※このレポートは、YouTube動画で視聴いただくこともできます。
著者の西崎努が解説しています。

以下のリンクよりご視聴ください。
「 [住宅ローン]日銀利上げで変動金利どうなる?自分にできる備え3選 」


 資産形成の正解は人それぞれですが、一方で、多くの人が失敗してしまう考え方や、やり方があるようです。このシリーズでは、資産形成を始める人が陥りがちな失敗事例を取り上げ、やってはいけない行動を分かりやすく解説します。


お悩み

今の居住地が気に入っているので、資産形成をしながらも家を買いたい

高里和さん(仮名)会社員・32歳(既婚、共働き、子ども1人)

 高里さんは数年前に結婚し、子どもが生まれて家族3人で暮らしていました。妻も復職したので、子どもが保育園に入るタイミングで住宅購入を検討しています。


 今の居住地を気に入っており、子どもの保育園への入園も決まったので、定住するために住宅ローンを使って住まいを探すことにしました。ローンは金利が低い変動金利で考えていますが、昨今金利が上昇してきているというニュースをみて少し気になっていました。


 それでも十分金利は低い水準ですし、住宅ローン控除なども併用すれば賃貸住まいよりも負担は減る想定です。資産として住宅を購入するという考えもありますが、どちらかというと、気に入った物件を見つけたので購入したいという気持ちの方が強くなっています。


 高里さんのように、変動金利の住宅ローンで家を購入する場合、もしくはすでに購入している人は、どんなことに気をつけた方がよいのでしょうか? 


金利のある世界では、ローンを組む負債世帯には負担が増える

 長らく低金利が定着していた日本では(今も低水準といえますが)、2000年代以降は預金ではほぼ利息がつかないという状況が続いていました。預金で預けておけば自然と利息で資産が増えていた時代とは違い、お金をただ預けているだけと言っても良い状況となりましたが、これは悪いことばかりではありません。


 住宅ローンでは低金利であるが故に良い水準でローンを組むことができたため、限りなく金利の支払い負担が少ない状態で住居を購入することができました。


 さらに、1972年に導入された「住宅取得控除」は、制度改正が頻繁にありましたが継続して続いており、住宅ローンを組んで住宅を所有する人の支払い負担をさらに軽減していました。


 このように長らくの間、住宅ローンは低金利で住宅購入資金を調達できる手段でしたがついに金利が再び上昇し出したことで、低金利を前提とした住宅ローンの返済計画ではライフプランが成り立たなくなる可能性がでてきました。


 そこで今回は、住宅ローンを組んでいる方や検討している方へ日本銀行の利上げに備えておくべきことをお伝えしたいと思います。


住宅ローンを組むなら利上げに備えたいこと1:金利が上昇すると想定して支払い計画を立てておく

 国土交通省の住宅市場動向調査報告書(令和5年度)によると、平均的に借入額は3,000~4,000万円程度、返済年数は26~35年で契約し、金利タイプは変動金利型が約8割を占めているようです。住宅の定義には新築や中古の戸建住宅や集合住宅(マンション)があります。


 どのような物件に住むかは、居住地や将来設計によって異なります。都心の一部では、ペアローンで1億前後の物件を購入するパワーカップルと呼ばれる共働き世帯もいます。金利が上昇すれば支払い計画も大きく変わり、ローン契約の金額が大きくなればなるほど顕著に増えていくので注意が必要です。


 例えば、3,500万円の住宅ローンを変動金利0.5%・35年返済の元利均等方式で組んだ場合の総返済額は約3,800万円(毎月約9.0万円の返済)となります。金利が上昇した場合は、この金額がどう変わるのでしょうか?(前提は同じ、諸費用は含まず)


  • 金利1.0%=総返済額は約4,150万円(約350万増)、毎月の返済額は約9.8万円
  • 金利1.5%=総返済額は約4,500万円(約700万増)、毎月の返済額は約10.7万円
  • 金利2.0%=総返済額は約4,870万円(約1,070万増)、毎月の返済額は約11.5万円

