国内と海外では、人気の車種も異なります。ゆえに、国内メーカーのクルマでありながらも日本人がまったく知らないクルマが存在します。
世界のあちこちで開催されるモーターショーへ取材に行って、私(鈴木ケンイチ:モータージャーナリスト)はいつも思うことがあります。世界中で人気なのに、日本でだけはさっぱり顧みられないクルマのジャンルがあることを。それが「ピックアップトラック」です。
トヨタの8代目「ハイラックス」。2015年5月にタイおよびオーストラリアにて発売開始(鈴木ケンイチ撮影)。
日本ではピックアップトラック、ひいては「荷台のあるクルマ」は、あくまでも商用車であり、普通の人が乗用車感覚で使うものではありません。しかし、海外では事情が異なります。アメリカなどでは、普通にピックアップトラックが乗用車代わりに使われています。ピックアップトラックの年間の販売台数は、普通の乗用車とほぼ同数というから驚きます。国土の広い農業国であり、ガソリン代が安いため、大きくて実用的なピックアップが好まれのは理解できるとしても、ここまで極端なのはアメリカだけ。とはいえ、アセアン地域でもヨーロッパでもピックアップトラックを乗用車代わりに使うのは、珍しいことではありません。
そのため、日本車メーカーは数多くのピックアップトラックを作って、世界各地で販売しているのです。
海外で元気な日本車メーカーのピックアップトラック、その代表モデルが、これまで世界180以上の国と地域で累計1600万台以上が販売されてきたトヨタの「ハイラックス」でしょう。

海外のモーターショーでは、日本国内メーカーもピックアップトラックの展示に広いスペースを割いており、その力の入れ具合がわかる(鈴木ケンイチ撮影)。
ちなみに現在の「ハイラックス」は、同じ骨格を流用する「IMV(イノベーティブ・インターナショナル・マルチパーパス・ビークル、革新的国際多目的車)」シリーズのひとつ。トヨタのIMVは、同じフレームを使ってピックアップトラックの「ハイラックス」、ミニバンの「イノーバ」、SUVの「フォーチュナー」という3モデルが兄弟として販売されています。アセアンでは、「イノーバ」はベストセラーですし、「フォーチュナー」は高級車という扱いです。また、アメリカ市場ではフルサイズピックアップトラックの「タンドラ」とミドルサイズの「タコマ」が販売されています。
ホンダのピックアップトラックは「リッジライン」。2017年1月の「デトロイトモーターショー」では、「北米トラック・オブ・ザ・イヤー」を獲得するなど、高い評価を得ています。

2016年発売の2代目ホンダ「リッジライン」(画像:ホンダ)。
日産のピックアップトラックはフルサイズの「タイタン」とミドルサイズの「フロンティア/ナバラ」をラインナップ。特に「フロンティア/ナバラ」は世界中で発売されるグローバルカーです。
まだまだある、日本人だけが知らない「日本車」日本ではすっかり元気のなくなってしまった三菱自動車も、ピックアップトラックは得意分野。

三菱「トライトン」は初代が2005年発売。2011年までは日本国内でも輸入販売されていた(鈴木ケンイチ撮影)。
商用イメージの薄いマツダもピックアップトラックの「BT-50」を販売。非常にモダンでエモーショナルなデザインというのがマツダらしいところでしょう。
日本では乗用イメージのなくなったいすゞも、ピックアップトラックならば専門分野のうち。アセアンではいすゞ「D-MAX」がジワジワと人気を高めているようです。

いすゞ「D-MAX」は初代が2002年発売。タイで生産されている(鈴木ケンイチ撮影)。
ざっと名前を挙げただけでも、日本のほとんどのメーカーがピックアップトラックを手がけて世界中で販売していることがご理解いただけたでしょうか。日本人だけが知らない、世界で人気の日本車が、そうしたピックアップトラックなのです。