神奈川県内に路線網を持つ相模鉄道は、都心直通線によって、鉄道も沿線も大きく変わろうとしています。そのような将来性や暮らしやすい環境など、相鉄沿線に住むうえでのポイントを探りました。
相模鉄道(相鉄)は横浜駅を起点とし、旅客列車は海老名駅とを結ぶ本線と、途中の二俣川駅から分岐して湘南台駅に至るいずみ野線を運行しています。関東の大手私鉄で東京都心に乗り入れていない唯一の会社です。小田急の箱根、東武の日光のような大型の観光地やレジャー施設は相鉄には少なく、沿線外から相鉄を利用する人も少ないでしょう。そう考えると、相鉄は、沿線の人々の支持が厚いため大手私鉄と呼べる規模になったとも言えそうです。「しっかり地元に根付いた鉄道の強み」とでも言いましょうか。
2018年2月にデビューした新型の20000系電車。東京都心への直通運転を見越して設計されている(画像:相模鉄道)。
そんな相鉄の魅力を、営業マン時代に天王町駅近くにあったPCメーカー、日本ゲートウェイに何度も通い、現在も大和駅近くの焼き肉屋さん「天狗家」に通う筆者(杉山淳一:鉄道ライター)の思い込みと独断で紹介します。異論・反論大歓迎です。皆さんも相鉄の魅力について、SNSなどで盛り上がってくださいね。
【1位】直通新線で東京都心へアプローチ相鉄は、大きな転機を迎えています。西谷駅(横浜市保土ケ谷区)とJR東海道貨物線を結ぶ線路を建設し、羽沢横浜国大駅を設置。

建設が進む「相鉄・JR直通線」と「相鉄・東急直通線」(画像:相模鉄道)。
相鉄によると、都心直通運転によって、二俣川~新宿間は約44分、二俣川~目黒間は約38分に。現在の横浜駅経由よりも約15~16分程度短縮します。ちなみに、小田急線の急行で新宿駅から40分というと、町田駅や相模大野駅付近。快速急行なら小田急多摩センター駅辺り。東急線だと渋谷駅から40分は中央林間駅や元町・中華街駅です。相鉄沿線から東京都心がぐっと近くなります。
また、東急直通ルートは新横浜駅を経由するため、東海道新幹線への乗り換えが便利に。関西方面に出張が多いビジネスパーソンには魅力的です。
今後は、特に2022年ごろから不動産市場に動きがありそうです。1991(平成3)年以降に認定された生産緑地がその期限を迎えます。生産緑地は市街化区域の農地で固定資産税を減免する制度です。しかし、後継者不足などで農業の継続が困難な場合や、指定から30年を経過した場合は生産緑地指定が解除されます。その結果、市街地の農地がマンションや建売住宅に転換されていくと予想されます。神奈川県の横浜近郊は特に生産緑地が多いため、相鉄沿線は住宅市場として有望な地域となるでしょう。
相鉄としては、都心直通線が便利になると、いままで横浜駅まで乗って東京都心へ向かってくれた通勤・通学客が、途中の西谷駅で他の路線方面へ「流出」してしまいます。鉄道としては減収です。しかし、相鉄グループには不動産関連会社が7社あり、沿線開発からの利益を期待できます。また、東京都心へ便利な路線となれば、沿線人口そのものも増え、鉄道利用客の増加も期待できそうです。
「直通」に備えた新型と、「伝統」を備えた車両【2位】新型20000系とネイビーブルーの電車たち相鉄は新型の20000系電車10両編成1本を、2018年2月11日から営業運転しています。
今後、東横線直通向けには10両編成、目黒線直通向けには8両編成で増備する予定。また、JR線直通向けには別の新型車両12000系を導入する計画です。車体規格はJRより小さい相鉄に合わせた大きさとなり、デザインも少し変える予定とのこと。東急方面、JR東日本、そして横浜方面と、乗り間違いを防ぐデザインの工夫が必要かもしれません。
20000系の車体は「ヨコハマネイビーブルー」という濃い青色で、塗料に雲母(マイカ)を配合して深みと輝きを与えています。自動車の塗装風に言うと「ネイビーブルーマイカ」となります。相鉄創立100周年と、都心直通運転に向けたデザイン戦略「相鉄デザインブランドアッププロジェクト」に基づいた色です。
