C2中央環状線の全通で首都高のネットワーク効果が高まりましたが、3号渋谷線では逆に渋滞が悪化しています。その解決に、中途半端な路線に見える2号目黒線と第三京浜が、大きな力を発揮するかもしれません。

そのヒントがパリにあります。

3号線の渋滞を緩和できる2号線

 首都高C2中央環状線が全通して約1カ月。年度末の混雑シーズンが過ぎ4月に入り、首都高の渋滞は激減。ネットワーク充実の効果がはっきり見えてきました。

 一方、3号渋谷線はかえって混雑が悪化し、利用者の不満は高まっています。もともと東名方面への交通需要が多く、混雑する3号線。それがC2の全線開通によって3号線へ3方向からクルマが一気に集中するようになり、夕方は下り方向の渋滞で大橋JCTがパンクします。午前中の上り渋滞も深刻なままです。

 これを抜本的に緩和するには、外環道東京区間の開通(恐らく約10年後)を待つしかありませんが、実はもうひとつ手があります。それは、2号目黒線を第三京浜まで延伸することです。

 2021年度、首都高横浜環状北西線が完成し、東名の横浜青葉JCTと第三京浜港北JCTが直結される予定です。加えて第三京浜が2号目黒線につながれば、横浜青葉から都心部へ向かうもう1本のルートが完成。

3号渋谷線の渋滞は上下線とも大幅に緩和されるでしょう。

 2号目黒線はC2中央環状線と接続していませんが、C1都心環状線とは接続しています。またC2が全通した結果、C1の渋滞は約半分に減りました。そのため第三京浜を、空いたC1と接続する2号線と結ぶのは、むしろ合理的です。

東名に相手を取られた第三京浜

 そもそも第三京浜は、なぜある意味中途半端な玉川ICが終点なのでしょう。

 建設当時の記録から読み取れることは、当初から玉川ICは暫定的な終点で、「そのへんにしておけば、あとあと都合がよかろう」という意図だった、ということです。具体的には、「いずれ首都高3号渋谷線との接続に好適」ということでした。

 首都高3号線は結局、東名高速と接続されていますが、この第三京浜が計画された段階では、東名の計画はまだはっきりしていませんでした。

 というのも、戦後の都市間高速道路の計画において、まず構想されたのは東名ではなく中央道だったからです。計画された当初の中央道は、現在建設中のリニア中央新幹線とほぼ同じ南アルプス縦貫ルートが想定され、東京~名古屋間を最短距離で結ぼうと考えられました。そしてこれが実現した場合、東名は建設されないはずでした。

 1950年代、まだ日本の道路は恐ろしいほど貧しく、長距離輸送は旅客・運輸ともに鉄道が主役。

東京~名古屋間をクルマで移動するなど夢物語でした。当時の自動車交通にとって、それよりはるかに重要なのは近距離移動。たとえば東京~横浜間でした。第三京浜はそこを強化するため東名より先に計画され、完成は東名より4年早い1965(昭和40)年です。よって第三京浜が3号渋谷線との接続を想定していたとしても、不思議はありません。

 一方、2号目黒線も京浜間の輸送力増強を目的にしていますが、横浜方面へ向かう中原街道、第二京浜(国道1号線)と品川区内の戸越、荏原で接続するに留まっており、中途半端に見えます。そこから延伸する計画も、おぼろげなものでした。

 ただ3号渋谷線が東名に「取られて」からは、第三京浜との接続路線に2号目黒線が浮上。基本計画に組み入れられました。しかし1960年代にお蔵入り状態になり、現在へ至っています。中原街道も第二京浜も、新たにそこへ3号線のような高架構造の4車線道路を建設するには幅員が少し足りなかったのが最大の理由で、中原街道と第二京浜で上下線を分担して敷設する案まで出たようですが、具体化しませんでした。

2号線と第三京浜を活かすパリの「秘策」

 しかし2号目黒線と第三京浜の接続にあたり、現在なら、そうした幅員不足の問題はシールドトンネル化で解決できます。

加えて、このトンネルを乗用車専用(大型車通行禁止)にすれば、トンネルを1本にしてそれを上下2層構造とし、建設費を大幅に節約することができます。

 荏原~玉川間の距離は、中原街道と環8の地下を通すと仮定して約10km。ここを全線乗用車専用のシールドトンネルにすると、建設費はC2品川線の半分強、2000億円程度と見積もることができます。意外と安いといってもよいのではないでしょうか。

 乗用車専用の道路トンネルは、パリではすでに実現しています。パリの第2環状高速「A86」は、約8kmのトンネル区間を乗用車専用として建設し、2010年に完成しました。ここは内径10.4メートルのトンネル1本を上下2層に分けて運用しています。トンネルの上下高は2.55メートル、利用できるのは車高2メートル以下のクルマです。

 パリにはこのほか、一般道のトンネルにも乗用車専用のものが多く、パリ在住の友人によると、「有名なのはシャンゼリゼ通りの地下、コンコルド広場から、凱旋門のあるエトワールを通過しないでポルト・マイヨやデファンス方面に抜けるトンネルで、高さ制限が2.4mです。ただ週に1台はここにトラックが引っかかって、屋根を削ります(笑)」とのことでした。

 この件について首都高速道路株式会社の渋滞対策室に問い合わせてみたところ、次のようなコメントが返ってきました。

「弊社として具体的な新規建設についてコメントすることはできませんが、一般論として、乗用車専用にすれば工費・工期ともに短縮することが可能です。

ただ、大型車をどのように規制するかが課題で、誤進入時の対応策を練る必要があります」

 パリにできて東京にできないはずはありません。首都高最後の「夢」として、実現を目指せないものでしょうか。

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