地方の道路公社が管理する有料道路では、ETCが使えないというケースも多く、中には「Suica」など別の手段に対応するところもあります。そうしたなか、より安価に導入できる「ネットワーク型ETC」も注目されています。
有料道路で、ETCは使えないものの、「Suica」や「PASMO」といった交通系ICカードに対応している、というケースがあります。
埼玉県道路公社が管理する新見沼大橋有料道路が2009(平成21)年から、交通系ICカードに対応しているほか、神奈川県道路公社が管理する三浦縦貫道でも2012(平成24)年8月から利用可能になりました。前者の道路ではさらに、2019年からイオングループのICカード「WAON」にも対応。2020年には同じく埼玉県道路公社の皆野寄居有料道路でも交通系ICカードが利用可能となっています。
三浦縦貫道はETC非対応だが、「Suica」などの交通系ICカードで料金を支払える(2019年8月、乗りものニュース編集部撮影)。
ただし三浦縦貫道では、料金所の収受員に交通系ICカードで支払う旨を告げ、収受員が読み取り端末を窓口からドライバーに近づけてカードを触れさせる、という運用です。有人対応が基本であり、あくまでキャッシュレスの決済方法を提供することを目的としている点は埼玉県道路公社も同様ですが、なぜETCではなく交通系ICカードなのでしょうか。
「ひとつには、交通系ICカードの方がETCを導入するより安かったからです。また、通行料金は数百円ですから、チャージを基本とする交通系ICカードにも合っていたということもあります」(神奈川県道路公社)
交通系ICカード導入のきっかけは、料金収受システムの更新にあたってのメーカーからの提案。それ以前は有料道路用のシステムでしたが、コンビニエンスストアなどのレジのシステムに近いものにし、それを道路へ応用したのだそうです。
このため、車種の自動判別に対応していないとのこと。軽自動車から特大車まで5車種別の料金区分を、利用者が判断して料金を支払うのも難しいことから、交通系ICカードでも有人対応としているのだとか。
このように、地方の道路公社の有料道路では、小銭レベルの通行料金にも関わらず、莫大な費用をかけてETCを導入するメリットが少ないことから、非対応というケースが少なくありません。
とはいえ、「ETCの利用率が9割を超えるなか、キャッシュレス化の声は大きい」(神奈川県道路公社)とのこと。2019年には滋賀県道路公社が琵琶湖大橋有料道路にETCを導入したように、高速道路ネットワークから切り離された有料道路がETC導入に踏み切るケースも出てきています。
こうしたなか、神奈川県道路公社は横須賀の本町山中有料道路で2020年3月から5月にかけ、「ワンストップ型ETC」の社会実験を行いました。これは「ネットワーク型ETC」と呼ばれるシステムを用い、スマートICと同じように一時停止が必要ではあるものの、安価に導入できるというもの。ネットワーク型ETCの有料道路への適用は今回が日本初だったそうです。

2019年にETC対応となった琵琶湖大橋有料道路。料金徴収期間の8年延長とともに、料金の引き下げおよびETC利用割引も導入された(2020年3月、乗りものニュース編集部撮影)。
「ネットワーク型ETCは、セキュリティ処理を遠隔地で行うことで、現場の機器を少なくできます。今回の社会実験では首都高さんの内部システムを活用しました。
ネットワーク型ETCは、国も推進している「ETCの多目的利用」のためのシステムで、一部駐車場などでも利用されているほか、2020年8月からはNEXCO中日本により、ケンタッキーフライドチキンのドライブスルーにおける料金支払いに適用する社会実験も行われています。神奈川県道路公社では今後、管理する4つの有料道路すべてに、ネットワーク型ETCを活用したワンストップ型ETCを導入する予定だそうです。
現在、新型コロナウイルスの感染を防ぐ観点から、料金所収受員と利用者との接触機会を減らす目的で、「高速道路のETC専用化」も国で議論されています。神奈川県道路公社は、今回のネットワーク型ETCが地方有料道路のETC化を推進することが期待されると話します。
※一部修正しました(8月5日22時20分)。