先週はトランプ大統領の度重なる高関税発言によって「トランプ・スランプ」が一気に加速し、米国株「独り負け」状態に。一方で底堅さを見せた日本株。

今週開催の日銀金融政策決定会合では、追加利上げはないとの見通しです。先週から今週にかけての、日本株・米国株の動向を詳しく見ていきます。


トランプ・スランプで米国株独り負け!FOMCでパウエルFRB...の画像はこちら >>

 先週は、米国トランプ大統領が米国経済は「短い移行期間(過渡期)にある」と発言。


 高関税政策が米国経済に与える悪影響を否定しなかったことで、「トランプ・スランプ」と呼ばれる景気後退懸念が一気に現実味を帯び、米国株は続落しました。


 これにより、機関投資家が運用指針にするS&P500種指数は前週末比2.27%下落。


 2月19日につけた史上最高値からの下落率は一時、株価の調整局面とされる10%を超えました。


 また、トランプ大統領は3月12日(水)に鉄鋼・アルミニウム製品への25%関税を発動。


 13日(木)には「欧州から輸入するワインなど酒類に200%の関税を課す」と表明するなど、相変わらず過激な高関税発言を連発しました。


 これに伴い、高関税の影響が直撃する、製造業など景気敏感株の比率が高いNYダウ工業株30種平均は前週末比3.07%安と、S&P500以上に売り込まれました。


 しかし、日経平均株価(225種)は前週末比165円(0.4%)高の3万7,053円で取引終了。


 トランプ大統領の過渡期発言を受けた11日(火)には一時1,000円以上も下落したものの、売られ過ぎた半導体株が切り返したことで前日比235円安まで戻すなど底堅い展開でした。


 それ以外でも、欧州株の代表的な株価指数であるストックス欧州600指数は3月3日に史上最高値を更新。


 低コストで高性能なAI(人工知能)ソフトを開発した「DeepSeek(ディープシーク)」効果で急騰する中国ハイテク株の比率が高い香港ハンセン指数も、トランプ大統領就任以降の50日間で20%超も上昇。世界最大級の勝ち組指数と化しています。


 これまで世界最強だった米国S&P500は一転、トランプ大統領就任後の50日間で世界最弱クラスのパフォーマンスになっており、まさに米国株独り負け状態。


 過激な関税発言を連発するなど、あまりにも予測不能なトランプ大統領の言動を警戒して、米国から中国、欧州、そして日本に投資資金が逃げ出している状況といえるかもしれません。


 ただ、今週は独り負けの米国株にも変化がありそうです。


 その期待がかかるのが、今週19日(水)に終了するFOMC(米連邦公開市場委員会)です。


 トランプ関税発動で物価高再燃の恐れも高いため、今回は利下げ見送りが濃厚です。


 参加理事たちが今後の政策金利の水準を予想した分布図「ドットチャート」も発表されるため、市場が期待する2025年中、3回(0.25%×3)の利下げ回数よりドットチャートの予想の中央値が少ない場合は株安につながるかもしれません。


 ただ、FOMC終了後の記者会見で、米国の中央銀行に当たるFRB(連邦準備制度理事会)のパウエル議長が米国株安に配慮して利下げに寛容なハト派的姿勢を少しでも打ち出せば、米国株が持ち直すきっかけになるかもしれません。


 むろん、その場合、ドル/円の為替レートが再び円高方向に向かい、日本株の下落につながる可能性もあります。


 先週11日(火)に一時1ドル=146円50銭台まで円高に振れたドル/円の為替レートは、14日(金)夜のニューヨーク為替市場終値で148円60銭台まで円安方向に戻しています。


 米国と同じく、今週19日(水)には日本銀行が政策金利を決める金融政策決定会合も終了。

トランプ政権下の米国経済の不確実性を警戒して追加利上げはないというのが大方の見方です。


 ただ、日本の長期金利の指標となる10年国債の利回りは、先週16年ぶりに1.57%台まで上昇。


 19日の会合後の記者会見で植田和男日銀総裁が追加利上げに積極的な発言をした場合、急速な円高や株安が進む恐れもあります。


 今週も激しい乱高下が続きそうですが、14日(金)の米国株は米国政府機関の閉鎖を回避するつなぎ予算が米国議会両院で可決されたことやカナダのマーク・カーニー新首相がトランプ大統領と数日中に会談する見通しといった報道もあり、ハイテク株を中心に急速に自律反発。


 これを受け、週明け17日(月)の日経平均株価の終値は、前週末比343円高の3万7,396円で大引けとなりました。


先週:トランプ発言で米国景気後退懸念が急浮上!日本株は金利上昇、円高進行でも底堅い!

