先週は米国の過激な相互関税の発動が90日間停止となり、株式市場は反発。債券市場で米国債が売られ、米国売りが鮮明になったことがトランプ大統領の方針転換のきっかけでした。
今週は市場の混乱が沈静化する?米国企業の決算発表もスタート
先週の米国市場ではトランプ大統領の過激な関税政策を嫌い、米国株、米国債、米ドル全てが売られる「トリプル安の米国売り」が進みました。
特に米国の債券市場が大混乱を来し、長期金利の指標となる米国10年国債の利回りは4月4日(金)の3.9%台から11日(金)には一時4.5%以上に急騰。
米国との貿易戦争が激化する中国が保有する米国債を売却しているという臆測も流れています。
米国債の金利急騰は米国債の価格急落を意味します。その損失に耐え切れなくなった金融機関が破綻する可能性もあるため、トランプ関税発動が米国発の金融危機に発展する恐れも出てきました。
為替市場では一時1ドル142円割れ寸前までドル安円高が加速。11日(金)のニューヨーク市場終値は1ドル143円50銭台でした。
機関投資家が運用指針にする米国のS&P500種指数は9日(水)に発動されたばかりのトランプ相互関税がたった半日で90日間停止になったことを好感し、前週末5.70%も上昇しました。
しかし、2月19日の最高値からの下落率はいまだに12%を超えています。
一方、日経平均株価(225種)も7日(月)には米国と中国の報復関税の応酬を受けて史上3番目の下げ幅となる2,644円安、一方、10日(木)の相互関税の90日間停止を受けて史上2番目の上げ幅となる2,894円高を記録するなど乱高下しました。
連日1,000円以上の歴史に残る暴落・反転上昇を繰り返し、11日(金)終値は前週末比195円(0.6%)安の3万3,585円でした。
11日(金)深夜には、スマートフォンやノートパソコン、半導体関連の製品が中国125%、全世界一律10%の相互関税の適用外になることも発表されました。
トランプ大統領は10%の全世界一律の相互関税について例外品を認める発言をしており、中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席に称賛の言葉を送って関税交渉に乗り気のようです。
これを受け、今週は中国生産のiPhoneが高額関税から除外された米国の アップル(AAPL) などハイテク株中心に株価の反転上昇に期待が持てそうです。
16日(水)には米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)のパウエル議長の民間講演も予定されています。
先週11日(金)にはボストン連邦準備銀行のコリンズ総裁が市場の機能や流動性に問題が生じた場合は「必要に応じて対処する」と発言。動揺する金融市場を落ち着かせました。
16日(水)、パウエル議長がこれ以上の米国債の急落(金利は急上昇)に対して救済措置をとる意向を鮮明にすれば、市場の混乱がさらに沈静化するかもしれません。
また今週は米国企業の2025年1-3月期の決算発表がスタート。
14日(月)の ゴールドマン・サックス・グループ(GS) や15日(火)の シティグループ(C) の他、地方銀行など多くの米国金融機関が決算を発表します。
金融市場の混乱で今期2025年4-6月期の業績悪化を表明する金融機関が出るようだと、トランプ金融危機に対する警戒感が台頭する恐れもありそうです。
日経平均は14日(月)に3万4,000円まで回復してスタート、その後付近を推移し伸び悩んでいます。
先週:トランプ大統領の方針転換で株価急反発!ただ中国との貿易戦争激化で米国売りの流れはとまらず!
