アメリカ空軍は「エリア51」で様々な新型機のテスト飛行を行っています。そのなかにはアメリカ製ではない機体も含まれていました。

自国製ではないのに試作を示す「Y」の型式が付与された秘密の機体について見てみます。

エリア51の周辺を飛び回っていた未確認機とは

 UFO(未確認飛行物体)や、いわゆる「ロズウェル事件」などとの関連で知られるアメリカ・ネバダ州の「エリア51」。この一帯はアメリカ軍の試験訓練エリアであり、一角には同空軍のグルーム・レイク航空基地も存在します。

 この基地は1955(昭和30)年に開設され、広大な試験訓練エリアで各種新型機や実験機のテスト、訓練などが行われてきました。有名なところでは超音速偵察機のSR-71「ブラックバード」や、世界初のステルス戦闘機であるF-117「ナイトホーク」などが挙げられます。

 そのような安全保障上の機密事項があふれているからこそ、グルーム・レイク航空基地を含む「エリア51」地域は厳重な警備のもとに置かれているのですが、1940年代後半から1980年代後半まで続いた、いわゆる冷戦時代においては、自国開発の新型機以外にも極秘の機体が彼の地で運用されていました。

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YF-110戦闘機とともに写真に収まる第4477試験評価飛行隊のクルーたち(画像:アメリカ空軍)。

 それらはYF-110やYF-113、YF-114などと呼ばれていました。確かにアメリカ空軍には、「センチュリーシリーズ」と呼ばれるF-100「スーパーセイバー」から始まる一連の3ケタ型番を持つ戦闘機がいくつかあります。なお、自衛隊も導入したF-4「ファントムII」戦闘機も、アメリカ空軍が採用した当初は独自の型番としてF-110が付与されていました。

 他方で、YF-110などの「Y」は、試作機を示すアルファベットです。「センチュリーシリーズ」に続く新型機として開発されたり、もしくはそれらと競いあったりした試作戦闘機のように思えますが、実はそうではありません。

 むしろ、それらはアメリカで開発された機体ではなく、冷戦当時アメリカの最大のライバルと目されていたソ連製だったのです。

第3国経由で手に入れた敵国生まれの戦闘機たち

 先に結論をいってしまうと、YF-110はMiG-21、YF-112はSu-22、YF-113はMiG-23、YF-114はMiG-17であり、それぞれアメリカ空軍が情報漏洩を防ぐために付与した欺瞞用の型式でした。

 実は、アメリカ空軍はこれらの機体をイスラエルやエジプト経由などで入手し、調査や研究のために実際に自国内で飛ばしていたのです。そのときにホームベースとなっていたのが、冒頭のグルーム・レイク航空基地でした。

未確認飛行物体!? エリア51で飛んでいたアメリカ軍の極秘戦闘機YF-110 なぜ「Y」がつく?

アメリカ空軍博物館に収容されているMiG-21戦闘機。以前はYF-110としてアメリカ空軍が使用していた機体(画像:アメリカ空軍)。

 ソ連製の機体を運用していたのはアメリカ空軍第4477試験評価飛行隊です。この飛行隊は1980(昭和55)年5月1日に発足しましたが、発端はその前にあったベトナム戦争で、ソ連製戦闘機にアメリカ製戦闘機が苦戦を強いられたことでした。

 ソ連製戦闘機に対して、アメリカ製戦闘機はどのような戦術で立ち向かうのか、その研究はベトナム戦争が終わっても続きますが、そのようななかで各種研究を行うにあたり一番の近道は、ライバル機を手に入れることだとの結論に達します。

 そこで1970年代後半に、イスラエルが捕獲した元シリア空軍やイラク空軍所属のMiG-17およびMiG-21を入手。これにより前出の第4477試験評価飛行隊が発足しました。

 ソ連製の機体はその後、エジプト経由でも調達されるようになり、新型のMiG-23戦闘機も1980年代半ばには、すでに第4477試験評価飛行隊にあったそうです。

さらに1980年代後半には、新たに中国からMiG-21のライセンス生産型であるJ-7(F-7)B戦闘機12機を新規購入しています。

秘密飛行隊と極秘戦闘機 VIPの犠牲で公に

 とはいえ、第3国経由でソ連製戦闘機を手に入れていることは安全保障上の機密であるとして隠蔽され、運用する第4477試験評価飛行隊の存在も公にされることはありませんでした。

 そのため、1979(昭和54)年8月にYF-114(MiG-17)が、1982(昭和57)年10月にはYF-113(MiG-23)が、それぞれ墜落事故を起こし、両方ともパイロットが亡くなったにもかかわらず、事故の詳細はひた隠しにされたのです。

未確認飛行物体!? エリア51で飛んでいたアメリカ軍の極秘戦闘機YF-110 なぜ「Y」がつく?

2機のF-5戦闘機とともに編隊飛行するYF-114ことMiG-17と、YF-110ことMiG-21(画像:アメリカ空軍)。

 しかし1984(昭和59)年4月、アメリカ空軍システム軍団(当時)の副司令官が、第4477試験評価飛行隊のMiG-23の墜落によって命を落としたことで転機が訪れます。3つ星の空軍中将が亡くなったにもかかわらず、機種を含めて事故の詳細が明らかにされなかったことで様々な憶測や批判が起き、その結果アメリカ空軍はソ連製戦闘機を保有していることを公にします。

 こうして秘密でなくなったことも影響したのか、1988(昭和63)年3月、第4477試験評価飛行隊は廃止されました。さらに1989(平成元)年には冷戦が終結。東西ドイツ統合によって新生ドイツ空軍がソ連製戦闘機を運用するようになったほか、1999(平成10)年以降は、冷戦中ソ連の同盟国であった東ヨーロッパ諸国が次々にアメリカと同盟関係を結ぶようになったことなどで、1970年代とはうって変わって旧ソ連製軍用機の情報を手に入れやすくなりました。

 現在では、インドネシアやマレーシアのようにアメリカ製と旧ソ連(ロシア)製の戦闘機を併用する国まで現れています。そう考えると、ありとあらゆる手段で敵国の戦闘機を手に入れようとしていたのも、やはり冷戦時代ならではだったといえるのかもしれません。