日本全国の私鉄・第3セクター鉄道の中から、“座席鉄”の筆者が独断で「快適な車両」を5つ選びました。設備の豪華さをウリにするリゾート特急も増え、一度は乗りたい列車ばかりです。

設備が多い列車を中心に選定

 全国各地で見られる私鉄・第3セクター鉄道の有料特急列車。定期列車の中で、利用していて快適だと感じる車両には何が挙げられるでしょうか。“座席鉄”の筆者(安藤昌季:乗りものライター)が5つを紹介します。

東武鉄道 100系「スペーシア」

 JR新宿・浅草~東武日光・鬼怒川温泉間を結ぶ車両です。1990(平成2)年製で、間もなく後継車両がデビューしますが、現時点でも私鉄特急トップクラスのグレードを誇るのではないでしょうか。

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東武100系「スペーシア」(安藤昌季撮影)。

 普通席は、シートピッチ(前後の座席間隔)が1100mm、座席幅が46cm。リクライニング角度は17度で、JR特急のグリーン車に近いゆとりです。フットレストも備わります。

 4人用個室は、天然大理石のテーブルや深い絨毯を備えた豪華な仕様で、非常に窓が広く、開放感もあります。座席も中間肘掛けを跳ねあげた状態で595mmの幅があり、背もたれにも適切な角度があるため、非リクライニング座席としては現時点でも最高レベルの座り心地です。

近畿日本鉄道 19200系「あをによし」

 京都~近鉄奈良・大阪難波間を結ぶ、観光特急です。

 1・3・4号車は「ツインシート」で、窓側に斜めに向けられた席と、正面で向かい合う席があります。家具メーカーに製作させた座席を備え、インテリアは非常にお洒落です。座り心地については、運行時間が短いのでそれほど支障はありませんが、背もたれの形状が垂直に近く、腰部のふくらみが小さいため、体を起こして背筋を伸ばすような着座感が気にかかります。

 2号車の3~4人用区画「サロンシート」は、縦1m、幅2mの超大窓を備えた半個室区画です。ソファも沈みこむようにゆったりとしており、インテリアの豪華さも含めて、JRを含む全国の特急車両でも最高レベルの設備と感じます。比較的短距離の京都~近鉄奈良間でも売店営業を行っている点は意欲的で、魅力的な列車です。

近畿日本鉄道 50000系「しまかぜ」

 大阪難波・近鉄名古屋・京都~賢島間を結ぶ車両で、1+2列の「プレミアムシート」と、4~6人用半個室の「サロン席」、3~4人用の「洋風個室」「和風個室」を備えます。「和風個室」は、第3編成のみ内装が異なります。

“座席鉄”が選ぶ「快適な私鉄特急」ベスト5 三セクのリニューアル車も負けず劣らず!
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近鉄50000系「しまかぜ」のカフェ車両(安藤昌季撮影)。

 特筆すべきは、軽食ではない食事を提供する「カフェ車両」があること。眺望に優れた2階席と、落ち着きのある1階席が備わります。

「プレミアムシート」は1+2列で、シートピッチ1250mm、座席幅480mmの回転式リクライニングシート。

付帯設備は背面テーブル、肘掛け内テーブル、網袋、レッグレスト、枕です。柔らかく、皮の触感も優れた座席だと感じます。

「サロン席」と「洋風個室」は固定式座席ですが、背もたれと座面が「伊勢志摩ライナー」の「サロンシート」と同じく背もたれのクッション性が高く、座面の幅も広いため、リクライニングしなくてもゆったりと体が支えられます。

 掘りごたつ式の「和風個室」は、落ち着いた内装で居心地のよい空間です。リクライニングする座椅子が付いており、座り心地はなかなかです。

智頭急行 HOT7000系「スーパーはくと」

 第3セクター鉄道でオススメなのは、智頭急行「スーパーはくと」です。JR線と直通し京阪神~鳥取間を結ぶ特急車両を所有しています。1994(平成6)年製ですが、2度のリニューアルを受けており、和風の内装はお洒落です。

 普通席は2+2列で、シートピッチ980mmの回転式リクライニングシート。大型背面テーブルやフットレストを備えています。リニューアル時に窓側座席のみ、コンセント付きとなりました。グリーン車のシートピッチは1170mmで、1+2列。

重厚な座り心地です。

 なお、増結用車両で連結されていないこともあるので、確実に乗車できるとは限りませんが、貫通型先頭車であるHOT7020形に2人・4人用のソファの「簡易個室」が備わります。座り心地はゆったりしていますが、リクライニングはしません。ユニークな設備なので、指名買いができるようにしてほしいものです。

長野電鉄 2100系「スノーモンキー」

 地方私鉄からは長野電鉄の特急「スノーモンキー」を紹介します。かつてJR東日本の空港特急「成田エクスプレス」で使われていた253系を改装した、2100系電車で運行されています。

“座席鉄”が選ぶ「快適な私鉄特急」ベスト5 三セクのリニューアル車も負けず劣らず!
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長野電鉄2100系「スノーモンキー」の2・3号車、集団見合い式座席(安藤昌季撮影)。

 特筆すべきはVIP客の利用を考慮して設けられた、4人用グリーン個室の存在です。「Spa猿~ん」と名付けられたこの個室は、1室1200円の追加料金で利用できます。

 個室のシートピッチは2200mm、個室の横幅は2000mmで、電動式リクライニングシートを備えます。横幅が広い重厚な座り心地を体験できます。

 一般席は2種類あります。

ひとつ目は2・3号車に設置された、客室の中央で半々の座席が向かい合わせとなった「集団見合い式」と「固定式クロスシート」です。シートピッチは向かい合わせ部分で2040mm、2人掛け部分で1020mmとゆったりしています。

 フランスのコンパン社が手掛けた座席であり、リクライニングはしませんが、座り心地は良好です。ちなみに、登場時は全座席がボックスシートでしたので、そこに座れば「登場時の253系成田エクスプレス」を体感できました。

 2つ目は1号車のみにある、シートピッチ1020mmの回転式リクライニングシートです。座面スライド機構が付いています。日中の一部列車では指定席です。

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 特に私鉄の場合、各社の顔ともなり得る特急列車。イメージ戦略にも大きく貢献する車両ゆえに、デザインから乗り心地、車内サービスに至るまで、社の技術や知恵の結晶でもあります。大手ならなおさら、特急列車に100年近い歴史もあるため、時代が求めるニーズに応えつつ、同時にその伝統も継承しようと努めるでしょう。

 それは新型車両という形になるのか、はたまた既存車両のリニューアルとなるのか。今後も社運を賭けた特急車両が登場するのだろうと、筆者は楽しみです。

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