鉄道のきっぷは、平成時代に大きく変化しました。自動改札機の進化と歩調を合わせるように、紙のきっぷから「イオカード」「パスネット」といった磁気プリペイドカード、そして「Suica」などのICカードへ。

その歴史を振り返ります。

ITが変えた鉄道のきっぷ

 1989(平成元)年と2019(平成31)年の鉄道の利用スタイルを比べたとき、特に大きく変わった点がふたつあります。ひとつは乗り換え検索アプリなどに代表されるように、最適なルート、時間、料金をすぐに調べて移動できるようになったということ。昔は、事前に所要時間や運賃を調べるには時刻表を開くしかありませんでした。

 そしてもうひとつが、いちいち目的地までの運賃を確認してきっぷを買うのではなく、事前にチャージしたICカード乗車券で乗車、下車、乗り越し精算まで済ませることができるようになったことです。首都圏では1990年代に入ってようやく自動改札機の設置が進み、購入・乗車・精算を機械で完結できる磁気乗車券(裏が茶や黒色のきっぷ)、「イオカード」や「パスネット」など直接投入型の磁気カード、そしてICカード式乗車券と、瞬く間にサービスが向上していきました。どちらも、その背後にあったのは情報技術の急激な発展です。ITが変えた平成の鉄道史を振り返ります。

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現在も採用されている紙のきっぷ。発売日は年号表記が多かった(乗りものニュース編集部撮影)。

 きっぷ(乗車券)に記録された情報を自動改札機で読み取るシステムは、1960年代から研究開発が進み、大阪では試験的な導入も行われました。1970年代には磁気データで情報を記録する方式が一般化し、自動改札機の処理能力も大幅に向上したことで、札幌、横浜、大阪の地下鉄新線や、阪神、南海など関西私鉄で本格的な導入が始まります。

銀行のキャッシュカードやクレジットカードなど、磁気ストライプ式のカードが世間に普及し始めたのもこのころでした。

 ところが、首都圏の鉄道網は相互直通運転など路線ネットワークが複雑で、当時の磁気券では情報を記録しきれなかったこと、自動改札機の処理速度が遅く、膨大な利用者をさばききれないことから、長らく有人改札が主流のままでした。ようやく1990(平成2)年にJR東日本と営団地下鉄(現・東京メトロ)が相次いで自動改札機の本格導入を発表すると、首都圏でも自動改札化が急速に進みます。背景には1980年代後半に記録容量を増やした磁気券の開発と、国鉄民営化による改札の合理化(省力化)がありました。

自動改札機導入と並行してICカード開発も進む

 JR東日本は山手線の駅から自動改札機の設置に着手し、翌1991(平成3)年3月に自動改札機に直接投入可能なプリペイドカード「イオカード」のサービスを開始。営団地下鉄も同年11月に開業した南北線(赤羽岩淵~駒込)で使用できる「NSメトロカード」を導入、1996(平成8)年には営団地下鉄・都営地下鉄全線で使用できる「SFメトロカード」に発展します。これらのシステムは、将来的な統合を考慮してイオカードと共通の規格が採用されていました。

磁気からICへ…平成の鉄道きっぷはITとともに進化 その変遷を振り返る

JR東日本が導入していた磁気プリペイドカード「イオカード」(乗りものニュース編集部撮影)。

 一方、この裏では次世代に向けた研究開発が行われていました。ICカード乗車券の研究は国鉄時代の1985(昭和60)年に始まり、民営化後はJR東日本に引き継がれて開発が進められていました。

 いまの感覚からすると、当時は自動改札機の本格導入もしていないのに、いきなりIC乗車券を研究するというのは、少々飛ばしすぎではないかと思うかもしれません。しかし磁気乗車券はすでに20年もの歴史があり、1980年代には次世代のカードとしてICカードが登場していました。

また、定期券を駅員に見せて通過する有人改札に対して、自動改札機では、磁気定期券をパスケースから出して機械に投入しなければなりませんから、パスケースに入れたまま読み込めるICカードであれば、利用スタイルが変わらないという自然な考えだったのです。

 ICカードの開発は磁気式の自動改札機導入と並行して進められ、様々な苦難を乗り越えて「Suica」として完成。自動改札機の更新サイクルは約10年、2000(平成12)年に迎える最初の更新で、早くもICカード乗車券の導入が決定します。地下鉄・私鉄もSuicaの技術を採用し、2007(平成19)年に共通ICカード「PASMO」を導入しました。

ICカードの次は何が来る?

 振り返ればイオカードは約10年、パスネットはわずか約7年で次の世代にバトンタッチしたことになりますが、これらカードの存在は決して回り道ではありませんでした。この間に首都圏のJR・私鉄・地下鉄で共通規格の磁気式自動改札機が普及し、ICカードになったいまでも、基本となるデータは磁気時代のフォーマットがベースです。

 次の時代は何が変化するでしょうか。現在のICカードは都市部の乗車券と少額の電子マネー決済の役割に留まっており、長距離利用や高額決済は基本的には想定していません。新幹線に乗ったら数万円チャージしておいたICカードから運賃と特急券がピっと引き落とされる、という未来は来ないでしょうし、誰も期待していません。

 飛行機ではネット予約と決済、そしてチケットレスによる搭乗が一般的となっています。鉄道でもJR東日本の「えきねっとチケットレスサービス」など、チケットレス化が進んでいますが、現状ではICカードの乗車券部分と、チケットレス特急券の“二階建て”の構造です。これが将来、JR東日本の「モバイルSuica特急券」やJR東海の「スマートEX」のように、ネット上で予約・決済した乗車券・特急券を、手持ちのICカードを「鍵」にして使う方向に進んでいくと考えられます。

 Suicaのサービス開始から間もなく20年を迎え、初めて鉄道に乗ったときからICカードだったという世代も増えてきたようです。30年後に現在を振り返ったとき、こんな不便に鉄道を利用していたのかと驚けるくらいのサービスが登場することを期待しましょう。

【写真】「パスネット」などの懐かし磁気プリペイドカード

磁気からICへ…平成の鉄道きっぷはITとともに進化 その変遷を振り返る

磁気プリペイドカードの「SFメトロカード」や「パスネット」。右上は「スルッとKANSAI」対応の「レインボーカード」(乗りものニュース編集部撮影)。

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