「海の日」にちなみ「海の見える駅」を紹介します。定番どころではなく、筆者が「知る人ぞ知る」と考える駅を挙げました。
「海の見える駅」といえば、下灘(JR四国 予讃線)、北浜(JR北海道 釧網本線)、青海川(JR東日本 信越本線)、海芝浦(JR東日本 鶴見線)、鎌倉高校前(江ノ島電鉄)などが挙げられるでしょう。しかし日本は島国、多くの鉄道線路が海沿いを走っており、ほかにも海の見える駅はたくさんあります。今回は、筆者(杉山淳一:鉄道ライター)が旅したなかでオススメの「海の見える駅」を5つ紹介します。
根府川駅(JR東海道本線・神奈川県小田原市) 日の出がオススメ根府川駅は太平洋に面した高台にあります。そのため、プラットホームから水平線を一望できます。東京駅から普通列車でも1時間半という近さ。始発列車で出掛ければ、日の出を楽しめるでしょう。
根府川駅付近の車窓から見た日の出(2012年、杉山淳一撮影)。
筆者は1985(昭和60)年、上り寝台特急の車窓から日の出を見て、「ここから初日の出を楽しめるかも」と思いつきました。友人を誘い「青春18きっぷ」で出掛けてみたら予想通りでした。しかし周囲は私たちのほかに数人だけ。
近年は初日の出の名所として定着しており、元日には日の出の時刻に合わせて、JR東日本の臨時列車が停車します。
桑川駅(JR羽越本線・新潟県村上市) 日の入りがオススメ日の出の次は日の入りのオススメです。桑川駅は日本海の景勝地、笹川流れの最寄り駅です。桑川駅は道の駅が併設されています。その名も「道の駅笹川流れ・夕日会館」。2階のサンセットブリッジから海を見渡せます。

桑川駅付近の海岸から見た日の入り(2018年、杉山淳一撮影)。
駅を出て国道を渡ると、夕日を眺めるために造られたような階段があり、浜に降りられます。もちろんプラットホームからも見えますから、列車をシルエットにして夕日を撮っても楽しいと筆者は思います。
「青春18きっぷ」で乗り通したい? 山陰本線は「海の見える駅」がたくさんJR東日本は2001(平成13)年から2019年まで、日本海の車窓を楽しむ観光列車「きらきらうえつ」を運行。2008(平成20)年以降、10月は「夕日ダイヤ」として上り列車が桑川駅に40分ほど停車し、日没を楽しめました。
山陰本線は中国地方の日本海側に沿って建設されました。難工事だった余部橋りょうや桃観トンネルをはじめ、同線は橋とトンネルの繰り返し。それだけに、現れては隠れてしまう海や入り江の風景が印象に残ります。鎧駅(兵庫県香美町)、餘部駅(同)、東浜駅(鳥取県岩美町)、田儀駅(島根県出雲市)、飯井駅(山口県萩市)など、山陰本線は海の見える駅の宝庫です。「青春18きっぷ」で乗り通したくなります。

馬路駅。2両編成の振り子式特急列車とすれ違う(2012年、杉山淳一撮影)。
なかでも特にオススメなのが馬路駅です。高台にあるプラットホームから、街並み越しに白い砂浜と海が見えます。この砂浜は「琴ヶ浜」といって、鳴き砂で有名です。踏みならすというより、手で砂浜の表面をなでるように触ると音が出ます。
隣の仁万駅(島根県大田市)の付近には「仁摩サンドミュージアム」があります。こちらもオススメ。琴ヶ浜の砂にちなんで造られ、1年間を計る巨大な砂時計は荘厳で迫力があります。ちなみに琴ヶ浜の砂は砂時計に適していなかったようで、山形県から取り寄せた砂を使っているそうです。
梅津寺駅(伊予鉄道高浜線・愛媛県松山市) 坊っちゃん列車も今回紹介する駅のなかでは最も海に近い駅です。プラットホームが防波堤と一体になっており、満潮時には足下近くに水面が見えます。電車も頻繁に通り、海と電車が好きな人ならいつまでも飽きないところです。
近くの梅津寺公園には「坊っちゃん列車」が保存展示されています。夏目漱石の小説『坊っちゃん』で主人公から「マッチ箱のような列車」と呼ばれた当時の車両です。伊予鉄道市内線の「坊っちゃん列車」はレプリカ。伊予鉄道本社内の「坊っちゃん列車ミュージアム」に展示された機関車もレプリカですが、梅津寺公園の保存車は本物です。

梅津寺駅のプラットホームから。赤い看板が、ドラマロケ記念のハンカチ結び場(2014年、杉山淳一撮影)。
梅津寺駅は1991(平成3)年に放送されたドラマ『東京ラブストーリー』のロケ地としても有名です。主人公のカンチ(織田裕二さん)とヒロインのリカ(鈴木保奈美さん)が待ち合わせた場所。そこにはリカのメッセージが書かれたハンカチが結ばれていました。視聴率は32.3%だったそうです。
『東京ラブストーリー』は2020年春にリメイクされました。しかし最終回は大幅に変わり、カンチはバスに乗っています。梅津寺駅も登場しません。残念です。
ノーフォーク広場駅(平成筑豊鉄道門司港レトロ観光線・福岡県北九州市) 降りて散歩したい駅ノーフォーク広場駅は、トロッコ列車が走る平成筑豊鉄道門司港レトロ観光線(愛称、北九州銀行レトロライン)の中間駅です。プラットホームと海のあいだに遊歩道があり、徒歩5分ほどの場所にノーフォーク広場があります。

ノーフォーク広場駅に停車中の車内から。奥に関門橋が見える(2018年、杉山淳一撮影)。
「北九州銀行レトロライン」は門司港の臨海貨物線を再利用して造られました。門司港駅に隣接する九州鉄道記念館駅と瀬戸内側の関門海峡めかりを結びます。わずか2.1kmの観光路線です。ノーフォーク広場駅は4駅あるなかで最も海に近い駅です。関門海峡めかり駅まで行ったら、帰りは徒歩で関門橋の下を通り抜け、ノーフォーク広場駅へ戻るルートも楽しそう。関門トンネル人道も近くです。
ひとくちに「海が見える」といっても、「水平線が長い」「岬が入り組んでいる」「砂浜がきれい」など、海の景色はさまざまです。海面の色は天候や季節でも変わります。