 先週はトランプ大統領の過渡期発言の他、ベッセント財務長官が今後、米国経済は「デトックス(解毒)の時期に直面する」と発言。


 米国経済が景気調整局面に入る恐れが急速に浮上した1週間でした。


 トランプ高関税の発動で物価高再燃が警戒されている中で発表された12日(水)の2月CPI(消費者物価指数)は予想以下の伸び率になり、13日(木)の2月PPI(卸売物価指数)は前月比で横ばいでした。


 ただ、米国FRBが最重要視する物価指標である個人消費支出の価格指数(PCEデフレーター)に反映されるCPI、PPIの項目はいずれも上昇。トランプ高関税政策が今後の物価高再燃につながる兆候もありました。


 そのため、米国では物価高と景気後退が同時進行するスタグフレーション懸念も根強くなっています。


 米国株の下げ相場を主導したのは、中国による報復関税の標的にされる可能性も視野に入る アップル(AAPL) でした。


 アップルの株価は前週末比11.0%安と、2020年3月のコロナショック以来の週間下落率になりました。


 同社の音声アシスタント「Siri(シリ)」のAI機能の改良が2026年までずれ込む見通しであることも、株安に拍車をかけました。


 ただ、先々週まで下げを主導していたAI関連の花形株、 エヌビディア(NVDA) が7.97%高と反発するなど、さすがに売られ過ぎたハイテク株の中には見直し買いの動きも広がっています。


 一方、先週は米国株続落に引きずられて高値圏にあった欧州ストック600指数や香港ハンセン指数も下落する中、日経平均株価は0.4%高、TOPIX(東証株価指数)は0.3%高。


 日本株だけは辛うじてプラス圏で踏みとどまりました。


 このような国内の長期金利の上昇を受けて、 三菱UFJフィナンシャル・グループ(8306) が4.1%高となるなど、銀行業が週間の業種別上昇率1位になりました。


 また、エヌビディアの反発を受けて、同社に半導体検査装置を販売する アドバンテスト(6857) が9.8%高、半導体研磨装置の ディスコ(6146) が9.6%高となるなど、主力の半導体株の反発も目立ちました。


 2025年夏に発表予定の新たな経営再建計画で1,000億円規模の収支改善が見込まれると報じられた 東京電力ホールディングス(9501) が7.4%高となるなど、全体相場の調整局面に強いディフェンシブ株の電力・ガス業も買われました。


 一方、大株主の印刷会社 TOPPANホールディングス(7911) が保有株式を売却したという観測から、人材派遣業大手で成長株の リクルートホールディングス(6098) が6.7%も下落したのが目を引きました。


 しかし、トランプ大統領が発動した鉄鋼・アルミニウム製品への25%関税の悪影響が及ぶはずの 日本製鉄(5401) は0.5%安、アルミ製造大手の 日本軽金属ホールディングス(5703) は1.1%安にとどまりました。


 14日(金)の米国市場ではこの日、トランプ大統領が新たな高関税政策に言及しなかったことが株高要因にもなっており、トランプ関税についてはすでに悪材料出尽くし局面が近づいているのかもしれません。


今週:株安が個人消費低迷に直結する米国。19日FOMC終了後、パウエルFRB議長が株安を止められるかが焦点!?

 今週は日米の金融政策を決める日銀の金融政策決定会合と米国のFOMCがともに19日(水)に終了。


 日銀会合は追加利上げ見送り、FOMCは利下げ見送りが濃厚です。


 3月7日(金)には、米国FRBのパウエル議長が民間の講演で「米国経済は堅調」と強調したことが急落する米国株を一時的に上向かせました。


 しかし、パウエル議長は同時に弱含む経済指標に対する警戒感も示唆しました。


 米国では主に富裕層の株式保有比率が高いため、株安はGDP(国内総生産)の約7割を占める個人消費の失速に直結します。


 だからこそ、歴代のFRB議長は株価の急落をなだめるような発言を行うのが通例で、今回のFOMC後のパウエル議長発言で調整中の米国株が底入れする可能性もありそうです。


 一方、日銀の金融政策決定会合は米国経済に失速懸念があることもあり、追加利上げを見送ることが確実視されています。


 今週は米国で17日(月)に3月のニューヨーク連銀製造業景気指数や2月の小売売上高が発表。20日(木)には2月の中古住宅販売件数も発表されます。


 米国では個人消費の弱含みが問題視されているだけに、2月の小売売上高が特に注目されそうです。


 日本国内では、21日(金)に2月CPIが発表。


 生鮮食料品を除く2月のコアCPIは前年同月比2.9%上昇の予想で、前月1月の3.2%の伸びから鈍化する見込みです。


 米国株急落の元凶となっているトランプ大統領の過激な関税発言ですが、株式市場の拒否反応は薄れつつあります。


 実際に米国の景気後退を明示するような経済指標が連続して出てこない限り、今週は一時的かもしれませんが相場が落ち着くかもしれません。


 特に、日本株は3月27日(木)の株主配当権利付き最終日に向かった配当取りの買いに期待したいところです。


(トウシル編集チーム)

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