7月は米雇用統計と日米貿易交渉に注目。利下げ期待が高まる一方、交渉難航で円全面高も。

パウエル議長のハト派姿勢やトランプ大統領の発言も相場を左右か。4-6月期GDPにも留意し、円高リスクに警戒が必要。


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7月は雇用市場への懸念が高まる?まずは3日の米6月雇用統計に注目

 6月のドル/円相場は、米中貿易協議の進展、イスラエルのイラン核施設攻撃、米国の参戦、日米金融政策の慎重姿勢と材料は多かったのですが、5月のレンジ(142.11~148.65円※)を抜け切れない相場となりました(参考:6月のレンジ142,40~148.01円※)。※筆者推計


 中東の地政学的リスクについては、イスラエルが長年の目標であったイランの核施設を攻撃したため、イランの報復攻撃や中東ほか地域への戦火拡大、ホルムズ海峡封鎖などが懸念されました。


 しかし、米国参戦と同時に予想外に早い停戦合意によってとりあえず事態は沈静化する方向にあるようです。核施設の損害程度や、事前に濃縮ウランは移送されていたとの報道があるものの、トランプ大統領は否定しており、米国や両国ともしばらく状況様子見となりそうです。


 従って7月は中東要因よりも米国経済や金融政策、減税法案や債務上限などに、より焦点が移ることが予想されます。米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げ期待が高まれば、一段とドル安が進む可能性がありそうです。


 まずは、7月3日(木)の米6月雇用統計に注目です。7月4日(金)は、通常の発表日である第1金曜日ですが、米国独立記念日に当たるため3日の木曜日に発表となります。


 先月発表された5月分の非農業者部門雇用者数は前月比+13.9万人と予想を上回ったため、労働市場はそれほど悪くないとの見方から市場の反応はドル買いでしたが、前月(14.7万人)から低下しており、過去2カ月分も▲9.5万人の下方修正となっています(3月▲6.5万人、4月▲3万人)。3カ月移動平均も+13.5万人と3カ月連続で15万人以下となり、低下傾向にあります。


 6月予想は11万人増加と前月からの低下予想となっていますが、1日に発表された5月米雇用動態調査(JOLTS)求人件数が776.9万件と予想の730万件を上回ったため、3日の米雇用統計への期待が高まっています。


 しかし、2日の民間調査会社ADP社の雇用統計次第では期待が変わる可能性があるため注意が必要です。先月はJOLTS求人件数で期待が高まり、ADP雇用統計で期待が後退しましたが、雇用統計では予想を上回ったため、その反動でドル買いとなりました。


 今月はどのような動きになるのか注目です。予想を上回っても前月から低下していれば、あるいは前月、前々月が下方修正されていれば、雇用市場への懸念が高まるかもしれないため注意が必要です。


高まる7月利下げ期待。FOMC発表前の米国4-6月期GDPに注意

 パウエル議長も6月24日の米下院金融サービス委員会の公聴会で労働市場の軟化の場合の対応に触れています。パウエル議長は、「インフレが低下し労働市場が軟化した場合、利下げ前倒しの可能性も」と述べ、労働市場を気にし始めているハト派姿勢をにじませました。


 この発言によって、米連邦公開市場委員会(FOMC)の金利見通しを受けて後退した年内2回の利下げ期待が復活しました。


 さらに、7月1日の欧州中央銀行(ECB)主催の討論会でパウエル議長は、インフレが夏にかけて関税の影響が顕在化する可能性があると指摘しましたが、7月利下げへの質問に対して「データ次第だ。どの会合も選択肢から排除しない」と述べ、7月利下げの可能性を否定しませんでした。


 関税引き上げによる物価への影響は日米双方の企業が吸収している可能性があり、消費者物価への影響がわずかであれば、雇用が低迷している中では、FRBは政策の軸足を物価抑制から雇用拡大に移してくることも予想されます。


