毎週金曜日午後掲載


本レポートに掲載した銘柄 TSMC(TSM、台湾、NYSE ADR) 、 ASMLホールディング(ASML、アムステルダム、NASDAQ)


TSMC


1.2024年12月期1Qは、16.5%増収、7.7%営業増益

 TSMCの2024年12月期1Q(2024年1-3月期、以下今1Q)は、売上高5,926.44億台湾ドル(前年比16.5%増)、営業利益2,490.18億台湾ドル(同7.7%増)となりました。前4Q決算発表時の今1Q会社側業績ガイダンスのレンジ平均値、売上高5,723億台湾ドル、営業利益2,348億台湾ドルを上回りました。


 スマートフォン向け、パソコン向けが緩やかに回復しており、これに加えAI半導体向け売上高が急拡大しました。

自動車向けが予想に反して振るわない状況ですが、全社売上高の前年比では増収トレンドに復帰しました。


 一方、営業利益の伸びは鈍化しました。今1Qの売上総利益率53.1%は前4Qの53.0%と比べると横ばいでしたが、業績好調だった前1Qの56.3%に比べると低下しました。また、研究開発費、販管費、減価償却費が増加しました。


表1 TSMCの業績
決算レポート:TSMC(AI半導体向けは今期2倍以上へ)、ASMLホールディング(今1QのEUV露光装置の受注が再び大幅減)
株価(台湾) 804.00台湾ドル(2024年4月18日)
株価(NYSE ADR) 132.27USドル(2024年4月18日)
時価総額 685,952百万USドル(2024年4月18日)
発行済株数 25,930百万株(完全希薄化後)
1台湾ドル 0.0308USドル(2024年4月19日)
単位:百万台湾ドル、台湾ドル、米ドル、%、倍
出所:会社資料より楽天証券作成。
注1:当期純利益は親会社株主に帰属する当期純利益。
注2:TSMCは台湾市場に株式を、ニューヨーク市場にADRを上場している。ここではADRの株価によってPERと時価総額を計算した。
注3:TSMCのADRは普通株5株からなる。
注4:会社予想は予想レンジの平均値。

2.分野別、テクノロジー別売上動向

 分野別売上高の前四半期比(前4Q比)を見ると、スマートフォン向け(今1Qの売上構成比38%)が16%減となりました。会社側は季節性によるものとしていますが、実際には季節性に加え、上位機種の「Pro」「ProMax」に3ナノチップセットを搭載した「iPhone15シリーズ」(2023年9月発売)の売れ行きが鈍いためと思われます。


 HPC(ハイパフォーマンスコンピューティング。

売上構成比46%。パソコン、サーバー、ゲーム機向けなど)は3%増となりました。パソコン向け、非AIサーバー向けは緩やかな回復に止まっており、この2分野は前4Q比減収だったと思われますが、AI半導体は強い動きが続いており、このためHPC向けは前4Q比増収となりました。会社側では今期のAI半導体向け売上高は2倍以上となり、売上構成比は10%台前半になると見ています。


 一方、自動車向け(売上構成比6%)は0%増の横ばいとなりました。会社側の予想に反して停滞しています。


 テクノロジー別売上高を見ると、3ナノは前4Q比減収となりました。会社側開示の売上構成比から計算すると、3ナノ売上高は前4Q938.3億台湾ドルから今1Q533.4億台湾ドルへ減少しましたが、これはスマートフォン、パソコン向けの季節性とともに、iPhone向けが伸び悩んだためと思われます。一方で、5ナノは同2,189.4億台湾ドル→2,192.8億台湾ドル、7ナノは同1,063.4億台湾ドル→1,126.0億台湾ドルへ季節性にも拘わらず増加しました。エヌビディアのAI半導体はTSMC4ナノ、AMDはTSMC6ナノ、5ナノで生産されており、この増収が影響したと思われます。


 一桁ナノ以外の成熟半導体は、同2,064.2億台湾ドル→2,074.2億台湾ドルと堅調でした。


 また、ウェハ出荷枚数(12インチ換算)は同295.7万枚→303.0万枚へやや増加しました。

全社では前4Q比減収なので、ウェハ1枚当たり売上高は前4Q比減少しましたが、ウェハ1枚当たり売上高が増加するトレンドは変化ないと思われます。これは3ナノとAI半導体の影響と思われます。


表2 TSMCの分野別売上動向
決算レポート:TSMC(AI半導体向けは今期2倍以上へ)、ASMLホールディング(今1QのEUV露光装置の受注が再び大幅減)
出所:TSMC開示の各四半期決算カンファレンスプレゼンテーション資料に記載された分野別売上高前期比(前四半期比)。

