鉄道事業者が違えば車両の形が違うというのは昔の話。首都圏で導入の続く「標準車両」とは。
首都圏の通勤電車を見ると、乗降用のドアは1両あたり片側3か所や4か所で、ドアの位置もおおむね等間隔で並んでいます。鉄道にあまり興味がなければ、通勤形の電車はラインカラー以外同じに見えるかもしれません。
「標準車両」の先駆けとなったJR東日本のE231系(児山 計撮影)。
ならば、異なる鉄道事業者同士が同じ形の車両を購入すれば、「まとめ買い」の理屈で安くなるのでは。たとえば価格が1割下がれば100両分の予算で110両の車両を導入でき、新しい快適な車両の割合も増やせるのでは……。
このような考えで2003(平成15)年に制定されたのが「通勤・近郊電車の標準仕様ガイドライン」です。大量生産によるコストダウンと、車両の機器や仕様をそろえてメンテナンスの手間を軽くすること(これもコストダウンにつながる)を目的として定められました。
2000年代以降、首都圏ではこのような、設計や仕様を共通化した電車が増加。正面の形状は鉄道事業者が「自社の車両」をアピールすることもあって各社の裁量に任されていますが、側面の形状は、事業者が異なってもほとんど同じに見えます。
たとえば、JR東日本E231系と相模鉄道10000系、小田急電鉄4000形とJR東日本E233系2000番台のように、「事業者は異なってもそっくりな側面」という現象が見られるようになりました。

山手線のE231系500番台と相模鉄道10000系。


東京メトロ16000系はアルミボディで継ぎ目がない川崎重工車両カンパニーの「efACE」を採用(児山 計撮影)。
とはいえ首都圏すべての通勤形電車が「まったく同じ」というわけではありません。よく見ると、同じ4ドア車でも側面の造りが異なっているパターンも発見できます。ガイドラインは「大量生産によるコストダウン」を掲げていますが、材質や製造方法までは指定していません。したがって車両メーカー各社は、自らが得意とする技術で標準車両を製造しています。すなわち形の違いは車両メーカーの違い、というわけです。
材質でいえば、川崎重工車両カンパニー「efACE」はアルミ製やステンレス製、日立製作所「A-train」はアルミ製、総合車両製作所「sustina」はステンレス製といった違いがあり、さらにステンレス製の車体はドア横に縦の継ぎ目があれば日本車両の「日車ブロック方式」、窓の上下に継ぎ目があれば総合車両製作所や川崎重工車両カンパニーなど、側面を見ると違いが分かる車両もあります。
統一したくてもできない例、しない例鉄道事業者の枠を超えて標準車両を入れるメリットは分かっていても、鉄道事業者はその歴史的な背景などから「完全に規格化された車両」をそのまま使うことはできません。一見よく似ている車両でも、実は鉄道事業者によってその線路を走れる車両の大きさは微妙に異なります。

快速は2950mm幅の車体だが、地下鉄に直通する各駅停車はトンネルの関係で2800mm幅となっている常磐線(児山 計撮影)。
たとえばJR東日本の常磐線快速は2950mm幅の車両を運用していますが、東京メトロ千代田線と直通運転を行っている常磐線各駅停車は、千代田線の基準に合わせた2800mm幅の車両です。
東急電鉄では5000系と東横線用の5050系で車体の幅が20mm異なるため、たとえば田園都市線の5000系を東横線で使うことはできても逆はできません。
関西の通勤電車は車体の長さ、ドアの数・位置ともに関東の車両とは異なるものが多く、また、阪急電鉄のように伝統を重視する事業者もあることから、首都圏のような形の標準車両を採用するのは南海電鉄など少数派です。
しかし関西でも乗客の目につかないところ、たとえば床下機器や空調装置などは標準車両のガイドラインに則ったものを使っていたり、阪急電鉄のように塗装こそしているものの車体の構造は標準車両の工法で製造していたりするなど、できる範囲で標準車体のガイドラインを取り入れてコストダウンを図っています。
標準車両は鉄道事業者の輸送需要が伸び悩むなか、低価格で新しい車両を導入できるメリットがあります。現在は、各鉄道事業者が共通化できるところは共通化し、独自性を出したいところはお金をかけるというやり方で、うまく取捨選択しているのです。