視線移動が少ないなどのメリットから、2000年代からさまざまなクルマに採用が広がったセンターメーターですが、最近ではモデルチェンジを機に廃止されるケースも。結局、センターメーターの意義はどこにあるのでしょうか。

視線移動の少なさのほか、デザインの自由度も

 センターメーターとは、クルマの速度計などの主要計器を、ダッシュボード中央部分に設置したもの。古くは1959(昭和34)年にイギリスで発売されたBMC「ミニ」などに見ることができますが、日本では1997(平成9)年に発売されたトヨタ「プリウス」(初代)に採用されたのをきっかけに、ほかの車種への採用が広がったといわれています。

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センターメーター搭載車のイメージ(画像:写真AC)。

 トヨタに限っていえば、初代「プリウス」の発売以後、2000年代にかけて「プラッツ」「イプサム」「イスト」「オーパ」「ラウム」「ヴィッツ」「bB」「エスティマ」など、実にさまざまなモデルに採用されていきましたが、近年では引き続き採用が続くモデルがある一方、モデルチェンジなどを機に従来のメーター配置(以下、運転席メーター)に戻されたケースも。2018年4月時点のトヨタ車で採用されているのは「ポルテ/スペイド」「エスティマ」「プリウス」「アクア」など一部の車種に限られ、一時期ほどの広がりは見られなくなっています。

 そもそも、センターメーター独自のメリットとは何でしょうか。トヨタによると、「プリウス」に採用されたセンターメーターは、運転席メーターより遠い位置に情報を表示させているのが特徴だといいます。

「遠方視点のセンターメーターは、上下左右の視線移動、前後方向の焦点移動が小さく、視認性に優れています。また、ステアリングホイールを通した視認性を考慮する必要がないため、メーターのデザインに自由度が増すこともメリットのひとつです」(トヨタ)

 トヨタによると、「プリウス」のセンターメーターは同車のアイデンティティのひとつで、「時代の先駆けとしてふさわしい独創的なコックピット」というコンセプトのもと、初代から4代目モデルまで一貫して採用。メーター自体も、エンジンとモーターの使用状況、走行データ、燃費履歴など多彩な情報を表示するデザインへと進化しています。

ミニバンでは前方視界に影響するケースも

 一方、視線移動の少なさやデザインの自由度といったメリットがあるにもかかわらず、「プリウス」と同じトヨタ車でセンターメーターを廃止した例があります。ミニバンの「ヴォクシー/ノア」がそれで、2代目モデルまでセンターメーターを採用していましたが、2014年発売の3代目モデルからは運転席メーターに変更されました。

トヨタに聞いたところ、担当者は「視界の確保」を第一の理由に挙げています。

「3代目モデルで運転席メーターに変更したのは、身長の低い方でも視界が確保できるようにするためでした。従来モデルではセンターメーターのフードが盛り上がっていて、身長の低い方にはボンネットが見えず、視界が悪いという声がありました。『ヴォクシー/ノア』は競合車と比較されることが多いため、特に視界での不利さを払拭したかったのです」(トヨタ)

採用減る「センターメーター」は何だったのか クルマづくりにもたらす意義とは

2014年発売の3代目でセンターメーターを廃止した、トヨタ「ノア」のインパネ(画像:トヨタ)。

 運転席メーターに戻った3代目「ヴォクシー/ノア」は、センターメーターによるダッシュボード中央部分の盛り上がりをなくしたことで、運転席からボンネットがよく見えるようになり、車両感覚がつかみやすくなっているといいます。

 ただし、センターメーターが前方視界をさえぎるというデメリットは、他の車種には必ずしもあてはまりません。同じ「視界確保」が目的で、センターメーターを「採用する」ケースもあるのです。

センターメーターの意義、結局どこにある?

 たとえば、ダイハツの軽トールワゴン「タント」は、初代モデルから2013年発売の3代目モデルまで、一貫してセンターメーターを採用しています。ダイハツによると、3代目「タント」が引き続きセンターメーターを採用する理由は、タントの特徴である「背の高いフロントウインドウによる、広々とした前方視界」を実現するためだといいます。

「センターメーターを採用することでインパネ上部のラインを水平基調とし、前方視界の広がりを実現しています。インパネ上部がすっきりすることで、運転席からボンネットが見えやすくなるというメリットもあります」(ダイハツ)

 トヨタ「プリウス」と同様、ダイハツ「タント」のセンターメーターも運転席から遠い位置に情報を表示し、目の焦点移動が小さくなるように工夫しているそうです。

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3代目ダイハツ「タント」は、センターメーターを採用しつつ、インパネ全体をフラットな設計に(画像:ダイハツ)。

 もちろん、ダイハツの軽自動車すべてがセンターメーターを採用しているわけではありません。たとえば、1995(平成7)年から6代にわたって発売されている「ムーヴ」では、一時期センターメーターを採用するも、従来の運転席メーターに慣れているユーザーの声を受けて、2012(平成24)年のマイナーチェンジで運転席メーターに戻したといいます。

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ダイハツ「ムーヴ」は一時期センターメーターを搭載していたが、再び運転席メーターに変更された(画像:ダイハツ)。

 トヨタとダイハツの話をまとめると、センターメーターそのものには「視線や焦点の移動が少ない」「メーターデザインの自由度が高まる」などのメリットがありますが、実際のクルマづくりにおいては、やはりそれぞれのコンセプトや設計の方向性に従って、運転席メーターとの使い分けがなされているというのが実情のようです。

 ただし、センターメーターを採用することで従来のクルマにない情報表示のあり方を追求したり、前方視界の広がりを演出したりする実例があるように、センターメーターという「選択肢」はクルマのインパネ設計にさまざまな多様性をもたらしているといえるでしょう。

【写真】歴代「プリウス」 センターメーターの変遷

採用減る「センターメーター」は何だったのか クルマづくりにもたらす意義とは

トヨタ「プリウス」初代から4代目までの、センターメーターの変遷(トヨタの画像をもとに乗りものニュース編集部にて作成)。

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