2015年末、ついにリニア中央新幹線の工事が本格的に始まりました。標高3000m級の山脈を貫き、土被りの量が1400mにもなる南アルプストンネルが“最大の難所”とされますが、懸念があるとすれば、その本質は「土被りの量」ではないでしょう。

「スカイツリー」2本分以上

 2015年12月18日、JR東海はリニア中央新幹線で“最大の難所”とされる長さ25km19mの南アルプストンネルにおいて工事を開始。これにより「超電導リニア」を用いた“新世代の高速鉄道”建設が、いよいよ本格的に始まりました。

 JR東海がこの中央新幹線を建設する理由については、開業から50年以上が経過した東海道新幹線の経年劣化、東京~名古屋~大阪という需要の非常に大きな区間における大規模災害時の代替ルート確保、また企業としての存在基盤を将来へ向かい確保していくことなどが挙げられます。

 しかしそれが計画通りに現実化されるのか、懸念があるのも事実。“最大の難所”とされる南アルプストンネルは、そのひとつです。

 12月18日に行われた南アルプストンネル建設にあたっての安全祈願では、記者からもその“難しさ”に関する質問が出ています。

 そこで、同トンネルを施工する共同企業体のひとつ、大成建設の村田誉之社長はその“難しさ”を語るにあたり、最初に口にしたのは「1000mを越える土被り」についてでした。

「土被り」とは、簡単にいえば地表からトンネルまでの深さ。標高の高い場所でトンネルを造る場合、できるだけ土被りを小さくするのが一般的な考えかたです。しかし、南アルプストンネルはその名の通り標高3000m級の南アルプスを貫くため、最大で地表から約1400mも深い場所に穴を掘ります。高さ634mの「東京スカイツリー」を縦に2本並べたよりさらに深い場所、ということです。

本家アルプスに比べれば簡単?

 しかし約1400mという土被りは、“前代未聞”とは表現できない数字でもあります。

 ヨーロッパの“本家”アルプス山脈を貫くスイスのゴッタルドベーストンネルは、土被りの量がさらに1000m近く多い約2300mで、すでに2010年10月に貫通しています。

 また日本でも標高1977mの谷川岳直下を貫き、群馬県と新潟県を結ぶ上越新幹線の大清水トンネルは、土被りが約1300mです。

 そのためJR東海と独立行政法人の鉄道・運輸機構は南アルプストンネルについて、「上越新幹線大清水トンネル(延長22.2km:最大土被り1300m)、東海北陸自動車道飛騨トンネル(延長10.7km:最大土被り1000m)での施工実績や、これまでに得た地質性状から判断すれば施工可能である」とした資料を国土交通省へ提出しています。

 ただ地質や地層が異なるため、トンネル掘削の難易度を単純に比較することはできません。大成建設の村田社長は合わせて南アルプストンネルについて、「多い湧水、複雑な地層」など、いくつかの難しさがあると話しました。

 また先出のJR東海と鉄道・運輸機構の資料においても、「地山からの高圧湧水、糸魚川・静岡構造線等に伴う破砕帯周辺における切羽の自立性ならびに大量湧水、大土被り区間における塑性押出しなどが考えられる」とされました。「塑性押出し」とは、簡単にいえばトンネルが土の圧力によって内側に押されることです。

“豆腐の山”にトンネルを掘ったことも

 新潟県を走る第三セクター鉄道の北越急行線に、長さ9117mの鍋立山トンネルという“土木建設史上で屈指の難工事”として知られるトンネルがあります。掘っても掘っても内側へ押し出てくる膨張性地盤で「豆腐の山にトンネルを通すようなもの」とされましたが、色々な工夫を駆使して開通し、上越新幹線と連携して東京と北陸を結ぶ在来線特急「はくたか」のルートとして活用されました。

 また長さが53.9kmと世界一で、しかも海底から100m深い場所を通すとして1961(昭和36)年に着工された青函トンネルはそれこそ“前代未聞”でしたが、在来線用として開業したのち、今年2016年にはついに北海道新幹線が走り出します。

 リニア中央新幹線の南アルプストンネルについても、懸念があるとすれば、環境対策などを含めたその工事自体の“単純な難しさ”ではなく、計画通りに建設が進捗し、予定通り2027年に品川~名古屋間が40分で結ばれるかどうかです。先述の鍋立山トンネルも青函トンネルも様々な困難から、完成まで20年以上という長期間を要することになっています。

 南アルプストンネルで予定されている工期は10年。その進捗が中央新幹線、そして海外への展開も考えられている新世代の高速鉄道「超電導リニア」の将来を占う、としても過言ではありません。

「大成建設、佐藤工業、銭高組というボスポラス海峡にトンネルを造った最先端の企業が施工しますので、我々は全幅の信頼をおいております。遅れることは考えておりません」

 JR東海の柘植康英社長は南アルプストンネル建設の安全祈願で、このトンネルが持つ意味を物語るように、特に力強く、そう話しました。

 ちなみに、中央新幹線で最も長いトンネルは南アルプストンネルではなく、品川~神奈川間の第一首都圏トンネルで、36km924mです。

編集部おすすめ