人口動態は、労働力や社会保障だけでなく、資源需要や物価、さらには金相場にも影響を及ぼす重要な要素です。近年、日本を含む先進国では人口の頭打ちや減少が目立つ一方、アフリカを中心とした新興国では人口増加が継続しています。
人口減少日本と人口増加アフリカ
2026年5月29日、総務省は2025年国勢調査の結果に基づく日本の総人口を公表しました。図1のとおり、2025年の日本の総人口は約1億2,300万人となり、2010年ごろに迎えたピーク時と比べて約500万人減少しました。
図1:日本の総人口推計 単位:百万人
この人口動向に関連する、国際連合(以下、国連)が2024年に公表した世界人口予測(World Population Prospects 2024)を確認します。図2は、同予測をもとに作成した世界の人口ランキングです。日本の人口順位は2015年から2020年まで世界10位でしたが、その後は低下する見通しです。
国連の中位推計によれば、日本は2025年にエチオピアとメキシコに抜かれて12位となり、2030年にはコンゴ民主共和国、エジプト、フィリピンにも抜かれて15位に後退します。2035年も15位にとどまる見込みです。
図2:世界の人口ランキング(国連推計、2025年以降は中位推計)
日本の順位低下とは対照的に、ランキングを上昇させている国々があります。その中心はアフリカ諸国です。
ナイジェリアは2020年にブラジルを抜いて6位となり、その後も同順位を維持する見込みです。また、アフリカ西部に位置するコンゴ民主共和国は、2015年の18位から順位を大きく上げ、2035年には10位に達する見込みです。
アフリカ東部のエチオピアも順位を上げています。
日本では人口減少が進む一方、アフリカ諸国では人口増加が続いています。世界の人口ランキングにおいては、今後もアフリカ諸国の存在感が高まる可能性があります。
人口動態の二極化がもたらす資源高
日本の人口減少とアフリカ諸国の人口増加が同時進行していることを述べました。図3は、日本を含む先進国と、アフリカ諸国を含む新興国の人口推計・見通しを示しています。
図3:世界の人口推計・見通し(国連2024年版・中位推計) 単位:10億人
先進国の人口は近年伸びが鈍化しており、2040年ごろをピークに減少へ転じる見通しです。一方、新興国の人口は増加基調が続いており、その傾向は2080年代半ばまで続くとみられています。
人口の頭打ちや減少が進む先進国と、人口増加が続く新興国との間で、人口動態の「二極化」が今後さらに鮮明になる可能性があります。
図4は、この人口動態の二極化がコモディティ(国際商品)市場に及ぼす影響を示したイメージです。新興国で人口が増加すれば、エネルギー、食料、金属などの一次産品の需要拡大が見込まれます。このことは、長期的にコモディティ価格を押し上げる要因になり得ます。
一方、先進国では人口の頭打ちや減少が進むことで、経済成長の鈍化や財政負担の増加、人材不足などの課題が深刻化する可能性があります。
また、市場参加者が供給不安の高まりを大きなリスクとして意識したり、秩序の乱れや技術革新の停滞を嫌気し、代替資産や代替通貨を模索する動きを強めたりする可能性があります。その際に物色されやすくなる品目の代表例が金(ゴールド)です。
図4:世界の人口動態の変化がもたらす影響(イメージ)
新興国の人口増加を背景とした需要拡大と、先進国の人口の頭打ち・減少をきっかけとした供給面での不安要因の高まりが重なれば、エネルギー、食料、金属、そして金を含むコモディティ全般の価格を下支えする力が、強まると考えられます。
世界の人口動態の「二極化」は、今後のコモディティ市場を考える上で重要な構造変化の一つであり、長期的な価格高止まりをもたらす要因になり得ます。
世界人口の変化とインフレの長期化
世界の人口動態の「二極化」が、コモディティ価格を長期的に高止まりさせる要因になり得ることを述べました。実際には、このことは足元で発生している長期視点の物価高(インフレ)を強め、定着させる要因にもなり得ると言えます。
図5は、現在発生している長期視点のインフレの構図を示したイメージです。
図5:現在発生している長期視点の物価高(インフレ)のイメージ
現在発生しているインフレは、新製品の開発や生活習慣の変化、政策をきっかけとした需要喚起、景気回復ムード、インバウンド需要の増加などを背景としたディマンドプルインフレ(需要増加をきっかけとしたインフレ)だけで説明することはできません。