20000系電車は、デザインを新しくする一方で、相鉄の伝統を復活させた部分もあります。車内に配置された鏡と遮光スクリーンです。近年に導入された10000系、11000系は、JR東日本のE231系、E233系と基本的に共通仕様のため省略されていました。20000系はJR東日本系列の総合車両製作所製ではなく日立製作所製で、「A-train」規格のアルミ車体となりました。独自色の強い新型車両と言えそうです。
しかし残念ながら復活しなかった伝統もあります。扇風機ボタンとクロスシートです。扇風機ボタンは天井の扇風機のオンとオフを切り替えるためにありました。相鉄では乗客が操作できましたが、20000系には扇風機が設置されていないため、残念ながらスイッチも消えました。

クロスシートに本革を採用した9000系電車(2016年3月、恵 知仁撮影)。
クロスシート(進行方向またはその逆方法を向いた座席)は7000系後期形(新7000系)で採用され、8000系、9000系は当初から採用されていました。
そんななか、20000系で復活した鏡と遮光カーテンは、相鉄らしさの象徴と言えそうです。これからも続けてほしいな、と思います。
ノンストップと立体交差事業で快適!【4位】横浜~二俣川間ノンストップ相鉄の列車は特急、急行、快速、各停の4種類です。すべて乗車券のみで利用できます。相鉄の列車運行の特徴は、思い切った停車駅設定。特に特急と急行の横浜~二俣川間ノンストップには潔さを感じます。
1999(平成11)年に快速が設定されるまで、相鉄の列車の種別は各停と急行の2種類でした。
1999(平成11)年に、いずみ野線の利用者の速達性、利便性を向上するため快速が設定されました。いずみ野線内の各駅と、本線の鶴ヶ峰、星川に停車します。2014年に特急と本線の快速が新設されました。特急は本線の海老名、大和、いずみ野線の湘南台、いずみ野に停まり、もちろん二俣川~横浜間はノントップ。都心直通線で東京方面を便利にするだけではなく、起点である横浜への動線も確保する狙いがあります。横浜~二俣川間ノンストップは、現在も、将来も、横浜と二俣川以遠の人々を結ぶ絆です。
【5位】高架化と地下化新規路線の建設だけではなく、既存路線の改良も進んでいます。天王町~星川付近の連続立体交差事業は、線路を高架にして、9か所ある踏切のうち7か所を除却します。事業区間は約1.9kmです。2018年度に全線が高架化される計画です。
一方、二俣川駅付近を西端とし、鶴ヶ峰駅と西谷駅のほぼ中間地点を東端とする立体交差計画は線路を地下にする方針が決まりました。事業区間は約2.7kmです。10か所の踏切を除却します。高架に上がったり地下に潜ったりと、変化の大きな路線になりますね。
立体交差は道路の踏切渋滞を解消する目的で行われますが、踏切事故や、危険察知などによる徐行も解消されるため、鉄道利用者にも利点があります。高架線方式の立体交差では車窓の眺望にも期待できます。道路交通が円滑化されますから、沿線の人々も暮らしやすく、不動産の価値も上がりそうです。
暮らしやすさを支える数々の沿線施設【6位】沿線に暮らしの拠点が多い相鉄沿線で最大の都市は横浜ですが、ほかにも、中核都市やニュータウンの拠点駅があります。
本線の終点・海老名駅は、小田急小田原線、JR相模線と連絡します。ビナウォーク、イオン海老名店など大型商業施設があり、高層マンションも目立ちます。3路線の駅をつなぐ自由通路を整備するなどの再開発事業も進み、新しい商業施設「ビナガーデンズテラス」が誕生しました。
大和駅は小田急江ノ島線と交差する駅です。駅ビル「PROSS」は地上4階、地下1階。周辺には複数の商店街があり、どれも活況です。オフィスビルも多く、商業とビジネスのバランスが取れた街と言えそうです。このにぎわいは小田急の特急「ロマンスカー」、快速急行、急行が停車する効果が大きいかもしれません。
