日本が欧州4か国のメーカーによるUAS(無人航空機システム)の開発に参画します。米国やイスラエルなどの“無人機先進国”ではない、開発で遅れをとっている欧州のプロジェクトに参加する理由はどこにあるのでしょうか。

欧州の巨大無人機プロジェクトへ日本参画

 ヨーロッパを中心とした各国による防衛装備プログラムを管理する独立した国際機関のOCCAR(防衛装備協力共同機構)は2023年11月30日、OCCARがプログラムを管理するUAS(無人航空機システム)「MALE RPAS」の開発プログラムに、日本がオブザーバーとして参加することを承認したと発表しました。

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日本がオブザーバーとして開発に参加するMALE RPASのイメージ(画像:エアバス)。

 発言権はあるものの議決権を持たないオブザーバー資格ではありますが、日本がOCCARの管理する防衛装備品の開発プログラムに参加するのは、これが初となります。

 日本政府は2023年9月7日、OCCARに対してMALE RPASプログラムにオブザーバーとして参加するための資格の付与を要請。この要請がOCCARの理事会で承認されたことから、11月30日にドイツのベルリンで、OCCARのヨアヒム・サッカー理事(事務局長)から柳 秀直駐ドイツ日本大使に対して、OCCARのシュタヴィツキー理事会議長の署名入りの承認書が手交されています。

 MALE RPASはドイツ、フランス、イタリア、スペインが共同開発するMALE(中高度長時間滞空型無人航空機)に分類されるUAS(無人航空機システム)で、ヨーロッパの主要国が開発計画に参加することから、「ユーロドローン」という愛称でも呼ばれています。

ちなみに全長は最大16m、翼長は最大26mとされ、有人のジェット戦闘機ほどの大きさがあります。

 開発にあたってはエアバスとダッソー・アビエーション、レオナルドの3社が企業チームを結成しており、OCCARは2022年2月24日に、チームを代表するエアバスと開発・製造契約を締結しています。

 MALE RPASの用途は情報収集、監視、偵察や国土安全保障業務などが想定されていますが、導入国の要求に応じた能力の拡張や再調整が容易に行える点が、特徴の一つになっています。

 MALE RPASの開発に参加するドイツ、フランス、イタリア、スペインの4か国は、いずれも高い航空技術力を持つ国々ですが、MALEの開発ではアメリカやイスラエル、中国などにリードされているというのが現状です。

 日本もMALEの開発では遅れをとっているのですが、では何故に、同じく遅れをとっている欧州の国々が開発するMALE RPASの開発プログラムに参加することとなったのでしょうか。

将来の空は「無人機だらけ」に?

 日本がMALE RPASの開発に参画した理由は、「最初から民間航空機の飛行空域に統合するための要件を満たすように設計された」という、MALE RPASの特徴の一つにあるのではないかと筆者(竹内 修:軍事ジャーナリスト)は思います。

 2023年12月の時点で、日本において運用されているMALEは海上保安庁が運用している「シーガーディアン」3機だけです。2023年11月20付の読売新聞は、海上保安庁が2025年にシーガーディアンをさらに2機購入し5機体制にすると報じています。

 シーガーディアンには、衝突防止装置(TCAS)と、放送型自動従属監視装置(ADS-B)、空対空レーダーを組み合わせて、近くを飛行する航空機を探知すると、自動的に高度や針路を変更して衝突を回避するシステムが装備されています。5機程度の機数であれば、現状でも民間航空機とのすみわけは可能であると考えられます。

「日本も仲間に」エアバスら欧州の「巨大無人機」開発へ参画する意味 日本の空が一変?
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OCCARのヨアヒム・サッカー理事(左)からMALE RPAS開発へのオブザーバー参加承諾書を受け取る柳 秀直駐ドイツ日本大使(画像:OCCAR)。

 しかし2022年12月に発表された防衛力整備計画の別表には、10年後を目標に陸上自衛隊に1個多用途無人航空機部隊、海上自衛隊に2個無人機部隊、航空自衛隊に1個無人機部隊を置くと明記されています。

このうち陸上自衛隊と海上自衛隊が導入するUASはMALEとなる可能性が高く、また海上保安庁のシーガーディアンにはさらなる増勢の話もあるようなので、2030年代前半の日本の上空を飛行するMALEの数は一気に増加するものと思われます。

 MALEの数が増加すれば、当然のことながら民間航空機とどうすみわけをするのかという問題が浮上してきます。

開発の経験は物流に活かせる!?

 MALEは軍事以外の利用も想定されています。国土交通省経済産業省、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術開発機構)は、過疎地への物流確保や大規模災害時の救援などに、中大型無人航空機を活用する構想を持っています。

 シーガーディアンのメーカーであるジェネラル・アトミクス・エアロノーティカル・システムは2016年5月に長崎県の壱岐空港で、シーガーディアンの原型であるMALE「ガーディアン」の飛行実証試験を行っていますが、この試験が壱岐空港で行われた背景には、前に述べた経済産業省らの構想を実証する目的もあったと筆者は聞き及んでいます。

 この構想が実現するのかは未知数ですが、少子化でパイロットや整備士などの絶対数が不足し、日本の経済力の低下で外国人パイロットの確保も困難になることなどを鑑みれば、過疎地への物流確保に中大型無人航空機を活用する構想は合理的だと筆者は思います。

そうなれば当然、軍事用のみならず民間で運用されるMALEの数も大幅に増加することになります。

 MALE RPASは、1国あたりの国土が狭く、上空を様々な航空機が飛行するヨーロッパでの運用を想定しています。前にも述べたように最初から民間航空機の飛行空域への統合、すなわち民間航空機とのすみわけを考慮して開発されるMALEであることから、開発よって蓄積されるノウハウは2030年代以降の日本にとって有益となるはずです。