現在発生しているインフレの背景には、新興国における需要増加に加え、世界的な秩序の揺らぎをきっかけとして発生する資源の武器利用(出し渋り)の横行、そして主要中央銀行による大規模な資金供給(バラマキ)の継続があります。
こうした要因によってエネルギーや食料、金属などの原材料価格が押し上げられ、その結果として発生する長期視点のコストプッシュインフレ(原材料価格の上昇をきっかけとしたインフレ)が、現在のインフレの主体になっていると考えられます。
図6のとおり、主要なコモディティ価格は2010年ごろ以降、さまざまな世界情勢の変化を受けて全体的に「底上げ」されてきました。今後、人口動態の二極化が進めば、この底上げ傾向が強化される可能性があります。
図6:主要なコモディティ価格の推移(月足)
人口増加が続く新興国では、エネルギー、食料、金属などの需要が増加し続けることが予想されます。一方、人口の頭打ちや減少が進む先進国では、世界経済や国際社会における影響力が相対的に低下し、世界の秩序が乱れる可能性があります。
こうした変化は、資源国による資源の武器利用(出し渋り)を助長する要因になり得ます。また、主要中央銀行による資金供給(バラマキ)が長期化する一因となる可能性もあります。
現在、多くの消費国は粘着性のあるインフレを鎮静化させたいと考えています。しかし、人口動態の二極化が進み、新興国の需要増加と資源の武器利用(出し渋り)が同時進行すれば、コモディティ価格の高止まりが続き、コストプッシュインフレの鎮静化は容易ではなくなるでしょう。
世界の人口動態の二極化は、単なる人口問題ではありません。コモディティ市場を通じて物価動向に影響を与え、長期的なインフレ圧力を強める要因になり得るのです。
人口見通しが示す金(ゴールド)高の土台
国連は世界人口予測(World Population Prospects、WPP)を2~3年に一度公表しています。図7は、2019年版、2022年版、2024年版の世界人口予測を比較したものです。
図7:世界の人口推計・見通し(国連のデータ) 単位:10億人
2019年版の予測では、世界人口は予測期間の最終年である2100年まで増加し続けるとされていました。
一方、推計方法を見直し、5歳単位から1歳単位へと変更した2022年版および2024年版では、世界人口は2080年代半ばにピークを迎え、その後は緩やかに減少するとされています。
人口がピークを迎える時期と人口の水準を見ると、2022年版では2086年に約104億人、2024年版では2084年に約102億人となっています。
人口は経済活動の源泉であり、消費者でもあります。そのため、世界人口の増加ペースが鈍化し、人口減少の時期が前倒しになれば、世界経済の成長余地が縮小する可能性があります。
世界経済の成長期待が低下すれば、国際社会の分断や対立が深まり、政治・経済の不安定化につながる可能性があります。
こうした流れが強まった場合、図8で示した「世界民主主義の後退」「分断の深化」「資源の武器利用の横行」「長期視点のインフレ」「実態なき株高への不安」などの『非伝統的な有事』が、それまで以上に拡大する懸念があります。
図8:ドル建て金(ゴールド)価格の変動イメージ
非伝統的な有事は、金(ゴールド)相場を超長期視点で支える重要な土台になり得るテーマです。
世界人口のピーク到来が従来想定よりも早まる可能性が示されたことは、今後およそ半世紀にわたり、世界経済や国際社会を取り巻く環境が大きく変化する可能性があることを示唆しています。
そして、その変化は非伝統的な有事を拡大させる方向に作用し、結果として金(ゴールド)相場を長期的に支える要因になると考えられます。
[参考]貴金属関連の具体的な投資商品例
純金積立
純金積立・スポット購入
投資信託
三菱UFJ 純金ファンド
ピクテ・ゴールド(為替ヘッジあり)
楽天・ゴールド・ファンド(為替ヘッジなし/あり)
楽天・プラチナ・ファンド(為替ヘッジなし)
中期:関連ETF
SPDRゴールド・シェア(1326)
NF金価格連動型上場投資信託(1328)
純金上場信託(金の果実)(1540)
NN金先物ダブルブルETN(2036)
NN金先物ベアETN(2037)
GXゴールド(425A)
SPDR ゴールド・ミニシェアーズ・トラスト(GLDM)
ヴァンエック・金鉱株ETF(GDX)
短期:商品先物
国内商品先物
海外商品先物
短期:CFD
金(ゴールド)、プラチナ、銀、パラジウム
(吉田 哲)

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