いずみ野線の駅はニュータウンの拠点として整備されています。終点の湘南台駅は小田急江ノ島線、横浜市営地下鉄ブルーラインの駅もあり、商業施設が集積しています。慶應義塾大学、文教大学、多摩大学のキャンパスへ向かうバスも発着するため、文教の街としても発展しているようです。
商業施設「相鉄ライフ」は、いずみ野線では南万騎が原、緑園都市、弥生台、いずみ野、いずみ中央に整備。いずみ野にはホームセンター「カインズ」、弥生台には国際親善総合病院があります。そのほかの駅は開発中のようですが、広い公園が整備され、自然と調和した街、子育てに適した街を目指した計画が進行中です。
本線の天王町駅付近には、昔ながらの商店街としてにぎわう「横浜洪福寺松原商店街」があります。「良いものを安く買える。ハマのアメ横」として親しまれているそうで、200平方メートルに約100店舗、生鮮食料品からインテリア雑貨まで何でもそろう商店街です。買い回りに便利なカートの貸し出しもあり、平日は約2万人、休日は約2万5000人。年末は1日10万人も来客があるとのこと。
相鉄は、最寄りの駅周辺も、ちょっと電車に乗って行く場所も便利です。旅行以外で、乗り換えてどこかに行く必要はないかもしれません。
【7位】神奈川県民と相鉄の重要拠点、二俣川駅二俣川駅は相鉄の本線といずみ野線の分岐駅です。帷子(かたびら)川と二俣川が分かれる地域で、鉄道路線も二又に分かれます。
相鉄は神奈川県民、特に自動車の運転免許証を持つ人にとってなじみ深い鉄道会社です。神奈川県で唯一の運転免許試験場の最寄り駅が二俣川だからです。来場には公共交通機関の利用が推奨されているため、神奈川県在住の運転免許証保持者は、相鉄のお世話になっているはず。横浜~二俣川間ノンストップの恩恵を受けた人も多いことでしょう。
なお、神奈川県の運転免許試験場はリニューアル工事中です。2018年5月6日(日)に新たな運転免許センターがオープン予定。ぜひ相鉄で……と言いたいところですが、免許の交付・更新以外ではお世話になりたくない施設ですね。
沿線には、人気アイドルも動物も!【8位】人気アイドル「そうにゃん」相鉄沿線で絶大なる人気を誇るキャラクターは「そうにゃん」です。そうなんです。そうにゃんは2014年4月に相鉄の広報担当として“入社”したネコ。青い服とオレンジの身体は相鉄のコーポレートマークをイメージし、尻尾は踏切のようなしましま、大きな耳で情報をキャッチするそうです。

「ヨコハマネイビーブルー」になった相鉄9000系電車と、キャラクター「そうにゃん」、タレントの南 明奈さん(2016年3月、恵 知仁撮影)。
相鉄の広報担当として、ラッピングトレインになったり、沿線の市民まつりに参加したり。デビュー翌年の2015年3月からバースデーイベントも開催するほどの人気です。LINEのスタンプをはじめ関連グッズもあります。2018年3月23日から五代目そうにゃんトレインが運行を開始。車内各所にはそうにゃんが描かれます。
そうにゃんは「ゆるキャラグランプリ」で神奈川県内トップクラスの人気者。都心直通運転が始まると、いよいよ全国区のキャラクターとしてブレイクするかもしれません。
【9位】自然がテーマの遊び場がたくさん大都市から近付きすぎず、離れすぎず。そんな相鉄沿線には、自然や人々の暮らしに密着したレジャースポットがあります。
「よこはま動物園ズーラシア」は鶴ヶ峰駅、三ツ境駅からバスで約15分。横浜駅からのバスもありますが、本数が少ないため、相鉄経由が便利です。世界各地で動物が暮らす環境を再現した「生態展示」が特徴で、約110種の動物がいます。
横浜で最大級の面積という「こども自然公園」は、南万騎が原駅から徒歩約7分という近さ。大池、中池という水場と、芝生や森などの遊び場がたくさん。ホタルの生息地もあるそうです。横浜旭ジャズまつりなどのビッグイベントも開催されます。
横浜には牧場もあります。「オーガスタミルクファーム」はいずみ野駅からバスで約5分。絞りたての牛乳、新鮮な牛乳を使ったソフトクリームやお菓子があります。もちろん牛舎も見学できます。
