トランプ大統領が5月13~15日、国賓待遇で中国を訪問しました。習近平氏との個人的関係、経済・通商、ビジネス、イラン情勢、台湾問題という五つのポイントから、米中関係の現在地と行き先を検証します。


トランプ訪中検証:習近平氏との間で「ディール」はあったのか?...の画像はこちら >>

トランプ大統領が訪中。五つのポイントを検証

 5月13~15日、トランプ米大統領が国賓待遇で中国を訪問しました。先週のレポートでは、トランプ氏の振る舞いと習近平国家主席との「個人的関係」、経済・通商、ビジネス、イラン情勢、および台湾問題といった点から首脳会談を先読みし、注目ポイントを洗い出しましたが、まさに先週取り上げた五つがポイントだったと振り返っています。


 今週のレポートでは、トランプ氏の訪中終了を受けて、それらを検証していきたいと思います。


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ポイント1:トランプ氏の北京での振る舞いと習近平氏との「個人的関係」

 まず、私が最も重要なポイントの一つと考えていたのが、トランプ氏が北京でどういう振る舞いをするか、および習近平氏とどのような個人的関係を奏でるかでした。トランプ氏が突然不満を漏らし始めたり、習近平氏とけんかを始めたりすれば、それは米中関係という世界最大の二カ国間関係にヒビが入り、世界情勢にも影響するのは必至だからです。


 その意味で、トランプ氏は終始比較的穏やかに、習近平氏との時間ややり取りに自制的に向き合っていたように見受けられます。以下、トランプ氏の北京滞在期間中の日程を整理しました。


日付 イベント 5月13日夜 北京首都国際空港到着。韓正国家副主席が出迎え 5月14日午前 歓迎式典、首脳会談 5月14日午後 習近平氏と天壇公園参観 5月14日夜 習近平氏主催の晩さん会 5月15日午前 中南海で「茶会」。習近平氏と散歩。ワーキングランチ→終了後、帰途へ

 昨年1月20日にワシントンD.C.で行われたトランプ氏の就任式に出席した韓正(ハン・チョン)副主席が空港まで出迎えた事実は厚遇ぶりを示していると思います。歓迎式典や首脳会談でも、両首脳は和やかな雰囲気の下、互いをたたえ、重んじる姿勢を貫いていたように見受けられます。


 天壇公園や中南海では、習近平氏自らが案内役を務め、トランプ氏は「素晴らしい場所だ」と驚き、称賛するジェスチャーを示していました。


 晩さん会では、トランプ氏が好む曲を流すなど、中国側としても、トランプ氏のご機嫌を取り、喜ばせるための仕掛けを随所で施していたように思われます。


ポイント2:経済・通商関係で何らかの進展が見られたか

 経済・通商関係で特筆されるのが、首脳会談に先立ち、5月13日、何立峰(ホー・リーフォン)副首相とベッセント米財務長官が韓国の仁川空港でハイレベル協議を行った経緯です。経済・通商分野における問題の交渉を前進させ、首脳会談を後押しする采配が見受けられました。


 今回の一つの成果は、米中当局間で「貿易委員会」と「投資委員会」という二つのスキームを設立する方向で一致した点です。前者では「非敏感領域」におけるモノの輸出入促進を、後者では投資を促すための政府間フォーラムを開催するなど、経済安全保障問題で攻防を繰り広げる両国ですが、それでも、貿易や投資は可能な範囲で促進していこうという姿勢を示した形です。


 米中がしのぎを削る人工知能(AI)に関して対話を始める表明をした点も重要でしょう。今後の動向に注目すべきです。


 一方、レアアースを巡っては米国側が懸念を表明しました。イットリウム、スカンジウム、ネオジム、インジウムと鉱物名を具体的に挙げた上で、サプライチェーンの不足、生産・加工設備および技術の販売禁止または制限に対して、中国側に対応を求めた形です。


