青い客車を連ねた「ブルートレイン」。鉄道ファンでなくとも知名度の高い言葉だと思われますが、もはや1列車しか残っておらず「死語」になるかもしれません。

近年、廃止が相次ぐそうした夜行列車。理由として車両の老朽化などがよく挙げられますけれども、必ずしもそうとは言えなさそうです。

定期的に走る夜行列車は2つだけに?

 1956(昭和31)年11月19日、戦後初の夜行特急「あさかぜ」が東京~博多間で運転を開始しました。この「あさかぜ」は登場から2年後の1958(昭和33)年10月1日、使用車両を青地に白帯が入った20系客車に変更。最初の「ブルートレイン」になります。

 しかしそれから60年近く経過した現在、「ブルートレイン」は風前の灯火です。2014年11月現在、残っているのは上野~札幌間を結ぶ寝台特急「北斗星」しかありません。それも北海道新幹線の開業に伴い、2015年度で廃止が検討されていると2014年5月、朝日新聞が伝えています。

「ブルートレイン」に限らず、夜行列車そのものが非常に少なくなりました。定期的に運転される列車以外に臨時列車、団体専用列車を含めても次の11種類のみです。

【定期】寝台特急「北斗星」(上野~札幌)
【臨時】寝台特急「カシオペア」(上野~札幌)
【臨時】寝台特急「トワイライトエクスプレス」(大阪~札幌)
【臨時】寝台特急「あけぼの」(上野~青森)
【定期】寝台特急「サンライズ瀬戸」(東京~高松)
【定期】寝台特急「サンライズ出雲」(東京~出雲市)
【定期】急行「はまなす」(青森~札幌)
【臨時】快速「ムーンライト信州」(新宿~白馬)
【臨時】快速「ムーンライトながら」(東京~大垣)
【臨時】特急「尾瀬夜行」「スノーパル」(浅草~会津高原尾瀬口)
【団体】「ななつ星in九州」(博多~博多)

 このうち「トワイライトエクスプレス」は2014年度での廃止が決定しており、「カシオペア」と「はまなす」は「北斗星」同様、北海道新幹線の開業で廃止が検討されていると報道されています。

 つまり、北海道新幹線が開業すると「北斗星」が廃止され「ブルートレイン」が絶滅するほか、定期的に運転される夜行列車が「サンライズ瀬戸」「サンライズ出雲」のみになる可能性があるのです。

 ちなみに寝台特急でも、客車の色が青いなどの要件を満たさないと「ブルートレイン」とは呼びません。

同じ駅から毎日25本の夜行列車が出発していた時代

 山陽新幹線の岡山~博多間が開業する直前の1974(昭和49)年10月には、東京発大阪、九州方面行きの定期夜行列車だけで現在の夜行列車本数を上回る13本が運転されていました。

10:00 急行「桜島」「高千穂」 西鹿児島(鹿児島本線・日豊本線経由)
16:30 寝台特急「さくら」 長崎・佐世保
16:45 寝台特急「はやぶさ」 長崎・西鹿児島
17:00 寝台特急「みずほ」 熊本
18:00 寝台特急「富士」 西鹿児島(日豊本線経由)
18:20 寝台特急「出雲」 浜田
18:25 寝台特急「あさかぜ」1号 博多
18:55 寝台特急「あさかぜ」2号 博多
19:00 寝台特急「あさかぜ」3号 博多
19:25 寝台特急「瀬戸」 宇野
21:30 寝台急行「紀伊」「銀河」1号 紀伊勝浦・大阪
22:45 寝台急行「銀河」2号 大阪
23:30 普通 大垣

 同じく1974年10月、上野駅から東北などへ向かう夜行列車はまだ東北・上越・長野新幹線がなかったため、毎日運転の定期列車のみで25本とさらにスゴいことになっています。

19:09 急行「八甲田」青森
19:27 急行「津軽」1号 青森(奥羽本線経由)
19:50 寝台特急「ゆうづる」1号 青森(常磐線経由)
20:00 寝台特急「ゆうづる」2号 青森(常磐線経由)
20:50 急行「十和田」2号 青森(常磐線経由)
20:51 急行「越前」 福井
21:14 急行「鳥海」 秋田(羽越本線経由)
21:40 寝台特急「ゆうづる」3号 青森(常磐線経由)
21:48 寝台急行「北陸」2号 金沢
22:00 寝台特急「あけぼの」1号 青森(奥羽本線経由)
22:08 寝台急行「北星」 盛岡
22:13 普通 長岡
22:24 寝台特急「はくつる」 青森
22:28 寝台特急「あけぼの」2号 青森(奥羽本線経由)
22:38 寝台急行「天の川」 秋田(羽越本線経由)
22:41 急行「津軽」2号 青森(奥羽本線経由)
23:00 寝台特急「ゆうづる」4号 青森(常磐線経由)
23:04 急行「出羽」 酒田(奥羽本線・陸羽西線経由)
23:05 寝台特急「ゆうづる」5号 青森(常磐線経由)
23:20 急行「佐渡」4号 新潟
23:21 急行「十和田」4号 青森(常磐線経由)
23:32 急行「いわて」3号 盛岡
23:41 寝台急行「新星」 仙台
23:55 急行「あづま」2号 「ばんだい」6号 仙台・会津若松
23:58 急行「妙高」5号 直江津

むしろ夜行列車は廃止しない理由がみつからない?

 なぜそれほど隆盛していた夜行列車がいま、風前の灯火なのでしょうか。

 2014年度で運転を終える寝台特急「トワイライトエクスプレス」について、JR西日本は「車両老朽化のため」としています。

 また「北斗星」「カシオペア」「はまなす」については、青函トンネルが新幹線対応仕様になるため機関車を新しくする必要がある、深夜に青函トンネルの点検をしなくてはならない、といった理由が報道されています(ただ青函トンネルは重要な物流ルートであることから、深夜の一部時間帯に貨物列車を走らせる案も存在している)。

 そして鉄道会社が夜行列車を廃止する理由として、次のこともよく指摘されます。

・夜間に乗務員や駅員を確保することによるコスト等の問題。
・車両運行に必要な乗務員訓練の手間、コスト。
・長距離を走るため複数の鉄道会社をまたぐことがあり、調整や手間が増える。
・寝台車両を日中も活用することは簡単ではない。つまり日中は車両を使えず効率が悪い。

 しかしこうした理由は、仮に夜行列車の需要が非常に旺盛で収益性も悪くなければ、問題にならないものも多いと思われます。よって夜行列車の廃止は新幹線や航空機などの発達によって移動を目的とした需要が大幅に減少していることが根本にあり、発生した諸問題をコストと手間をかけクリアしてまで運行する十分な理由も社会的責務もない、とするのが自然でしょう。

 現在、夜行列車で活性化しているのは「ななつ星in九州」(JR九州)や「四季島」(JR東日本)といった移動目的ではなく周遊型の、旧来の夜行列車とは存在の仕方が土台から異なる豪華クルーズトレインであることも、それを物語っているかもしれません。

 ちなみに廃止がささやかれている急行「はまなす」は、定期列車としてJRに唯一残る急行列車です。寝台特急と比べると地味かもしれませんが、寝台車のほかに座席車を連結。昔ながらの夜汽車の雰囲気が非常に色濃く残っていますので、お早めのご乗車をオススメします。

編集部おすすめ