2016年12月、大阪環状線に新車323系電車がデビュー。路線状況に合わせたさまざまな工夫が施されているほか、利用者に“やさしく”なっているのも特徴です。

いったいどんな車両で、これにより大阪環状線の未来はどうなるのでしょうか。

JR西日本、11年ぶりの通勤形車両

 2016年12月24日(土)、大阪環状線で新型車両323系が営業運転を開始しました。JR西日本による「大阪環状線改造プロジェクト」の集大成ともいえるこの車両は、数々の新しい試みが取り入れられています。

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2016年12月に営業運転を開始した大阪環状線の「専用車両」323系。写真は車両製造工場で行われたセレモニーの様子(2016年6月、恵 知仁撮影)。

 323系電車は、JR西日本としては2005(平成17)年登場の321系電車(JR京都線やJR神戸線、JR東西線などを走行)以来、11年ぶりにデビューした通勤形車両です。現在、大阪環状線とJRゆめ咲線(桜島線)を走っているオレンジ色(一部ラッピング車両)の103系電車や201系電車の置き換え用として開発されました。JR京都線やJR神戸線の新快速、また関空・紀州路快速などで使われている225系電車、広島地区を走る227系電車といった、現在も製造が続く近郊形車両がベースとなっています。

 まず323系、ひとつ目の特徴は乗降用扉の数。JR西日本が製造する通勤形車両としては初めて、片側3扉となりました(従来は4扉)。扉の数を減らせば、一度に乗降できる人数も減るため、ラッシュ時などに影響が出る可能性があります。にもかかわらず、なぜ3扉にしたのでしょうか。

扉の数を減らすと安全性が高まる大阪環状線の環境

 大阪環状線の新型車両323系が片側3扉で登場した理由、それは安全性を高める「ホーム柵(ホームドア)」です。

「専用車両」登場で大阪環状線どう変わる? 新型323系電車の魅力とは

乗降用扉が3か所になった新型の323系電車。下は4扉の103系電車(恵 知仁撮影)。

 首都圏を中心に導入されている、ドアが横にスライドするタイプのホーム柵は、列車の扉の数や位置を揃える必要があります。しかし、大阪環状線ではオレンジ色をした片側4扉の103系電車や201系電車に加えて、片側3扉の223系電車や221系電車なども、関空・紀州路快速や大和路快速として乗り入れてきます。そこで、大阪環状線にもホーム柵を導入しやすいよう、JR西日本では同線を走る車両の扉数を3扉へ統一することに決定。そのため、新型車両の323系は片側3扉になりました。

「専用車両」登場で大阪環状線どう変わる? 新型323系電車の魅力とは

大和路快速に使われる3扉の221系電車(2014年7月、恵 知仁撮影)。

 ちなみに扉数を統一するにあたってJR西日本は、朝ラッシュ時に大阪環状線を走る列車を3扉にそろえ、混雑状況がそれでどう変わるか確認する実験を事前に実施。その結果、3扉にしても問題のないことが確認されたということです。

8号車はちょっと違う 大阪環状線の混雑状況に合わせた車内

 車内は側面窓に背中を向けて座るロングシートで、乗降用の扉と扉のあいだは10人掛け。ただし、内回り列車で最後尾となる8号車だけは、扉間が8人掛けになっています。

これがふたつ目の特徴です。

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混雑対策のため、扉周辺の座席を減らしている8号車(伊原 薫撮影)。

 8号車は大阪駅や天王寺駅、新今宮駅などで他路線への乗り換えに便利な位置となることから、もっとも混雑する車両です。そのため、この車両のみ座席の数を減らし、扉脇のスペースをそのぶん広くすることで、スムーズな乗降を可能にしています。これが、323系が「大阪環状線専用車両」といわれるゆえんです。このスペースの壁面には腰の位置にクッションパネルが設置され、立ち客が楽にもたれられるよう配慮されています。

