日米関税交渉の合意内容につき、重大な認識相違が露呈。トランプ政権は、日本政府がトランプ大統領が管理する「国家経済安全保障基金」に80兆円入れると誤解。

解釈相違が明らかになると、米国が日本に対する自動車関税・相互関税を下げないなど強硬策を出すリスクもある。日米関税交渉でトラブルが起こる懸念があり、短期的に警戒が必要。


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先週の日経平均は反落、NYダウは最高値

 8月最終週(営業日8月25~29日)の日経平均株価は1週間で85円上昇し、4万2,718円となりました。


 先週は9月の米利下げを織り込む形で高く始まりました。8月22日のジャクソンホール会議でパウエルFRB議長が利下げの可能性を示唆したことが好感されました。ところが、日米とも株価の上昇ピッチが速いことにやや過熱感が出る中、利益確定売りが増えたため、上値が抑えられました。


<日経平均週足:2024年1月4日~2025年8月29日まで>


日本株、短期ショックに警戒。日米関税合意に暗雲、対米80兆円投資で重大な認識相違(窪田真之)
出所:楽天証券MS IIより作成

 日経平均の上昇をけん引しているのは、外国人投資家の買いです。ただ、足元は買いの勢いがやや低下しています。


<日経平均と外国人投資家の売買動向(売越・買越、株式現物と株価指数先物の合計):2025年3月24日~8月29日(外国人売買動向は8月22日まで)>


日本株、短期ショックに警戒。日米関税合意に暗雲、対米80兆円投資で重大な認識相違(窪田真之)
出所:QUICK・東証データより楽天証券経済研究所作成

日米関税合意に暗雲:重大な認識違い

 赤沢亮正経済再生担当大臣は8月28日に予定していた訪米を取りやめると発表しました。日米合意に向けて「事務的に議論すべき点が見つかったため」と説明しています。日米関税交渉について、日米で重大な認識の相違があるため、合意文書の作成ができないと判断されました。


 以下2点が問題と考えられます。


【1】日本が約束している対米5,500億ドル(約80兆円)の投資について、日米で重大な認識の違いがある


【2】米国は、日本によるコメの輸入拡大を合意文書に盛り込むつもりでいたが、日本は農産物輸入拡大は今回の日米合意に含まれないと考えている


 特に重大な問題となりそうなのが、対米80兆円投資です。日米で認識のずれが極めて大きく簡単に折り合いをつけられそうにありません。

これまで合意文書を作らずに口約束で合意を進めてきた問題が露呈しました。


 トランプ大統領およびラトニック商務長官は、これまでに米国メディアで日本による80兆円投資は「スポーツ選手が獲得する契約金のようなもの」「トランプ大統領が好きなように投資先を決めてよい」と言ってきました。


 80兆円は民間企業の投資ではなく「日本政府がお金を出す」とも言っています。日本はコメなど農産物の関税を引き下げない代わりに、80兆円を差し出したとまで言っています。


 日本政府は、「80兆円は民間企業による投資」「日本政府はそこに保証を与えるだけ」「日本政府が出資する場合は、最大10%まで」と説明しています。重大な認識相違があります。


 合意文書が作成されていないのをいいことに、トランプ大統領とラトニック商務長官が既成事実をつくるために、どんどん話を歪曲(わいきょく)していると思われます。


 韓国も、米国との交渉で、日本と同じような苦境に立たされています。韓国は対米3,500億ドルの投資を約束していますが、それは民間企業による投資で韓国政府は保証するだけと説明しています。ところが、韓国による投資についても、米国サイドはトランプ大統領が好きなように使って良いと解釈しています。


米国が9,000億ドルの「国家経済安全保障基金」設立を発表

 トランプ政権は26日、日本と韓国からの対米投資資金を活用し、米国内のインフラ整備に使う「国家経済安全保障基金」を設立すると発表しました。


 ラトニック商務長官は、「日本が5,500億ドルくれた。韓国が3,500億ドルくれた。

合わせて9,000億ドル。それがトランプ大統領が管理する9,000億ドルの国家経済安全保障基金になる。トランプに9,000億ドル与えたことで、原油ガス開発は掘って掘って掘りまくれという号令の通りどんどん進むだろう」と言い始めています。


 日本および韓国が、政府は保証するだけで金は出さないと説明した時、トランプ大統領がどう反応するか心配です。日本に対して「自動車関税は15%へ引き下げない(27.5%のまま)」だけでなく、相互関税をさらに引き上げる脅しが出るかもしれません。


 もし、そういうことになると、日本株に大きなマイナス影響を及ぼす懸念があります。


米国株最高値で、トランプ大統領は強硬策を発動しやすい

 トランプ大統領は、株価の動きをよく見ています。第1次トランプ政権の時から、米国株が高いと、対外的に強硬策を強め、安くなると対外強硬策をひっこめ融和的になる傾向がありました。


 8月28日に米国S&P500種指数とダウ工業株30種平均が最高値を更新しました。米インフレも比較的落ち着いており、トランプ大統領が自信を深めて、強硬策を繰り出してくることに警戒が必要です。


 ちなみに、ささいな行き違いからインドに相互関税50%を課すと発表し、ブラジルにも政治的な対立を背景に相互関税50%を課すとしています。友好国でも厳しい姿勢を取るやり方を続けているので、日本や韓国に対しても、また脅しを行ってくるリスクに警戒が必要です。


日本株、短期的ショックに要警戒

 日米の関税合意の解釈をめぐって、日米でトラブルが発生する懸念が強まっています。

日米でトラブルが発生する時に、日本株が売られる懸念もあります。短期的には、警戒的なスタンスが必要と思います。


 日本株は割安で長期的な上昇余地は大きいと考えていますが、短期的には警戒も必要と思います。


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(窪田 真之)

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