 今後、中国側は戦略物資であるレアアースをどう「武器化」し、米国との交渉材料に使っていくのか。日本の産業・経済にも関わるテーマだけに要注目です。


ポイント3:首脳会談とビジネスがどう連鎖していたか

 今回のトランプ氏訪中には多くの米大手企業トップが同行しました。以下、各分野の代表的な企業を挙げます。


分野 代表企業 半導体 エヌビディア、クアルコム テック アップル、メタ・プラットフォームズ 航空機 ボーイング 自動車 テスラ 金融 シティグループ

 トランプ氏は習近平氏との首脳会談の冒頭あいさつで、「私は米国におけるトップ企業だけを連れてきた。2番手、3番手ではダメだ」と言い切りました。トランプ氏ともこれらの企業トップを同行させることで、米国経済・世論へのアピールをすると同時に、中国側にうまみを実感させ、対中交渉を有利に運びたい思惑があったのでしょう。


 両首脳が14日午後、天壇公園を参観している間、人民大会堂では李強(リー・チャン)首相が企業トップらと座談会を行いました。中国市場は引き続き開放される方向性を示し、米企業の投資とコミットを促そうとしたのでしょう。今後、これらの企業が対中投資、事業にどう向き合っていくのか注目したいと思います。


 今回のトランプ氏訪中を経て、ボーイング200機を中国側が購入、エヌビディアのAI半導体「H200」の一部中国企業への販売を承認、大豆以外に年間170億ドル以上の農産物、および液化天然ガス(LNG)を中国側が購入、といった合意がなされています。


ポイント4:イラン情勢はどう扱われたか

 そもそもトランプ氏の訪中は3月31日~4月2日に予定されていましたが、イラン情勢の緊迫化を受けて延期されていました。であるだけに、今回の訪中でイラン問題が中国側とどう議論されたかは非常に重要です。


 両首脳は、以下3点で方向性としては一致したもようです。


  • イランの核兵器保有に反対
  • ホルムズ海峡の再開
  • 通行料徴収に反対
  •  もちろん、イランとの戦争当事国である米国と、イランの「伝統的友好国」である中国が、「この戦争を終わらせるか」という極めて難易度の高い問題を巡り、思惑や利害関係が完全に一致することはないでしょう。


     例えば、中国は確かに、イランが核開発を通じて「兵器」を有することには反対していますが、平和的利用は受け入れるというスタンスです。米国は核開発そのものを根絶させようとしています。


     エネルギー市場が混乱する中、今後、米中がイラン問題でどう、どこまで連携し、この戦争を終わらせるべく共同で、あるいはそれぞれコミットしていくのか。要注目です。


    ポイント5:台湾問題はどう扱われたか

     そして最後が、私が最も注目していたテーマの一つ、台湾問題です。首脳会談において、習近平氏はトランプ氏に対し、「米中関係にとって最も重要な台湾問題をうまく処理できれば、総体的安定を保持できるが、そうでなければ、両国はぶつかり、衝突し、非常に危険な境地に陥る」と警告した上で、「台湾海峡の平和と安定は米中にとっての最大公約数」と指摘しました。


     私が観察していた限り、トランプ氏は習近平氏が語る台湾問題を真剣に聞き、中国側の立場や意図を正確に理解すべく立ち振る舞ったように見受けられます。「事の深刻さ」を理解したといったところでしょうか。


     訪中を終えたトランプ氏は、台湾問題に関して、機内で記者からの質問に答えました。習近平氏と台湾への武器売却問題などを詳細に話し合ったとコメント。売却を承認するかに関しては、「するかもしれないし、しないかもしれない」と明言を避けました。


     台湾を巡る政策については「何も変わっていない。中国には冷静になってほしい」としつつ、「今の台湾の指導者は独立を求めている。それは危険な賭けだ。

    私は現状維持を望んでいる」と台湾に対してもくぎを刺しました。


     少なくとも、「(台湾海峡において)戦争はしない。なぜなら、それは極めて危険な事態だからだ」といった次元において、今回のトランプ氏の訪中を通じて、米中首脳は一定程度の感触を共有したといえるでしょう。


     トランプ氏は北京で習近平氏の9月訪米を招待しました。習近平氏は基本的に受け入れるスタンスです。そこに向かって、米中関係がどう推移していくのか。それまでにイラン戦争は終わるのか。台湾問題で「急展開」はあるのか。引き続き注視していきたいと思います。


    (加藤 嘉一)

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