 6月にはウォラー理事やタカ派のボウマンFRB副議長から7月利下げを示唆する発言が相次いでいます。

6月雇用統計だけでなく物価指標によっては7月29~30日のFOMCでの利下げ期待が一層高まることが予想され、ドル/円は再び1ドル=140円を目指す展開になるかもしれません。


 ただ、30日にはFOMCの結果発表前に米国4-6月期国内総生産(GDP)が発表されることには留意する必要があります。米国1-3月期GDP実質年率は▲0.5%と前期+2.4%から悪化し、3年ぶりにマイナス成長となりました。


 トランプ関税を控え駆け込み需要で輸入急拡大が影響したものですが、4-6月期は輸入拡大が落ち着くとの見方です。しかし、個人消費も回復するのかどうか注目です。


 速報性があるため市場が注目しているアトランタ連邦準備銀行のGDPNowは、7月1日時点で4-6月期GDPは+2.5%に急回復すると予測しています。もし、急回復しているのなら、7月利下げは見送られ、利下げは9月に持ち越しとの見方が広がってドルは反発する可能性があります。


7月4日の米国独立記念日にトランプ大統領は何を言うのか

 雇用統計発表の翌日、7月4日の米国独立記念日のトランプ大統領の発言にも注目です。関税政策やイラン攻撃への成果だけでなく、減税を含めた経済政策、債務上限、FRB後任人事に触れるかどうかに注目したいと思います。


 米減税法案は、1日に上院では僅差(51対50)で可決しましたが、5月に下院で可決した法案とは別の法案です。米議会予算局(CBO)が上院案と下院案を比較したところ、上院案の財政悪化は3.3兆ドルと下院案2.4兆ドルより大きい試算となっています。


 債務上限引き上げ幅も上院案は5兆ドルで、下院案の4兆ドルから拡大しています。

2日に下院で再審議、採決となりますが、トランプ大統領が目標とする4日までの成立はかなり難しそうです。そして成立しても、上院案寄りの内容であれば市場は嫌気して、5月のように債券売り(金利上昇)、ドル売りになる可能性があるかもしれないため注意が必要です。


 7月はFRBの利下げ期待や米国の財政赤拡大懸念が再び強まり、6月に続きドル安が進むかもしれません。しかしドル安が進んでも、円高のスピードは鈍い動きになる可能性があるかもしれません。なぜなら、ドル安によってユーロやポンドが上昇し、ユーロ/円やポンド/円は円安の動きになるからです。


 6月の動きを振り返ってみますと、ドル/円は1ドル=143円台から148円台に上昇した後、144円台で6月を終え、ユーロ/円は1ユーロ=163円台から169円台で、ポンド/円は1ポンド=193円台から197円台で6月を終えています。このクロス円の円安がドル/円の円高のブレーキになったようです。


 7月も、ドル安が進んでもこの構図によって円高にはブレーキがかかったような動きになるかもしれません。特にユーロは、6月25日、北大西洋条約機構(NATO)の防衛費GDP比5%合意によって財政拡大路線に転じたことから底堅く動く可能性があります。ユーロ、ユーロ/円の動向には注視する必要があります。


 ただ、日米貿易交渉が難航しており、この材料が円全面高を引き起こすシナリオも想定されます。トランプ大統領は日米貿易交渉に不満を表明しており、相互関税延長期限の7月9日に30~35%など関税引き上げの親書を送るだけだと発言しています。


 日本は追い込まれ、コメなどの輸入拡大や防衛費増額(米兵器購入)を要求されたり、場合によっては、日本からの輸出を減らすための円安是正を直球で投げてきたりする可能性もあるため注意したいと思います。


 日米貿易交渉が手詰まりになればなるほど、市場は米国からの円安是正要請を警戒してくるかもしれません。その場合、クロス円も円高に動く「円全面高」の可能性もあるため、円高のスピードが速まるかもしれません。


(ハッサク)

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