決算レポート:TSMC(AI半導体向けは今期2倍以上へ)、ASMLホールディング(今1QのEUV露光装置の受注が再び大幅減)
出所:会社資料より楽天証券作成

グラフ1 TSMCのテクノロジー別売上高
決算レポート:TSMC(AI半導体向けは今期2倍以上へ)、ASMLホールディング(今1QのEUV露光装置の受注が再び大幅減)
単位:億台湾ドル、出所:会社資料より楽天証券計算

グラフ2 TSMCのウェハ出荷枚数
決算レポート:TSMC(AI半導体向けは今期2倍以上へ)、ASMLホールディング(今1QのEUV露光装置の受注が再び大幅減)
単位:1,000枚、300ミリ換算、出所:会社資料より楽天証券作成

グラフ3 TSMC:ウェハ1枚当たり売上高
決算レポート:TSMC(AI半導体向けは今期2倍以上へ)、ASMLホールディング(今1QのEUV露光装置の受注が再び大幅減)
単位:1,000台湾ドル、出所:会社資料より楽天証券作成

3.今2Qは順調に業績回復へ

 会社側の今2Q業績ガイダンスは、売上高196~204億USドル、1USドル=32.3台湾ドル、売上総利益率51~53%、営業利益率40~42%です。ここからレンジ平均値を計算すると、売上高6,460億台湾ドル(前年比34.3%増)、営業利益2,649億台湾ドル(同31.2%増)となります。今1Q比でも増収増益となる見込みです。


 これまでの実績と今2Q会社側ガイダンスを参考に、楽天証券では2024年12月期を売上高2兆7,200億台湾ドル(同25.8%増)、営業利益1兆1,200億台湾ドル(同21.5%増)、2025年12月期を売上高3兆3,500億台湾ドル(同23.2%増)、営業利益1兆4,600億台湾ドル(同30.4%増)と予想します。AI半導体の好調、パソコン向け、スマートフォン向けの回復により、売上高は好調と予想されますが、台湾の電力料金上昇、3ナノの収益化が遅れていること、5ナノ設備の一部を3ナノ用に転換していますが、それにコストがかかること等により、今期、来期の営業利益予想は前回予想を据え置きます。


 4月の地震による大きな影響はなかった模様です。


 また、会社側は2024年の半導体市場見通し(メモリを除く)を前年比10%以上の増加から前年比約10%増へ引き下げました。ただし、TSMCの通期予想増収率が20%台前半から半ばになるという会社側の見方に変更はありません。


 来期はAI半導体のさらなる増加(会社側では今後5年間で年率50%成長、2028年に売上構成比20%以上になると予想)、3ナノの利益率上昇が期待できます。2ナノの投資負担はあるものの、業績好調が予想されます。


 なお、今期設備投資は前回予想の280~320億USドルが維持されました。


グラフ4 TSMC:四半期設備投資
決算レポート:TSMC(AI半導体向けは今期2倍以上へ)、ASMLホールディング(今1QのEUV露光装置の受注が再び大幅減)
単位:億米ドル、出所:会社資料より楽天証券作成

グラフ5 TSMCの年間設備投資
決算レポート:TSMC(AI半導体向けは今期2倍以上へ)、ASMLホールディング(今1QのEUV露光装置の受注が再び大幅減)
単位:億米ドル、出所:会社資料より楽天証券作成

4.今後6~12カ月間の目標株価を前回の145ドルから165ドルへ引き上げる

 今後6~12カ月間のTSMCの目標株価を前回の145ドル(NYSE ADRベース)から165ドルに引き上げます。長期的視点から、2025年12月期楽天証券予想EPS(1株当たり利益)7.89ドルに成長性を評価し想定PER(株価収益率)20~25倍を当てはめました。


 引き続き中長期で投資妙味を感じます。


ASMLホールディング

1.2024年12月期1Qは21.6%減収、36.9%営業減益

 ASMLホールディング(以下ASML)の2024年12月期1Q(2024年1-3月期、以下今1Q)は、売上高52.90億ユーロ(前年比21.6%減)、営業利益13.91億ユーロ(同36.9%減)となりました。二桁減収減益でしたが、会社側が前4Q決算時に示した今1Q業績ガイダンスのレンジ平均値、売上高52.50億ユーロ、営業利益11.78億ユーロを上回りました。


