中央線や京葉線から武蔵野線を経由して大宮駅へ向かう「むさしの号」「しもうさ号」が、1日に片道3~5本運行されています。貨物線を走行し別路線へ乗り入れるレアな列車は、なぜ生まれたのでしょうか。
旅客列車は一般的に、ひとつの路線内で運行が完結している、あるいは複数の路線を経由したり相互直通運転したりする場合も、その「運転系統」は広く知られているものです。
しかし稀に、普段は旅客列車が通らない短絡線を経由して、全く別の路線に移っていく列車も運行されています。
大宮駅で発車を待つ武蔵野線カラーのE231系「しもうさ号」(乗りものニュース編集部撮影)。
たとえば、京都方面と関西空港を結ぶ特急「はるか」は、JR京都線から貨物線を経由し、大阪環状線へ乗り入れます。また、南越谷駅と鎌倉駅の間で不定期に運転される「ホリデー快速鎌倉」(全車指定席)は、通常は貨物列車しか走らない「武蔵野南線」を経由し、武蔵野線から横須賀線へ乗り入れるというアクロバティックなルートになっています。
その中で、特急券や指定席券もいらず、毎日数本運行され比較的乗りやすい列車が、首都圏に2種類あります。それが武蔵野線を経由する「むさしの号」と「しもうさ号」です。
短絡線をフル活用し都県をまたぐ普通列車「むさしの号」は、八王子を出発して中央線を東へ走行し、国立を出るとまもなく側線に入り、ゆっくりと地下トンネルへ。トンネル内で進路を北に変えた列車は、そのまま地下で武蔵野線と合流します。

「むさしの号」「しもうさ号」の運行経路図(国土地理院の地図を加工)。
武蔵野線をしばらく進み、北朝霞を出て荒川を渡ると線路は複々線となり、列車はその外側を走行。次の西浦和には外側の線路にホームが無いため、そのまま通過となります。
大宮行きは、八王子または府中本町発が平日4本・土休日5本、大宮発八王子行きは毎日3本が運行されています。
「しもうさ号」は大宮駅を出ると、「むさしの号」と同様のルートで走行したのち、地下トンネルに入ります。埼京線の中浦和駅をくぐると、東に大きく向きを変えて武蔵野線に合流し、すぐに武蔵浦和に到着します。そのまま武蔵野線を時計回りに走り、西船橋から京葉線に乗り入ると、まもなく終点の海浜幕張です。大宮~海浜幕張の所要時間は約1時間15分です。
「しもうさ号」は毎日3往復が運転され、大宮発の列車は、海浜幕張行きと新習志野行き、西船橋行きがあります。
「むさしの号」の歴史は旧いひとつの列車がめまぐるしく路線を移っていく「むさしの号」ですが、古くは1983(昭和58)年の臨時列車「新幹線リレー号」(府中本町~大宮間運行)までさかのぼることができます。1989(平成元)年には「ホリデーむさしの」という形で、大宮から高尾まで運転されたこともありました。

クモハ103形を先頭にした「ホリデーむさしの」大宮発高尾行き(1989年、伊藤真悟撮影)。
1997(平成9)年には「こまちリレー号」という名前で登場。名前からも分かるとおり、秋田新幹線の開業に合わせて登場した列車で、中央線沿線から大宮駅経由で東北・上越新幹線を利用する乗客の利便性をアピールするのが目的でした。
その後、「快速むさしの号」「ホリデー快速むさしの」など変遷を経て、2010(平成22)年のダイヤ改正で毎日運行されるようになりました。
一方「しもうさ号」は2010年、「むさしの号」が毎日運行となったのと同時に誕生していますが、このダイヤ改正では東北新幹線の八戸~新青森間が開業しています。奇しくも13年前と同じく、大宮駅での新幹線乗り継ぎをアピールする存在になっていたのです。
ただ、現在も朝夕数本しかないため、アクセス列車として利用する際はピンポイントで計画を立てる必要があります。立川市内に住む40代の男性は「東北新幹線に乗る時は、中央線で東京駅まで行く」とのこと。武蔵野線沿線の新座市内に住む30代の男性も「大宮に遊びに行く際は便利だが、ちょうどやって来たらラッキーという程度」と言います。
「大回り乗車」で利用する時の落とし穴なお、大都市近郊区間のみを利用する場合の特例、いわゆる「大回り乗車」でこの2つの列車に乗る際には、注意が必要です。まず前提として、この特例が適用されるには、「同じ駅や経路を2回以上通らない」ことが必要です。
「むさしの号」は西浦和から分岐し与野方面へ向かいますが、大宮~北朝霞方面を乗り通す場合は、南浦和まで乗って武蔵野線と東北本線とを乗り換えたという扱いになります。
逆に、「しもうさ号」は武蔵浦和駅に停車しますが、大宮~東浦和方面を乗り通す場合は、同じく南浦和で武蔵野線と東北本線とを乗り換えたという扱いです。

「しもうさ号」を利用した場合の運賃計算の扱い(JR東日本の路線図を加工)。
つまり、「むさしの号」「しもうさ号」に乗って大宮まで行き、埼京線に乗り換えて新宿方面へ南下した場合、「むさしの号」に乗った場合は武蔵浦和駅を2回通ったことになるので大回り乗車は適用されません。逆に「しもうさ号」に乗った場合は、武蔵浦和駅を1回しか通っていないことになり、大回り乗車が適用されるのです。
※誤字を修正しました(2月13日16時50分)。