1700種類のバラを中心に形成された庭園「横浜イングリッシュガーデン」は平沼橋駅から徒歩10分。6600平方メートルの庭に季節の花が咲きます。ふたつのカフェもあり、落ち着いたデートコースとして楽しめそうです。
都心直通運転では、沿線から東京都心へ向かう利点が話題になりがちです。しかし、逆方向、東京都心から相鉄沿線のお出掛けスポットも注目されそうです。
開発と延伸計画のあるいずみ野線【10位】いずみ野線の未来相鉄沿線は、都心直通計画と生産緑地指定解除によって開発が進みそうです。少子高齢化の流れに逆らって、沿線人口が増えるかもしれません。もっとも、他の大手私鉄沿線に比べると人口が元々少なく、未開発エリアが多いという反動かもしれません。都心直通線が分岐する西谷駅より西側が盛り上がりそうです。
特にニュータウン開発が進むいずみ野線沿線に注目です。横浜市は2011(平成23)年に国家戦略プロジェクトのひとつ「環境未来都市」に指定されました。2013(平成25)年に横浜市と、相鉄の持ち株会社である相鉄ホールディングスは、「相鉄いずみ野線沿線の次代のまちづくりの推進に関する協定」を締結。この協定に基づき、市民、大学、行政、民間企業の協働によるまちづくりが進められています。
いずみ野線の南万騎が原駅付近では「南万騎が原駅周辺リノベーションプロジェクト」と題して、駅前商業施設と駅前広場の再整備が行われています。住環境についても相鉄グループとUG都市建築による「みなまき未来プロジェクト」が進行中。住宅の状況調査や賃貸、売却物件のリフォーム補助金制度があります。
未来的な構造が特徴のゆめが丘駅は、福士蒼汰さん、有村架純さんが出演した映画『ストロボ・エッジ』のロケ地になりました。CMでもたびたび登場しています。このゆめが丘駅付近に広がる農地は2021年までに区画整理が行われ、新しい街ができる予定です。いずみ野駅周辺も農地が多く、住宅開発が始まりそうです。
こうした沿線人口の開発について、いずみ野線では準備ができています。そのひとつが緑園都市駅。フェリス女学院大学緑園キャンパスが近く、庭園展望台のあるオシャレな駅です。実はこの展望台は線路の予定地。もともと、急行待避ができる構造で造られていますが、いまは展望台として利用されます。庭園がなくなると残念ですが、急行待避施設が造られることで、いずみ野線から横浜、東京都心方面への所要時間が短縮されます。
さらに、いずみ野線には平塚方面への延伸計画もあります。というより、もともと平塚駅までの計画で免許を取得していました。このルートには現在の慶應大湘南藤沢キャンパス、JR相模線・寒川駅経由が想定されていました。後に、JR相模線・倉見駅に東海道新幹線の駅を誘致する計画「ツインシティ整備構想」が立ち上がったため、現在は湘南台駅から倉見駅方面へ延伸する計画に変わりつつあります。
2016年の「東京圏における今後の都市鉄道のあり方について」(交通政策審議会答申第198号)でも、「いずみ野線の延伸(湘南台~倉見)」が盛り込まれました。神奈川県藤沢市は答申を踏まえて、藤沢市内の駅の候補地を発表しています。イトーヨーカドー湘南台店前付近の地下駅と、慶應大湘南藤沢キャンパス前交差点付近の高架駅です。都心直通線とこの延伸を組み合わせると、慶應大の湘南藤沢キャンパス、日吉キャンパス、三田キャンパスがひとつの鉄道ルートでつながるという見方もできます。
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「住むなら相鉄沿線」と思わせる理由をまとめると、自然環境が多く、これから開発が始まるため住宅を購入しやすく、新幹線も含めた交通の便利さとなるでしょうか。沿線の環境の大きな変化によって、相鉄も大きく変化しそうです。鉄道ファンとしても楽しみになってきました。
【写真】相鉄電車の伝統、車内の「鏡」

相鉄の車内に取り付けられている鏡(2015年10月、恵 知仁撮影)。