるシナリオにも留意する必要があります。


今週後半から来週初めの日米欧金融政策会合・重要指標まとめ

 中央銀行の政策決定会合の前後に相次いで発表される重要指標にも注目する必要があります。


 27日 米国4-6月期GDP、28日 東京都区部7月CPI、米6月個人消費支出(PCEコア・デフレーター)、31日 ユーロ圏4-6月期GDP、ユーロ圏7月HICP と続きます。

成長率や物価などの重要指標のため、為替相場は上下に動くことが予想されます。


 特に日本の全国CPIの先行指標となる東京都区部7月CPIは日銀会合の2日目(28日)の午前8時30分に発表されるため、かく乱要因となる可能性もあるため注意する必要があります。


 また、日本政府・日銀による円買いドル売りの為替介入については、1ドル=145円の円安水準に近づけば、通貨当局のけん制発言も一層強まることも予想されます。日銀会合の結果次第で145円に近づいた時は口先ではなく実弾介入も予想しておいた方が良いかもしれません。


 今週後半から来週初めにかけて続く重要会議、重要指標の日程を下記にまとめましたので参考にしてください。かなり集中していますので、相場の急変に注意する必要があります。


 FOMCは25~26日、ECB(欧州中央銀行)理事会は27日、日銀の金融政策決定会合は27~28日の開催となります。結果が出る時間は、日本時間で以下の通りとなります。


7月27日(木) 午前3時     FOMC声明文発表(政策決定)
        午前3時30分~ FRBパウエル議長の記者会見
        午後9時15分  ECB政策決定
        午後9時30分  米国4-6月期GDP    
        午後9時45分~ ECBラガルド総裁の記者会見
7月28日(金) 午前8時30分  7月東京都区部CPI
        正午前後           日銀政策決定公表
        午後3時30分~   日銀植田総裁の記者会見
        午後9時30分  米6月個人消費支出(PCEコア・デフレーター)
7月31日(月) 午後6時            ユーロ圏4-6月期GDP
        午後6時            ユーロ圏7月HICP


(ハッサク)