先週は米国株も日本株も、トランプ大統領の関税政策に振り回されて空前絶後といえる乱高下が続きました。
4月9日(水)には、米国が全世界の国々に高い税率を課す相互関税が発動。
しかし、トランプ政権はたった半日で、中国以外の国々に対する相互関税の90日間停止を決定しました。
日本に対する相互関税は24%から全世界一律の10%まで引き下げられることになりました。
トランプ大統領の突然の方針転換は、先週に入って債券市場で米国債が急速に売り込まれ、10年国債の金利が一時4.5%を超えたことがきっかけでした。
トランプ大統領が米国の金利を引き下げるためにわざと株価を引き下げているという「陰謀論」も、米国債が暴落して金利が急上昇すると説得力を失います。
ウォール街出身のベッセント財務長官が金融危機を食い止めるため、トランプ大統領に方針転換を働きかけたという見方が有力です。
トランプ大統領自身、債券市場の急変動を見て「人々がやや不安になっている様子が見られた」と認めています。
しかし、相互関税に対して報復関税で応酬した中国に対しては10日(木)に合計145%の関税を課すと表明。中国も11日(金)に米国への報復関税を125%に引き上げるなど、ほぼ「禁輸措置」といっていいほど米中貿易戦争は激化。
関税が発動された12日(土)以降は米国や中国の港湾や税関施設などが大混乱に陥っています。
ただ先週の米国市場では、相互関税の90日間停止を好感してAI(人工知能)関連の花形株である エヌビディア(NVDA) が前週末比17.6%高。
中国で生産したiPhoneの米国輸入が高額関税の大打撃を受けることから先々週14%安と急落したアップル(AAPL)も5.2%上昇するなど、巨大IT企業の株価はいずれも上昇に転じました。
11日(金)夜にはiPhoneなどスマートフォンの相互関税適用除外の発表もあり、米国株をけん引するハイテク株は今週も続伸しそうです。
米国同様に乱高下した日本株は、11日(金)に一時1ドル142円ちょうど近辺まで進んだ円高を受けて、海外からの輸入品コストが低下する円高メリット株が上昇。
「業務スーパー」運営の 神戸物産(3038) が前週末比9.7%上昇しました。
業種別の週間上昇率上位は小売業、情報・通信業、建設業、食料品など貿易戦争の影響を受けにくい内需株でほぼ独占されました。
一方、8日(火)にトランプ大統領が医薬品に対する大規模な関税導入を近く発表すると述べたことで、医薬品株が世界的に急落。
日本でも北米の売上高比率が高い 住友ファーマ(4506) が16.9%安、 第一三共(4568) が14.2%安となりました。
自動車25%関税がすでに発動されている自動車株も ホンダ(7267) が4.6%高と健闘したものの 日産自動車(7201) が6.8%安となるなど、今後は円高の進行が下落要因になりそうです。
海外を見渡すと、米国との全面的な貿易戦争に突入した中国株を代表する香港ハンセン株価指数は前週末比8.47%安と大きく続落。
米国に唯一歯向かった中国経済も厳しい状況に追い込まれるのは必至です。
今週:スマホ除外やTSMC決算でハイテク株が相場の主役に!?トランプ大統領が自分の負けを認められるかが課題?
今週は米国で15日(火)に4月のニューヨーク連銀製造業景気指数、16日(水)に3月小売売上高の発表があります。
16日(水)には中国の2025年1-3月期のGDP(国内総生産)も発表されます。予想は前年同期比5.2%成長です。
GDPの成長率が予想以上なら、米国の関税攻撃にもひるまない中国経済を誇示する結果になるかもしれません。
17日(木)には欧州のECB(欧州中央銀行)が理事会を開催。
また、iPhoneやエヌビディア製品の受託製造を行う 台湾積体電路製造(TSMC) が2025年1-3月期決算を発表します。
米国と中国の貿易戦争の板挟みになっている同社が2025年の市場成長見通しを従来の10%から引き下げるとハイテク株の下落要因になるでしょう。
今週以降は米国が中国などに課した相互関税について、スマートフォンに続いて他の品目の除外を発表するかも焦点になりそうです。
先週10日(木)発表の米国の3月CPI(消費者物価指数)はエネルギー価格の下落もあり、前月比では0.1%下落と約5年ぶりにマイナスに転じました。
しかし、長年のグローバリズム化で、中国から輸入している家具、衣料品、靴、玩具、スポーツ用品などの多くは米国でほとんど生産されていません。
それらにも合計145%もの関税を一律でかけたことによる中国製品の輸入停滞で米国内の物価高が加速すれば、これまでトランプ大統領を支持してきた白人労働者層にも不満が広がるのは必至といえそうです。
トランプ大統領が対中国との貿易戦争に関してどこまで妥協するか、つまり自身の負けを暗に認めるかどうかが今後の相場反転の鍵になりそうです。
確かにトランプ大統領が問題視するように米国の貿易赤字は2024年には過去最大の1.2兆ドル(約172兆円)に達し、世界でも突出した貿易赤字国です。
しかし、それと同時に米国の対外債務も世界一の25.8兆ドル(約3,700兆円)に達しています。
米国は世界の基軸通貨である強い米国ドルの威光を背景に、海外から投資資金を呼び込み、その資金で潤った米国民が中国など海外で生産された安価な商品を大量消費することで、ここ十数年は世界最強の株高を謳歌(おうか)してきました。
しかし、米国の巨額な対外債務の受け皿となっている米国債市場から資金が流出すると、米国そして世界経済全体の繁栄のもとになってきた資金の流れが激変します。
先週の市場乱高下で、自分が過激な政策を発動するたびに米国売りが加速することを目の当たりにしたトランプ大統領の政策がよりマイルドなものになることに期待したいところです。
(トウシル編集チーム)