 当たり前ですが、金利が上昇すれば支払い総額が増えます。上記は単純計算ですが、金利の上昇によってどれほど支払い額が増えるかが分かるかと思います。


 変動金利の多くには「5年ルール(金利が上昇しても、5年間は毎月の返済額が変わらないというルール)」「125%ルール(今までの返済額に対して125%の金額までしか上げることができないルール)」がありますが、金利上昇による総返済額が削減されるわけではないので要注意です。


住宅ローンを組むなら利上げに備えたいこと2:繰り上げ返済を計画に入れておく

 住宅ローンを組む人の多くは変動金利を利用していますが、利上げで金利が上昇していく局面では返済総額が増加していくことになります。場合によっては、利息だけの支払いになったり、返済総額が想定より増加してしまったりする可能性もあります。


 また住宅ローンは、一般的には最長35年(条件付きで50年もある)の返済期間が設けられていますが、基本的に満期時にローンが残っている場合は一括返済を行うことが必要です。定年などで収入が減少している場合は大きな返済負担となってしまうでしょう。


 ただし、金利上昇による影響は住宅ローンの返済残存期間に比例するので、返済が進むほどそうした心配も減っていきます。ローンの適用金利が上昇して、当初の想定と状況が変化した場合は繰り上げ返済も計画するべきです。


 住宅ローンの返済は長期間にわたるので、返済期間中に収入が変動したり、想定外の支出が発生したりすることも珍しくありません。そうした場合でも対応できるように、変動金利でローンを組む場合にはある程度余裕をもった返済計画を立てつつ、繰り上げ返済も考慮しておくとよいでしょう。


住宅ローンを組むなら利上げに備えたいこと3:金利が低いからと資産形成に資金を振りすぎない

 繰り上げ返済を考えるなら余裕資金を運用に回すという考えもあります。実際に住宅ローンを組む場合は、借入金利が低いことからできるだけ長期で契約して毎月の返済額を減らし、その分にできた余裕資金を資産形成にまわそうと考える方が多いようです。


 繰り上げ返済は、手元資金はなくなりますが、将来支払う利息を確実に減らすことができ、ローンの経済的かつ精神的な負担を減らすことができます。


 一方、資産運用なら手元に資金を残すことができますが、相場動向によって想定以上の利益がでることもあれば逆に損失が発生することもあります。


 単純に考えれば、住宅ローンの支払い金利よりも運用実績の方が良いのであれば、できるだけ運用に資金を振り分けた方が良いですし、逆ならば住宅ローンの返済を優先した方が有利となります。ただし、運用の場合は本人に合った運用を考慮する必要があります。


 特に変動金利の住宅ローンの場合は、支払い金利が変動するので定期的に運用状況との比較が必要です。住宅ローンの金利が上昇していく場合は、運用に資金を振り分けるよりも返済額を多めにするなどと調整すると良いでしょう。


 なお、運用の利益はNISA(ニーサ:少額投資非課税制度)であれば非課税ですが、課税口座であれば約20%の税金を引いた後の金額が手取りであることも忘れてはいけません。


ローンご利用は計画的に。借りたら返す必要がある。

金利の変化は私たちのライフプランに大きな影響を与える

 しばらく金利のない世界がつづいていた日本では、金利が上昇する変化にまだ実感が湧いていない人がほとんどでしょう。しかし、それは少しずつ私たちの家計の運用に影響を与えています。


 金利があることは、住宅ローンがまだ多くのこっている世帯にとっては負担が大きくなる可能性がありますが、逆にメリットもあります。例えば預金金利の上昇や債券の利回り上昇など資産運用の中には良い影響を受けるものもあります。


 私たちの生活は、否応にも経済情勢や環境の変化によって影響を与えられています。そういった変化に順応するためのライフプランを検討しましょう。 


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【要チェック】

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(西崎努)

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