新型コロナウイルスの感染拡大が続く中迎えた2021年、社会は「7割経済」で推移するともいわれます。鉄道各社は存続のため、運行体制や運賃体系の見直し、他事業の整理など、年初から経営の根幹部分で難しいかじ取りを迫られそうです。

大手私鉄 首都圏を中心に春から終電繰り上げ

 新型コロナウイルスの感染拡大に歯止めがかからないまま2021年を迎えました。例年、初詣客のために大みそかから元旦にかけて行われる終夜運転も、今回は軒並み中止となり、JR東日本や東京メトロなど実施を予定していた事業者も、感染再拡大を受けて12月18日に中止を決定しました。大みそかの終夜運転が一般化したのは1920年代から1930年代にかけてのことですが、全面的に中止となったのは、太平洋戦争開戦直後の1941(昭和16)年の大みそか以来となります(1952年の大みそかから復活)。

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JR宇都宮線と常磐線の車両(画像:Photock)。

 鉄道にとっては今年も引き続き苦しい年になりそうです。JR東日本は2020年10月、東京を中心に半径約100km圏を走る各路線の終電を、2021年春から最大30分程度繰り上げると発表しました。その後、JR東日本に追従する形で小田急電鉄や西武鉄道が終電繰り上げを決定し、最終的に首都圏の大手私鉄全社が終電繰り上げを行うことになりました。関西私鉄も京阪電鉄が終電繰り上げを発表したほか、阪急電鉄と阪神電鉄が終電繰り上げの検討を表明しています。

 コロナショックは運賃制度の見直しにも波及しています。JR東日本とJR西日本は、ラッシュ時とオフピーク時で運賃を変動させる時間帯別運賃制の導入を提唱し、国土交通省と協議を開始しました。

時間帯別運賃制度の議論は進むか JR東日本は新ポイント施策も

 時間帯別運賃の導入は実質的な値上げと言われることもありますが、雑誌『AERA』のインタビューでJR西日本の長谷川一明社長が「全体で我々がいただく運賃収入が変わらないようにする」前提で国土交通省と調整を行っていると明かしているように、目的は増収ではありません。

どうなる? 2021年の鉄道 運賃見直しの機運も 終電繰り上げは全国に波及するか

終電後に行われる点検や修繕作業の例(2018年2月、恵 知仁撮影)。

 鉄道はピーク時間帯の輸送力を基準に、車両や人員、駅設備、信号システムなどを用意しますが、これらは閑散時間帯では全くの遊休資産となってしまいます。ピーク輸送量を削減して朝ラッシュ時間帯の減便が実現すれば、鉄道会社にとって、もっと効率的な経営が可能になるというわけです。導入には法制度の改正が必要なことから、実現は早くても2022年以降と見られていますが、こうした議論がどのように進むかも注目されます。

 JR東日本は今年春から、朝のピーク時間帯(7時から8時30分まで)を避けて定期券を利用した人に、JREポイントを付与するサービスを1年間の期間限定で開始します。ピーク時間帯より前に利用した人には1日につき15ポイント、後に利用した人には20ポイントが付与され、ポイントはSuicaへのチャージなどに使えます。時間帯別運賃制度が実現するまでは、こうしたポイント施策によって混雑分散を推進する動きが進むものと思われます。

コロナ禍は「7割経済」? ホテルやリゾート事業の見直しもあり得る

 一方で、運賃収入の大幅な落ち込みを受け収支改善を図る必要があるとして、JR四国と近鉄が運賃値上げの検討に着手したとも報じられています。大手私鉄ですら赤字に苦しんでいる中、地方中小私鉄の経営は厳しさを増しており、増収を目的とした運賃値上げに踏み切る事業者が続く可能性も否定できません。

 コロナ禍は「7割経済」をもたらすといわれています。実際、大手私鉄の直近の輸送人員は例年の7割程度で推移しており、運輸事業は軒並み赤字に転落しています。しかし、第2四半期単体(7月から9月まで)で見ると、東武鉄道や阪急・阪神ホールディングスのように運輸事業の営業黒字化を達成している企業もあり、7割の乗客でいかに利益を出せる体制を構築していくかが問われることになりそうです。その過程では、経営の足かせとなっているホテル・レジャー・リゾート事業の整理縮小なども進む可能性があります。

 最後にひとつ明るい話題を紹介しましょう。4月中旬、小田急線の海老名駅隣接地(神奈川県海老名市)に「ロマンスカーミュージアム」がオープン予定です。関東大手私鉄では東急、東武、東京メトロ、京王、京急に次ぐ企業博物館となり、小田急が誇る歴代ロマンスカーの展示や、実際の運転席を用いた運転シミュレーター、小田急沿線を再現したジオラマなどが楽しめる施設になるようです。もっとも「密」を避けるため、しばらくは入場制限が行われることになるかもしれません。

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