トランプ政権が支出削減の一環として進める政府機関職員の大量リストラの影響が本格化する来月以降からは、下振れリスクがさらに大きくなると考えられます。米雇用市場が冷え込んだと決めるにはまだ早いとしても,少なくとも過熱状態は脱したようです。
3月雇用統計の予想と注目ポイント
前回2月の雇用統計では、NFP(非農業部門の雇用者数)の増加数は15.1万人でした。また1月分については12.5万人に下方修正されました。
BLS(米労働省労働統計局)が4月4日に発表する3月の雇用統計は、雇用者数はさらに伸び悩んで13.5万人増の予想となっています。3カ月平均にすると増加数は13.7万人。これは米国の成長トレンドに見合うとされる15.0万人前後をやや下回ります。
トランプ政権が支出削減の一環として進める政府機関職員の大量リストラの影響が本格化する来月以降からは下振れリスクがさらに大きくなると考えられます。米雇用市場が冷え込んだと決めるにはまだ早いとしても、少なくとも過熱状態は脱したようです。
失業率は前月と変わらず4.1%で安定していると見込まれています。また平均労働賃金は、前月比0.3%増(前月0.3%増)、前年比3.9%増(前月4.0%増)の予想となっています。

先月発表された米国の経済指標では、景気先行き不安を反映して、景況指数である米国の消費者信頼感指数やミシガン大学消費者態度指数が低下しました。
もっとも、消費が落ち込んでいるわけでもなく、小売売上高や非製造業ISM(米サプライマネジメント協会)などの指標は予想を上回る強さとなりました。先行き不透明感が広がっているものの、景気後退を示す明らかなサインはまだでていません。
それだけに、今回の雇用統計の結果は、FRB(米連邦準備制度理事会)が今後の金利政策を決定する上で重要なデータポイントとなるでしょう。パウエルFRB議長は、「経済と労働市場が堅調であれば、利下げを急ぐ必要はない」と述べながらも、2025年の利下げ回数は2回との見通しを維持しています。

「米国景気後退説」は一定周期でマーケットの話題に上りますが、実際のところ、それを示すような明らかな証拠がないことがほとんどか、たとえあったとしてもすぐに消えてしまうのです。米国経済はハードランディング(景気後退)するといわれながらも、ソフトランディング(景気減速)もかわし、「ノーランディング」の飛行をここ数年続けています。
パウエルFRB議長は、次回利下げの前にインフレ率低下を示す確かなデータが必要だと述べています。ところが、1月の米CPI(消費者物価指数)は、約1年半ぶりの大幅な増加となりました。2月はやや鈍化したとはいえ、3.0%近くで高止まりしています。インフレ率が上がる要因は増えています。
トランプ大統領の自動車関税で、米国の新車の販売価格は約3,000ドル(約45万円)以上値上がりすると試算されます。しかしそれでは終わりません。関税による第1ラウンドの値上げは連鎖反応するのです(ノックオン効果)。新車が高くなると中古車の値段も上がります。
FRBでは、中立金利の水準が議論となっています。中立金利とは、経済が過熱も冷えすぎもしない状態の実質金利のことですが、この水準がFRBの推計よりも高くなっているとすれば、現在のフェデラルファンド(FF)金利は、それほど引き締め的とはいえません。トランプ政権の政策がインフレ方向に影響する可能性が高い中で、FRBが利下げを急ぐ理由はありません。

BLSが今週発表する雇用統計では、3月のNFPは13.5万人の増加にとどまると予想されています。これまで成長トレンドを上回る勢いで伸びてきた雇用市場ですが、そろそろブレーキがかかってきたようです。
しかし、重要なのは、フローよりもストックです。新型コロナ終息後に見られた爆発的な雇用拡大がピークを過ぎて、就業者の増加数(フロー)が鈍化しても、それがすなわち景気後退を意味するわけではありません。家計に蓄積(ストック)された貯蓄とそれに支えられた個人消費を考慮する必要があるのです。
失業の心配が少ないということは、実質所得の増加が不確実な将来に対する保険としての貯蓄よりも、消費により多く向けられることを意味します。反対に、雇用不安やインフレ上昇による実質的な所得減は、消費意欲を減退させることになります。
トランプ政権の関税や政府職員の大量リストラによって消費マインドが冷えてしまえば、ストックされたお金が消費に回らないリスクが高まります。

(荒地 潤)