表3 ASMLホールディングの業績
決算レポート:TSMC(AI半導体向けは今期2倍以上へ)、ASMLホールディング(今1QのEUV露光装置の受注が再び大幅減)
株価(アムステルダム) 840.30ユーロ(2024年4月18日)
株価(NASDAQ) 889.03USドル(2024年4月18日)
時価総額 349,744百万USドル(2024年4月18日)
発行済株数 393.7百万株(完全希薄化後、Dilluted)
発行済株数 393.4百万株(完全希薄化前、Basic)
1ユーロ 1.0632USドル(2024年4月19日)
単位:百万ユーロ、ユーロ、米ドル、%、倍
出所:会社資料より楽天証券作成。
注1:当期純利益は親会社株主に帰属する当期純利益。
注2:EPSは完全希薄化後(Diluted)発行済株数で計算。ただし、時価総額は完全希薄化前(Basic)で計算。
注3:ASMLホールディングはアムステルダム、NASDAQに上場しているが、ここではNASDAQの株価でPERと時価総額を計算した。
注4:会社予想は予想レンジのレンジ平均値。

 


2.露光装置の機種別動向

1)EUV露光装置

 露光装置の機種別動向を見ると、EUV露光装置は出荷台数が前4Q10台→今1Q12台へ増加し、販売台数(収益認識された台数)は同13台→11台へ減少しました。2023年12月期1Qの販売台数は17台とEUV露光装置としては大きな台数でしたが、これは2022年12月期にEUV露光装置の需要が強く、ASMLでは検査を顧客工場で一元化する「高速出荷」によって出荷台数を増加させたためです。2023年12月期は2022年12月期に納入されたEUV露光装置の稼働率が上昇するまで新規の出荷と収益認識が遅れることになり、これが今1Qの出荷台数と販売台数にも影響しています。


 受注高を見ると、前4Qに全体の受注高とEUV露光装置受注高は過去最高を記録しましたが、今1QはEUV露光装置受注高は過去最低水準に近い水準まで減少しました。


 ただし、会社側の見方によれば、今年後半からの2ナノ投資の開始、HBMとDRAM投資の増加によって、今年後半あるいは今4QにEUV露光装置と全体の受注高は回復すると思われます。また、2025年12月期は2ナノ投資の本格化、HBMとDRAM投資の増加によってさらに受注が伸びる可能性があります。


 このため、全体とEUV露光装置の受注高は今1Qが大底になり、今2Q、3Qと緩やかに回復して、今4Qに本格回復する可能性があります。


 EUV露光装置の新型機について見ると、低NA-EUV露光装置(開口数(NA)0.33。この数字が大きいほど微細な光でシリコンウェハ上に回路を描くことができる)の新型機「NXE:3800E」を今1Qに初めて出荷しました。「NXE:3800E」は1時間当たりシリコンウェハ220枚の処理能力がありますが、これはひとつ前の機種である「NXE:3600D」に比べて37%生産性が向上しています。今下期のEUV露光装置出荷台数の大半が「NXE:3800E」となる見込みですが、単価が上昇していると思われるため、業績に一定の寄与があると思われます。


 また高NA機「EXE:5200」(開口数0.55)は今1Qに最初の1台を出荷し現在設置中です。2月に2台目を出荷し、まもなく設置が始まる予定です。低NA機よりも単価が一段と高くなるため、検収が終われば(2024年12月期か2025年12月期か不明)、これも業績に寄与すると思われます。


 会社側では、今後のEUV露光装置のロジック向け、メモリ向け(DRAM向け)の売上比率を7対3になると予想しています。先端ロジックほどではありませんが、HBMとDRAM向けはEUV露光装置の新たな市場になると思われます。


 なお、2024年3月末全社受注残高は約380億ユーロで高水準を維持しています。


2)ArF液浸露光措置他の露光装置

 ArF液浸露光装置以下の露光装置の今1Q受注高は前4Q比で減少したものの、比較的高い水準を保っています。中国向けの受注が強い状態が続いています。アメリカ政府が中国向けArF液浸露光装置に輸出規制をかける動きがあると報じられてはいますが、実際には規制はまだかかっていません。


 一方、ArF液浸露光装置以下の露光装置売上高は、2023年12月期が好調だったため、2024年12月期はその反動が出ています。回復は今下期か来期になると思われますが、ArF液浸露光装置についてはDRAM向けの伸びが見込めるため、今下期から回復する可能性があると思われます。


