ふるさと納税」の寄付金は、その地域の鉄道の運営や維持にも生かされています。なかには、ちょっと珍しい鉄道グッズやサービスが、納税者への「返礼品」として用意されているケースもあります。

寄付しながら鉄道を応援! 「ふるさと納税」と鉄道

 納税者が任意の自治体に寄付できる「ふるさと納税」の制度は、2008(平成20)年に創設されました。寄付額のうち一定の金額は税金の控除対象となり、寄付に対して様々な「返礼品」も受け取れるとあって、2018年度には約300万人が利用しています。

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長野電鉄の特急「ゆけむり」は、かつての小田急ロマンスカー「HiSE」。この車両を、ふるさと納税で貸切運行できる(2009年9月、恵 知仁撮影)。

 この制度では、各自治体が寄付金の「使い道」を明記しており、地域の鉄道を応援できる場合があります。多くの場合、集められた寄付金は鉄道をはじめ様々な事業へ分配されますが、なかには納税者が寄付金の使途を指定できるケースも。

たとえば岩手県のふるさと納税で「三陸鉄道の活性化・利用促進等への支援」と指定すれば、納めた額はそのまま三陸鉄道関連の事業に使われることとなるのです。

 岩手県のふるさと納税では、1万円以上寄付すると、「三鉄オーナー」の会員証とともに、様々なグッズがもらえたり特典が受けられたりします。さらに、5万円以上の寄付で「車両の運転体験」という特典も。このほか、実際に使われていたレールを組み込んだ「オーナーズプレート」なども選べるようになっています。

 鳥取県八頭(やず)町では地元の第三セクター、若桜鉄道の支援に寄付金の使途を指定できます。返礼品には地域のグルメなどにまじって、100万円の寄付で若桜鉄道の「貸切ブライダル列車で結婚式」というものも。

使用する車両は、JR九州などの車両デザインを手掛ける水戸岡鋭治さんがデザインした「観光列車・昭和」で、町長も式に立ち合うという力の入れようです。

 この八頭町の「ブライダル列車」は、ひと組限定の返礼品ですが、2018年12月18日時点でまだ選択可能。運行日は「大安」の2019年3月16日(土)です。過去に「ブライダル列車」が運行された際には、地域住民総出でお祝いしたといいます。

小田急「ロマンスカー」や「成田エクスプレス」貸切も!?

 ふるさと納税の返礼品として「列車の貸切」を提供する自治体は年々増えており、あの手この手で特色を出そうとしています。レトロな車両の貸切(前橋市の上毛電鉄「デハ101」貸切など)や、畳敷きのあるお座敷列車の貸切(高知県四万十市における土佐くろしお鉄道の列車貸切など)といったケースのほか、かつて首都圏で活躍していた特急列車の貸切を行っているところも。

 それが長野市の返礼品「長野電鉄の特急車両貸切」です。長野電鉄の特急「ゆけむり」(元・小田急ロマンスカー「HiSE」)、または「スノーモンキー」(元・JR東日本「成田エクスプレス」)を選ぶことができます。寄付額は運行区間によって異なりますが、20万円から26万7000円で、かつての小田急「ロマンスカー」や「成田エクスプレス」を個人で貸し切ることができるのです。ただし、どちらも1編成の車両数は首都圏で走っていたときより短くなっています。

「ふるさと納税」でローカル線を守れ! 列車貸切、社長DJ…あの手この手のアイディア

鳥取県八頭町が100万円以上の寄付に対する返礼品としている、若桜鉄道の「貸切ブライダル列車」イメージ(画像:2018麒麟のまち観光局)。

「列車の貸切」という返礼品のなかで異彩を放っているのが、千葉県銚子市が提供する銚子電鉄の貸切プラン。

銚子電鉄ではふだんから個人による列車貸切をウェブサイトなどで受け付けていますが、銚子市の「ふるさと納税限定パック」では、同社社長の竹本勝紀さん自らが列車を運転し、道中の名所や見所を「DJ風」に案内してくれます。23万円(「DJ」なしの運行は18万2000円)の寄付で催行でき、寄付の用途を「銚子電気鉄道応援事業」に指定することもできます。

 なお「DJ」とは「ドン引きする冗談」の略とのこと。2017年に銚子市で「鯖サミット」(各地のサバが味わえる食のイベント)が開催された際に運行された「3843(鯖読み)号」でも、「砂漠で鯖を売りサバく」「鯖威張る電鉄(サバイバルな経営状況にかけて)」などといった社長のジョークが炸裂したそうです。

車両型「赤パンツ」!? 鉄道グッズの返礼品も多彩

 実際に使用されていた鉄道の用品そのものを返礼品にする自治体もあります。三重県四日市市では、2018年に地元の第三セクター、四日市あすなろう鉄道の車両を更新しましたが、それで不要になった車両のつり革を返礼品にラインアップ。

全国に3か所しかないナローゲージ(線路幅がJRの在来線より狭い762mm)を走っていた車両のつり革は希少かもしれません。寄付金額5000円で受け取ることができます。

 一方、鉄道会社のオリジナルグッズを返礼にあてる自治体も多く、特に猫の「たま駅長」を擁する和歌山電鐵や、「ぬれ煎餅」が有名な銚子電鉄の沿線自治体は、豊富にグッズを揃えています。寄付金額も数千円からと手頃で、寄付の総数を集めやすそうです。

 市内に島原鉄道(以下、島鉄)が走る長崎県雲仙市では、実に17種類もの島鉄グッズを返礼品に取りそろえています。なかでも目をひくのが、赤とクリーム色に塗られた車両の柄をあしらった男性もののボクサーパンツ2枚組「赤パン2(あかぱんつー)」です。

「ふるさと納税」でローカル線を守れ! 列車貸切、社長DJ…あの手この手のアイディア

長崎県雲仙市の「ふるさと納税」返礼品には、島原鉄道の車両をデザインした赤パンツも(画像:島原鉄道)。

 この塗色は島鉄の古い車両で採用されていたものですが、車両前方から見ると赤いパンツのように見えるため、「赤パンツ車両」と呼ばれていました。それを実際にパンツにしたもので、背面(おしり側)には貫通扉、前面には「赤パンツ」柄の車両前面を大きくプリントし、「赤パンツ車両」を再現。雲仙市は、大人用2枚組、または大人・子供用のセットを、6000円寄付した場合の返礼品としています。

 ちなみに、ふるさと納税の仕組みで、鉄道の活性化に向けた資金調達において大きな成果を収めた例も。JR北海道が「単独では維持が困難」としている花咲線(根室本線 釧路~根室間)の沿線である根室市は、ふるさと納税制度を活用したクラウドファンディング「日本最東端の鉄路『根室本線花咲線』を守ろう!」で花咲線活性化のために資金を募ったところ、2018年6月からの半年間で2万241人から2億9980万円を集めています。

※記事制作協力:風来堂、oleolesaggy