鉄道事業を営む日本の会社で、営業距離が最も長いのはJR東日本。資本金額も同社がトップですが、2018年11月までは関西電力がトップでした。
鉄道会社の規模は大小さまざま。第1種鉄道事業(線路を保有し、運賃を徴収して旅客や貨物を列車で運ぶ事業)を営む株式会社で、最も営業距離が長いのはJR東日本です。同社の『会社要覧2018-2019』によると、営業キロ数の合計は7457.3km(2018年4月1日時点)に及びます。
資本金額が日本一大きい鉄道会社になったJR東日本(画像:kawamuralucy/123RF)。
これだけの規模になると経営規模の目安になる資本金も大きく、その額は2000億円。鉄道会社では堂々の1位……といいたいところですが、実は2018年11月30日までは2位でした。
資本金1位だったのは関西電力(関電)。その金額は4893億円(2018年3月31日時点)で、JR東日本の2.4倍と圧倒的です。しかし関電といえば、いわずとしれた関西地方の電力会社。鉄道会社という印象は全くないかもしれません。その会社がなぜ「日本一の鉄道会社」だったのでしょうか。
関電は2018年11月30日まで、長野県大町市内の扇沢駅から富山県立山町の黒部ダム駅までの区間でトロリーバスを運行していました。トロリーバスはモーターで走るバス。走行に必要な電気は道路の上に設けられた電線(架線)から供給されます。鉄道線路を走る電車と道路を走る電気自動車を足して2で割ったような乗りものです。
営業キロは6.1kmで、JR東日本の1223分の1しかありません。しかし、日本のトロリーバスは法律上、鉄道や路面電車と同じ扱い。トロリーバスを運行する関西電力も、鉄道事業法に基づきトロリーバスを運行していました。そのため電力会社でありながら「鉄道会社」でもあったのです。
実はいまでも「鉄道会社」?このトロリーバスは、関西電力が富山県の黒部峡谷に計画した水力発電専用ダム「黒部ダム」を起源とします。ダムの建設資材搬入ルートとして、長野県側から黒部ダムの建設地に入るトンネル(関電トンネル)を建設。ダムの完成後、関電トンネルを観光客向けの交通路として活用することになり、1964(昭和39)年から運行が始まりました。開業から53年後の2017年7月には、利用者数がのべ6000万人を超えています。

2018年11月30日限りで廃止された、関電トンネルのトロリーバス(2015年9月、恵 知仁撮影)。
ただこのころ、初代車両に代わって運行されていた2代目の車両は、導入から約20年が経過。3代目の車両を導入しなければならない時期に差し掛かっていました。しかし、トロリーバスは架線や変電施設のメンテナンスにお金がかかります。バッテリー技術の向上もあり、架線や変電施設が不要な電気バスのほうが安く運行できるようになっていました。
こうして関電は6000万人達成から1か月後の2017年8月、トロリーバスを電気バスに置き換える計画を発表。鉄道事業を2018年12月1日付(最終運行は同年11月30日)で廃止することを、国土交通大臣に届け出ました。トロリーバスは予定通り運行を終了したため、関西電力は「鉄道会社」ではなくなり、資本金額が日本一の鉄道会社はJR東日本になったのです。
ただし、運賃を徴収して旅客や貨物を運ぶ「鉄道事業」は廃止しましたが、自社の業務だけに使用する「専用鉄道」は、いまも保有しています。専用鉄道(鉄道事業法の定義によるものに限る)の所有会社も含めるなら、関電は依然として「日本で最も資本金の額が大きい鉄道会社」といえます。また、線路だけを保有して列車の運行は別の鉄道事業者が行う第3種鉄道事業者も含めると、関西空港アクセス鉄道の線路をJR西日本と南海電鉄に貸し付けている新関西国際空港の資本金額が3000億円で、JR東日本を上回ります。
関電の専用鉄道は、黒部川に沿って黒部ダムに延びる「黒部ルート」のうち、黒部峡谷鉄道の終点、欅平駅から黒部川第四発電所前駅までの約7km。

黒部ルートの専用鉄道はいまも関電が使用中。業務用の特殊な鉄道も含めれば、関電は依然として「日本で最も資本金の額が大きい鉄道会社」といえる(2015年8月、草町義和撮影)。