映画『トップガン』を観て戦闘機乗りに憧れた人も多いと思われますが、実際にはどんな“職業”なのでしょうか。その実像について、航空自衛隊の現役戦闘機パイロットに聞きました。
映画『トップガン2』制作開始か——2016年1月末、世界を駆け巡ったこのニュースに胸を躍らせた人も多いのではないでしょうか。
前作『トップガン』は1986(昭和61)年に公開された、主演を務める俳優トム・クルーズの代表作のひとつ。かつて実在した、最強の戦闘機パイロットを育成するためのアメリカ海軍戦闘機兵器学校、通称「トップガン」を舞台に、F-14「トムキャット」艦上戦闘機の操縦士・マーベリックの成長と青春を描いた作品です。前作の公開から30年が経過しようとしていますが、美しい映像や音楽、そして最高にカッコイイF-14とトム・クルーズの姿から未だファンの支持は根強いものがあり、戦闘機映画における最高傑作のひとつとして数えられています。
プライドが高く自由奔放な主人公・マーベリックの姿は一般人にとって、いまや「戦闘機パイロット」という職業をイメージする際の典型のひとつとしてもよいでしょう。
では戦闘機パイロットの“リアル”とは、どのようなものなのでしょうか。航空自衛隊F-15J「イーグル」のパイロットにして、近年、スクランブルの回数が増大している南西域で防空の最前線を担う、那覇基地第9航空団第304飛行隊の飛行班長、原田祐二三等空佐に話をききました。
イーグルドライバーが語る“リアル”飛行隊長に次ぐ「ナンバー2」としてパイロットたちを統率し、規範になるという重要な任務に就いている原田三佐は、パイロットの心構えとして最も重要なのは「仲間と連携する協調心」といいます。
「戦闘機は特にそうなのですが、複数の航空機と共に作戦や訓練を行いますので、協調心、団結心というのは欠かせない要素だと思います」(原田三佐)
そして『トップガン』のマーベリックについては、「個人的には、やはり協調心がないのかな……と思います(笑)」と語ります。
「ただ作中で人間的に成長し、ラストシーンでは欠点を克服、最後は僚機を絶対に見捨てない立派な協調心を身につけました」(原田三佐)
どんなベテランパイロットも最初は新米。そこから経験を重ね、マーベリックのように成長していくのでしょう。では、ベテランパイロットと新米の違いはどこにあるのでしょうか。
「しいていえば判断力でしょうか。飛行経験の差が大きいと思います。操縦だけではなく、レーダー画面の判読や格闘戦、悪天候時の対処など、すべてにおいて過去の経験に基づいた判断がものをいいます。私も新米のころは初めてのスクランブルで僚機として発進し、とても緊張した覚えがあります」(原田三佐)
原田三佐も『トップガン』は大好きとのこと。続編では、成長したマーベリックが活躍してくれることでしょう。
戦闘機パイロットを実際に目指すには?原田三佐が搭乗するF-15Jは、『トップガン』の主役機であるF-14とほぼ同時期に誕生した機体です。
F-14とF-15、いずれも機動性に優れた戦闘機で、特にF-15は急旋回によって最大9G、すなわち地球の重力の9倍もの遠心力が身体へかかることになります。高いGに晒されると脳への血流が阻害され、最悪の場合には失神に至ることもあるため、急旋回中のパイロットは血液が足下に滞留しないよう下半身に力を入れ、特殊な呼吸法によって失神に耐えなくてはなりません。
原田三佐もパイロットという職業について「一見すると優雅に飛んでいるように見えるかもしれませんが、自分の限界に挑戦し、己の技を磨き続ける職業です」と話します。
「そのため常に自学研鑽し、新たな知識を学び続けます。また健康管理も欠かせません。筋力トレーニングを定期的に行って身体を作ることはもちろんですし、特に食事には気を使っています。
では戦闘機パイロットを目指すには、どういったことを心がければよいのでしょうか。
「まずは“強い心”を持って欲しいですね。戦闘機パイロットになるためには厳しい訓練がありますので、それに折れない強い心、また戦闘機に乗って国を守る、国民を守るという強い意志が必要だと思います。そして協調心も忘れないで欲しいです」(原田三佐)
原田三佐は戦闘機パイロットについて、「協調心」「団結心」「強い心と意思」「健康管理」が必須であり、日々の訓練によって「飛行経験」を積み「判断力」を養い、成長することができるといいます。
『トップガン』に憧れ戦闘機パイロットを目指す若者はいまだ少なくないようで、『トップガン2』公開後もきっと、多くの若者が航空自衛隊の門をたたくことになりそうです。パイロットを目指す人は、原田三佐の言葉を心に留めておくとよいでしょう。