NEXCO中日本の大規模ETCシステム障害をきっかけにした「危機対応マニュアル」をNEXCO3社がまとめました。高速道路会社内のシステムで起きる大規模な障害に、これでようやく対応することが可能になりました。
NEXCO中日本の高速道路で2025年4月6日に発生した、社内サーバーのトラブルに起因する大規模なETCシステム障害の「危機対応マニュアル」がまとまりました。6月23日、NEXCO3社が出席する危機管理検討委員会(名古屋大学大学院・中村英樹委員長)で、その案が了承されました。
ETC大規模障害が生じた中央道の三鷹本線料金所。2025年4月6日(中島みなみ撮影)。
大きく前進したのは、利用者ファーストの視点です。危機対応マニュアルには基本方針として、次のように書き込まれました。
・広域的なETCシステム障害時にも、交通の流れを止めないよう、現場で即時に必要な対応を行う。
・広域的なETCシステム障害時において、料金徴収に必要な情報を把握できず、円滑な料金の徴収が困難となった場合は、料金を徴収しない。
また、利用者の通行料金支払い義務と会社の責任について明示した運用の根幹をなす契約「供用約款」も書き換わります。
これまで、高速道路会社の責任について、委員会に対する当面の対応の説明では、「その態様・程度によっては裁判においてETCシステム障害も高速道路の設置・管理の瑕疵(かし)と認定される場合もあり得ると考える。本件が瑕疵に該当するか否かについても、事案に応じて個別に対応するものと考える」と、判断を先送りしていました。
供用約款には、会社に責任(=瑕疵)があったために利用者に損害が生じたときには、会社が損害を賠償すると定めていました。新たな供用約款には、この事例として、システム障害について明記されました。
高速道路会社は、システム復旧にかかる時間に関わらず、早期の“無料開放”に踏み切る迅速な判断が可能で、障害に伴う料金収受による渋滞の解消へ専念できることになりました。
通行券を発券する/しないの線引きもシステムの大規模障害が発生した場合の対応についても、マニュアル化されました。

ETC大規模障害で渋滞が発生した東名 音羽蒲郡IC上り線。2025年4月6日(画像:NEXCO中日本)。
高速道路会社が大規模システム障害を認知した場合は、道路側と車載器側の通信の状況に関わらず、通信を遮断します。システム障害の影響の範囲に応じて、入口と出口、両方の料金所の開閉バーを開けた状態にします。
個別の車載器との通信障害が発生した通常のトラブルの場合、開閉バーは閉じたままで、現金車と同様に通行券が発券されます。4月のシステム障害時も、これと同じ対応でした。
しかし、ETCシステム障害が位置付けられた危機管理対応マニュアルでは、大規模障害時には通行券の発行を取りやめ、料金所の渋滞回避に専念することが定められました。システム障害が発生した会社と隣接する高速道路会社にも大規模障害対応であることが通知され、通行券を持たない車両の清算を求めないことも決まりました。
ただ、こうした対応が行われたとしても起きる可能性がある渋滞による遅滞については、従来の供用約款と同じく、補償する責任を負わない姿勢が維持されました。
2001年のETCサービス開始以来、車載器側の障害に加え、システム側の障害が位置付けられたことで、ようやく利用者本位の体制が整うことになりました。
NEXCO中日本は、新しいマニュアルと供用約款の公表の翌日、6月24日に縄田 正社長が定例会見に臨みます。また、25日には株主である国土交通省との株主総会を控えています。