表4 ASMLホールディング:売上高内訳(四半期)
決算レポート:TSMC(AI半導体向けは今期2倍以上へ)、ASMLホールディング(今1QのEUV露光装置の受注が再び大幅減)
単位:100万ユーロ
出所:会社資料より楽天証券作成
注:端数処理のため合計が合わない場合がある。

表5 ASMLホールディングの機種別売上高、販売台数、単価(四半期)
決算レポート:TSMC(AI半導体向けは今期2倍以上へ)、ASMLホールディング(今1QのEUV露光装置の受注が再び大幅減)
出所:会社資料より楽天証券作成

決算レポート:TSMC(AI半導体向けは今期2倍以上へ)、ASMLホールディング(今1QのEUV露光装置の受注が再び大幅減)
出所:会社資料より楽天証券作成

決算レポート:TSMC(AI半導体向けは今期2倍以上へ)、ASMLホールディング(今1QのEUV露光装置の受注が再び大幅減)
出所:会社資料より楽天証券作成

決算レポート:TSMC(AI半導体向けは今期2倍以上へ)、ASMLホールディング(今1QのEUV露光装置の受注が再び大幅減)
出所:会社資料より楽天証券作成

決算レポート:TSMC(AI半導体向けは今期2倍以上へ)、ASMLホールディング(今1QのEUV露光装置の受注が再び大幅減)
出所:会社資料より楽天証券作成

決算レポート:TSMC(AI半導体向けは今期2倍以上へ)、ASMLホールディング(今1QのEUV露光装置の受注が再び大幅減)
出所:会社資料より楽天証券作成

グラフ6 ASMLのEUV露光装置:受注台数、出荷台数、販売台数
決算レポート:TSMC(AI半導体向けは今期2倍以上へ)、ASMLホールディング(今1QのEUV露光装置の受注が再び大幅減)
単位:台、四半期ベース、出所:会社資料より楽天証券作成、注:2021年12月期より受注台数は非開示

グラフ7 ASMLホールディングの新規受注高
決算レポート:TSMC(AI半導体向けは今期2倍以上へ)、ASMLホールディング(今1QのEUV露光装置の受注が再び大幅減)
単位:100万ユーロ、出所:会社資料より楽天証券作成

グラフ8 ASMLホールディングの期末受注残高
決算レポート:TSMC(AI半導体向けは今期2倍以上へ)、ASMLホールディング(今1QのEUV露光装置の受注が再び大幅減)
単位:億ユーロ、出所:会社コメントより楽天証券作成

3.会社側は通期見通しを維持。楽天証券の2024年12月期は下方修正

 会社側は2024年12月期業績見通しについて、売上高は2023年12月期と同等、売上総利益率は2023年12月期の51.3%よりもやや低下する見込みとしています。


 また、今2Qの会社側ガイダンスは、売上高57~62億ドル、売上総利益率50~51%、研究開発費10.70億ドル、研究開発費を除く販管費2.95億ドルとなっています。


 これらの会社側の見方と今1Qまでの実績を参考に、楽天証券ではASMLの2024年12月期業績を、売上高280億ユーロ(前年比1.6%増)、営業利益79億ユーロ(同12.6%減)と予想します。今1Qの受注高の急減を見て業績予想を見直しました。前回予想の売上高290億ユーロ、営業利益84億ユーロから下方修正します。


 ただし、来期2025年12月期は前回予想の売上高350億ユーロ、営業利益115億ユーロを維持します。今下期、来期は2ナノの本格投資、HBMとDRAM投資の増加が期待できると思われます。EUV露光装置では低NA機の新型機「「NXE:3800E」と高NA機「EXE:5200」が売上増加と単価上昇を通じて業績に寄与すると予想されます。


表6 ASMLホールディング:機種別売上高
決算レポート:TSMC(AI半導体向けは今期2倍以上へ)、ASMLホールディング(今1QのEUV露光装置の受注が再び大幅減)
出所:会社資料より楽天証券作成

4.今後6~12カ月間の目標株価は前回の1,100ドルを維持する

 今後6~12カ月間の目標株価は前回の1,100ドルを維持します。長期的な視点から、ASMLの2025年12月期楽天証券予想EPS25.45ドルに、来期の楽天証券予想営業増益率45.6%より、成長性とリスクの両方を考慮して想定PER40~45倍を当てはめました。


 株価上昇に時間がかかる可能性はありますが、引き続き中長期で投資妙味を感じます。


本レポートに掲載した銘柄 TSMC(TSM、台湾、NYSE ADR) 、 ASMLホールディング(ASML、アムステルダム、NASDAQ)


(今中 能夫)