鉄道のダイヤが乱れたとき、利用者が一番気になるのは「いつ所定のダイヤに戻るのか」ということ。JR東海は東海道・山陽新幹線に新しい運転管理システムを導入し、列車の遅れが拡大しないようにすることを目指しています。

列車を効率的に「さばく」システム

 JR東海は、東海道・山陽新幹線の線路や列車を管理するシステムを新しいものに交換する計画を打ち出しました。「全体として渋滞が少なくなるよう制御する仕組み」を導入し、ダイヤが乱れても所定の運転時刻に戻るまでの時間が短くすることを目指します。「いつになったら元のダイヤに戻るのか」などといった乗客の不安や不満が、緩和されることになりそうです。

東海道・山陽新幹線に「次世代コムトラック」導入 「遅れ拡大」...の画像はこちら >>

東海道新幹線を走るN700A(2015年12月、恵 知仁撮影)。

 東海道・山陽新幹線の線路や列車は、「コムトラック」と呼ばれる運転管理システムで管理されています。たとえば、線路が二手に分かれる場所(ポイント)では、コムトラックが線路の開通方向を自動的に操作し、列車を誘導します。

 東海道新幹線の東京駅では、新大阪方面からやってきた上り列車が到着後、折り返して再び新大阪方面に向かう下り列車に変わります。折り返しのためには列車を上り線から下り線に移さなければなりません。東海道新幹線の運転本数は1日300本以上。多数の列車をうまくかわしながら列車を移動させなければならないためポイントの操作回数も増えます。すべてを手動で操作するのは大変です。

 そこで、各駅のポイントを自動制御するシステムのコムトラックを使って、大量の列車を安全、かつ効率的に整理しています。

現在のシステムは「後続の遅れ」考慮せず

 ただし、現在のコムトラックはダイヤが乱れた場合、1本の列車の遅れが後続の列車にも拡大しやすいという問題を抱えています。

 たとえば、所定の時刻より遅れている上り列車1本が終点のターミナル駅に近づいている状態で、ターミナル駅では下り列車2本が出発を待っている状態だとします。コムトラックは、遅れている上り列車をターミナル駅に早く到着させることを優先してポイント操作を行います。その際、上り列車が上り線だけでなく下り線もふさぐ場合があり、出発を待つ下り列車2本は発車できなくなります。

東海道・山陽新幹線に「次世代コムトラック」導入 「遅れ拡大」防げるその性能とは?

現在のコムトラックは後続列車の遅れを考慮せずにポイント操作を行っている(画像:JR東海)。

 つまり、道路を走る自動車が混雑して動けなくなる「渋滞」と同じような現象が発生してしまい、上り列車だけでなく後続の下り列車にも遅れが拡大してしまうのです。下り列車の乗客にしてみれば、「自分の列車には何のトラブルも発生していないのに、遅れるなんて……」と思いたくなるかもしれません。

 JR東海は「実態としては(コムトラックを管理する)指令員が列車の順序を修正し、遅延の拡大を防止しています」と話しますが、これは手動で行う作業が増えてしまうという問題があります。そのため、新しいコムトラックでは指令員の考え方を取り入れ、後続列車の遅れも考慮した仕組みを導入することにしたといいます。

東海道・山陽新幹線に「次世代コムトラック」導入 「遅れ拡大」防げるその性能とは?

新しいコムトラックは後続列車への遅れの波及を抑える仕組みにする(画像:JR東海)。

 たとえば、ターミナル駅に入ろうとしている上り列車が遅れている場合、新しいコムトラックは下り列車の出発を優先させてポイントの操作を行います。上り列車はターミナル駅に入る時刻が所定より遅れてしまいますが、下り列車は所定の時刻で発車させることができます。

遅れ自体は防げなくても、全体として遅れの拡大を最小限に抑えることができるようになるわけです。

「集中」から「分散」でトラブル規模を縮小

 このほか、機器類と機能の構成も見直されます。現在のコムトラックは、「列車の運転」や「利用者への情報提供」など複数の機能を、ひとつの計算機に集中させています。このため、運転関係の機能にトラブルが生じた場合、利用者への情報提供にも影響が出てしまう可能性があります。運転関係のトラブルが利用者には案内されず、混乱に拍車をかけてしまうかもしれません。

 新しいコムトラックでは、計算機の高性能化や小型化を受け、複数の計算機に機能を分散させる方式を採用することになりました。仮に運転関係の機能を持つ計算機にトラブルが発生しても、利用者への情報提供機能を持つ計算機は正常に動作します。JR東海は機能の分散化により「お客様への更に安定した情報提供が可能となります」としています。

東海道・山陽新幹線に「次世代コムトラック」導入 「遅れ拡大」防げるその性能とは?

新しいコムトラックは複数の計算機に機能を分散。トラブルの影響を最小限に抑えるようにする(画像:JR東海)。

 東海道・山陽新幹線では1972(昭和47)年、大量の列車を安全かつ効率的に誘導するため、ポイントを自動制御するシステムとしてコムトラックが導入されました。その後、路線の延長や輸送力の強化にあわせ、列車の運転管理機能や情報提供機能などを追加。

今では東海道・山陽新幹線の運転を総合的に管理するシステムへと発展しています。

 JR東海が計画している新しいコムトラックは、最初のコムトラックから数えて10代目にあたります。稼働時期は2023年10月の予定。JR東海は約216億円かけて、古いシステムを新しいシステムに交換する計画です。

【写真】初代コムトラック導入時の車両は0系だった

東海道・山陽新幹線に「次世代コムトラック」導入 「遅れ拡大」防げるその性能とは?

コムトラックは1972年の山陽新幹線開業にあわせて導入。当時の車両は0系だった(2008年7月、恵 知仁撮影)。

編集部おすすめ