全国には「○○市駅」と、地名だけでなく「市」まで駅名になっているケースが多く存在します。その成り立ちにはいくつかのパターンがありますが、なかには不本意ながらそうなった事例もあるようです。
駅名の多くは地名が採用されますが、なかには「○○市駅」というように「市」までが駅名になっているケースも多く存在します。2020年3月には茨城県のJR常磐線 佐貫駅が「龍ケ崎市駅」に改称され、関東にまたひとつ「市駅」が誕生しました。
なぜ「市」まで駅名になるのでしょうか。その成り立ちにはいくつかのパターンがあります。
ひとつは、「○○駅」が先にあり、後からできた駅が「○○市駅」を名乗っているパターンです。たとえばJR京都線(東海道本線)の高槻駅に対する阪急京都線の高槻市駅(いずれも大阪府)、JR両毛線の足利駅に対する東武伊勢崎線の足利市駅(いずれも栃木県)などで、どちらも「高槻町駅」「足利町駅」から市制施行により「市駅」に改称されています。
こうした使い分けは、離れた地域どうしの駅でも見られます。たとえば千葉県の野田市駅(東武アーバンパークライン)ですが、大阪市に野田駅(JR大阪環状線、阪神本線)があります。埼玉県の入間市駅(西武池袋線)や和光市駅(東武東上線、東京メトロ)は、いまでこそ類似する名前の駅がありませんが、市が発足する前の駅名はそれぞれ「豊岡町駅」「大和町駅」でした。豊岡駅は兵庫県(山陰本線、京都丹後鉄道)に、大和駅は神奈川県(小田急、相鉄)にあります。
和光市駅(画像:写真AC)。
また「町駅」や「市駅」が、国鉄(JR)の駅より街の中心部にある、といった意味も込めて命名されたケースも。
このように「市駅」はどちらかというと私鉄に多いものの、JRの駅でも、日向市駅(日豊本線、宮崎県)や長門市駅(山陰本線・美祢線、山口県)などが存在します。これらは市制施行後に別の駅名から改称されましたが、いずれも旧国名に由来する広域な地名です。「日向○○駅」「長門○○駅」も複数存在するなかで、単に「日向駅」「長門駅」とするのは、確かに分かりにくいかもしれません。
国が要請 駅名を譲って「市駅」になかには、「○○駅」の名を譲って「○○市駅」になった、というケースもあります。
その代表例が愛媛県、伊予鉄道のターミナルである松山市駅で、当初は「松山駅」を名乗っていました。もともと愛媛県は私鉄が早くから路線網を築いていた一方、国鉄線の開業が遅く、松山駅の開業から約40年後に国鉄の駅ができています。この際、国が伊予鉄に対し松山駅の名を譲るよう要請し、伊予鉄は反発したものの、結局は譲歩して松山市駅に改称しました。

松山市駅は元「松山駅」(画像:写真AC)。
埼玉県「川越」の場合はもっと複雑です。市内にJR・東武の川越駅、東武の川越市駅、西武の本川越駅がありますが、このなかで最も開業が早かった本川越が、もともと川越駅を名乗っていました。
ちなみに、冒頭で紹介した茨城県の龍ケ崎市駅は、龍ケ崎市が知名度アップのためJR東日本に要請し、佐貫駅からの改称に係る費用を負担する形で実現しました。一方で、同駅に接続する関東鉄道は駅名も路線名も変えていません。このためJR「龍ケ崎市駅」に隣接する関東鉄道の駅は「佐貫駅」のまま、その路線名は「竜ヶ崎線」、なおかつ「龍ケ崎市」中心部にある同線の終点は「竜ヶ崎駅」という、ややこしい状況になっています。