「専用車両」登場で大阪環状線どう変わる? 新型323系電車の魅力とは

肩の入るスペースが確保されているほか、乗客を誘導する効果も見込まれる323系の袖仕切り(伊原 薫撮影)。

 そしてその横、座席に座っている乗客と立っている乗客を仕切る袖仕切りにも工夫が。袖仕切りを車体に直角ではなく斜めに設置することで、座っている人の肩が入るスペースを確保するとともに、乗り込んできた客を車内の奥へ誘導する効果も期待されているのです。

やさしくなる大阪環状線 見えないところにも工夫が

 編成なかほどの4号車は、大阪環状線では女性専用車両。そこで、4号車だけは戸袋部分(乗降用扉が引き込まれる部分)のカラーが、大阪環状線のテーマカラーであるオレンジではなく、濃いピンク色に。車内の照明も電球色になっているので、ひと目で分かります。

また、つり革の高さは3種類ありますが、4号車だけは一番低いものが多くなっており、女性にやさしい設計になっています。

「専用車両」登場で大阪環状線どう変わる? 新型323系電車の魅力とは

323系の女性専用車。ドア上にその表示があるほか、分りやすいよう照明もほかの車両と変えられている(照明の色が分るよう写真は暗め、伊原 薫撮影)。

「やさしい」という点では、優先座席に設けられたひじ掛けにも注目です。これまでにはない前方に傾斜した形状は、立ち上がるときの補助として最適な角度になっています。この形状は、駅のホームに設けられたベンチにも取り入れられ、お年寄りなどから好評だということです。

 そのほか、車両と車両のあいだにある貫通扉は、テコの原理を応用。取っ手を軽く引くと突起が飛び出し、小さな力で開けられるようになっています。

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取っ手を引くと突起が飛び出し、軽い力で開けられる323系の貫通扉(伊原 薫撮影)。

 一方、安全面で見逃せないのが、オレンジ色の手すり棒。とっさのときに握りやすいよう、太さや位置、さらには目に入りやすい色が検討されているほか、当たった人がケガをしないように、角が丸められています。余談ですが、この手すり棒など安全に関する新たな要素は、323系とともに現在製造されている225系電車や、リニューアル工事が行なわれている207系電車(JR京都線やJR神戸線、JR東西線などを走行)にも取り入れられています。

 また、大阪環状線の新型車両323系は車両の構造を変更し、一部分の強度をあえて弱くしています。こうすることで衝突時にそこが変形して衝撃を吸収し、被害を少なくできるのです。さらに前面からだけでなく、側面や車両の角がぶつかったときも想定した対策が施されています。車内に設置された防犯カメラ、ホームと反対側のドアが開かないようにする装置、より故障に強いブレーキシステムなど、安全には決して妥協しない車両になりました。

新型の323系登場で、大阪環状線の未来はどうなる?

 大阪環状線の新型車両323系は2016年12月24日(土)から、まずは1日3編成が営業運転を開始。2018年度には21編成が出そろう予定です。

 これによって大阪環状線から引退するのが、現在そこを走っている103系電車と201系電車です。オレンジ色の車体で同線の“顔”ともなっている彼らは、いずれも国鉄時代に製造され、もっとも新しい車両でさえ30年以上が経過。大規模な体質改善工事が行なわれていますが、あと2年ほどで姿を消すことになります。

「専用車両」登場で大阪環状線どう変わる? 新型323系電車の魅力とは

国鉄時代に登場した大阪環状線の201系電車(2014年7月、恵 知仁撮影)。

 323系電車の登場で様変わりする大阪環状線。駅のリニューアル工事や商業施設のオープンなど、車両以外にも快適に利用できるさまざまな取り組みが進められています。

ちょうど3年前、2013年12月からJR西日本が始めた「大阪環状線改造プロジェクト」によって、より魅力的な路線へと少しずつ生まれ変わる同線が、大阪の魅力もまた引き出してくれることに期待です。

【写真】よく見ると…? 2016年クリスマス仕様の新型車両323系

「専用車両」登場で大阪環状線どう変わる? 新型323系電車の魅力とは

デビューした2016年12月24日と翌25日は、正面の「普通」表示がクリスマス仕様になった323系も登場(2016年12月24日、伊原 薫撮影)。
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