結婚しない人が増えている。『なぜ日本人は、それを選ぶのか? データで読み解く時間とお金の使い方』(朝日新書)を出したマーケティングリサーチ会社のインテージによると「『結婚しなくてもいい』という非婚化の価値観が、20代男性で強まっている」という――。

■「日傘男子」が表すイマどきのニーズ
最近では「ボディメイク」といった考え方も浸透し、消費者は心身の健康維持だけではなく、外見の美しさまで意識するようになっています。また、若年層を中心に「男性のメイク」といった行動も広がってきました。
そこで、「他人からきれいに見られたいと思う」という項目を男女それぞれで、「世代」「加齢」「時代」の3効果に分解してみた結果が図表1です。数値がプラスであれば平均よりも該当率が高く、逆にマイナスであれば平均よりも該当率が低いことを表しています。
男性は新しい世代ほど、女性は若い時に、他人からきれいに見られたい≒美容意識が高くなっていて、男女で大きな違いがあります。
近年、男性の化粧品市場が成長している(インテージ「知るギャラリー」23年1月31日公開記事)のも納得の結果です。
また、23年に話題となった「日傘男子」も「日焼けによる肌へのダメージを防いで肌のコンディションを保ちたい」というニーズの表れです。一方で、女性は化粧品や美容サービスだけではなく、ボディメイクへの関心が広がり、プロテイン市場が拡大しています。
■性別を超えたシビアなコスパ感覚
図表2は「商品を買うときに、本当に必要なものかどうかを考える」という項目のグラフです。
男性は古い世代ほど、女性は新人類~団塊Jr.が慎重にコスパを検討するというように、こちらも男女で違いがあります。
男性の古い世代において該当率が高い理由を探ると、日中戦争や第二次世界大戦の最中に生まれたキネマ世代~戦後直後に生まれた団塊世代は、戦中・戦後の物不足や貧しい時代を経験しているため、消費に対して慎重で「もったいない精神」が強く、物を大切にして長く使う傾向があります。
同じ古い世代でも女性の傾向が異なるのは、男性は過去の経験に囚われやすい一方、女性は切り替えるのが上手い特性が消費への意識にも表れていると考えられます。

また男女ともに、大学生や社会人生活を始めたばかりで収入や貯蓄が少ない20代と年金生活が始まる65歳以上で、そしてコロナ禍や物価高が続く20年以降に、コスパへの意識が高まっています。
やはり可処分所得が少ない「年齢」や「時代」に財布の紐が固くなることがわかります。
近年、廉価な衣類や家具・インテリア用品を取り扱う専門店、100円や300円の均一ショップ、ドラッグストア、「毎日安い」を掲げる食品スーパーといった衣食住でお得感を訴求するお店が好調ですが、この「時代」によるコスパ意識の高まりを受けていると言えます。
■プロセスよりも結果を求める志向
図表3は「夕食に惣菜や冷凍食品を使うことがある」という項目のグラフです。
男女ともに新しい世代ほど、また時代を経るほど、惣菜や冷凍食品を使うようになっています。
この背景には、共働き世帯や働くシニアの増加により可処分時間が減ったことで、「料理する時間を短縮、もしくは負担を軽減したい」というニーズがあります。
この需要を取り込むために、スーパーやコンビニで惣菜や冷凍食品の売り場が広くなっています。また、カット野菜、ミールキット、液体だしの市場規模が拡大していることからも、「プロセスにあたる料理」よりも「結果にあたる食事」のパフォーマンスを重視するタイパへの意識が高まっていることがわかります。
■“損したくない”心理のコスパ&タイパ
料理のほかにも、タイパへの意識が高まっている事象は、以下のように生活のあらゆるシーンで見受けられます。
・口コミやSNSの評価を参考にして効率的に消費や体験をする

・ネット通販・宅配、キャッシュレス決済、セルフレジで買い物の時間を短縮する

・オンラインでの動画・音楽・ゲームの利用、会議、学習、金融取引で移動時間を短縮する

・ショート動画や倍速再生を使って短時間で欲しい情報を得る
逆に、年金生活が始まると節約意識が高まるため、65歳以上の女性は惣菜や冷凍食品を控える傾向があります。お金と時間・手間のどちらを優先するか、日常的に究極の選択を迫られている様子がうかがえます。
コスパもタイパも含め、多くの人々がパフォーマンスを重視するようになった背景には、1990年代初頭のバブル崩壊後「ゆとり」が失われていく中で、情報を活用しながら日々の生活を少しでも快適にしようとした結果、「損したくない気持ち」や「失敗したくない心理」が強くなっている傾向があるのかもしれません。

■他人との距離が生む「おひとり様消費」
図表4は「人づき合いをあまり積極的に広げたいと思わない」という項目のグラフです。
男女ともに近年になるほど、人づき合いへの意識が希薄化しています。
この背景には、2004年頃から急速に浸透して定着した「自己責任」という価値観やSNSによるオンラインでの交流の影響が考えられます。
これ以前は、個人ではなく社会全体の問題と捉えたり、リアルなコミュニティ以外は人づき合いの手段が限られたりしていました。
また、「14年の消費税8%への引き上げ」と「コロナ禍や物価高」によって可処分所得が減少したタイミングで人づき合いへの意欲が減退し、個人志向の考え方が加速したことがわかります。
コスパやタイパと同様、「ゆとり」が失われていく中で、やや閉鎖的な価値観が広がっているのかもしれません。
ところで、この個人志向は家族の中でも個人を尊重し合い「ひとり時間」を求めることで、「おひとり様消費」につながっている側面もあります。
ひと昔前であれば、ひとりで行くことに抵抗があった焼肉、カラオケ、キャンプ、旅行などをひとりで利用する人が増加している要因でもあるのではないでしょうか。
■「結婚するか・しないか」を決める境界線
図表5は「別に結婚はしなくてよいと思う」という項目のグラフです。
男女で共通して新しい世代ほど、また時代を経るほど、結婚しなくてもよいと思うようになっています。
「結婚してはじめて一人前」という昭和の価値観から大きく転換したことは明らかです。
この背景には、個人志向が広がっているだけではなく、可処分所得が増えない・明るい先行きが見通せない現状から、経済的な理由で躊躇(ちゅうちょ)する人もいると考えられます。
さらに女性で顕著なのですが、コロナ禍にリアルの出会いが減ったことで、この考え方が急増しています。
また、男性は20代、女性は40代と、結婚しなくてもよいと考えるピークが男女で異なりますが、35歳以上の傾向は男女で共通しています。
男女の線が交差している35歳前後に、「実際に結婚するか・しないか」を決断する境界線があることが読み取れます。
■20代男女が非婚化するワケ
外食、中食、宅配、インスタント食品、レトルト食品、冷凍食品など料理をしなくても食べられる選択肢が充実し、ネット通販で買い物を済ませて、ロボット掃除機、乾燥機付き洗濯機、食器洗い乾燥機など家事を自動化できるようになった現代においては、家事に割く時間を減らしても快適に生活できるようになっています。
こうして増やした可処分時間を「ひとり時間」として楽しめるようになったのも非婚化が進んでいる要因のひとつかもしれません。
これらの結果が示しているのは、「結婚しなくてもよい」という価値観が、20代男性で強まっている現実です。少なくとも、「○歳までに結婚すべき」という昭和型の“結婚適齢期”の感覚が、急速に弱まっていることは間違いないでしょう。
しかも、「結婚したい」と考える20代女性に対し、同年代の男性は「結婚しなくてもよい」と考えている――そうした男女の感覚のずれが、近年の非婚化に拍車をかけているのかもしれません。
最後に、「一人ひとりが異なって当たり前」という多様性を認めることで、「○○すべき/○○しなければならない」という強迫観念から解放されるのは、社会構造が変化していく現代において必然性が高いことと言えるでしょう。

----------

株式会社インテージ(かぶしきがいしゃ・いんてーじ)

マーケティングリサーチ会社

1960年に創業。インテージグループは、日本のみならずアジアNo.1(*)のマーケティングリサーチ会社であり、生活者の意識・行動データを長年にわたり蓄積・分析している。全国規模の消費者パネルデータや各種調査を通じて、消費・メディア・社会意識の変化を定点観測し、企業・行政・研究機関にも知見を提供。
事業ビジョンとして「Create Consumer-centric Values」を掲げ、生活者中心マーケティングの実現・支援に力を尽くしている。本書では、同社が長年培ってきたデータと分析知をもとに、現代社会の実像を読み解く。 

*「ESOMAR’s Global Top-50 Insights Companies 2025」に基づく(グループ連結売上高ベース)

----------

(マーケティングリサーチ会社 株式会社インテージ 文=プリンシパル・アナリシス・デザイナー 鶴田育緒)
編集部おすすめ