ジューン・スキッブが93歳で映画初主演を果たし、オレオレ詐欺師に立ち向かうテルマおばあちゃんの奮闘を描いたコメディー映画『テルマがゆく! 93歳のやさしいリベンジ』が、6月6日から全国公開される。本作でテルマと仲がいい孫のダニエルを演じたフレッド・ヘッキンジャーに話を聞いた。

-まずこの映画への出演の経緯から伺います。

 この映画に関わるきっかけは、監督のジョシュ・マーゴリンがジューン・スキッブ向けに当て書きをした脚本を読んだことです。人間くさくて驚きも面白さもあるとても素晴らしい脚本だったので、ぜひ関わりたいと思って、出演に加えてプロデューサーとしても関わることになりました。

-2024年は『グラディエーターⅡ 英雄を呼ぶ声』『クレイヴン・ザ・ハンター』『ニッケル・ボーイズ』といろいろな映画に出ましたが、今回は社会生活に順応できない孫のダニエル役でした。彼のキャラクターをどのように理解しましたか。

 大好きなキャラクターです。今回は役作りの準備をする上で、ジョシュがそばにいてくれてとても助かりました。というのも、この映画は彼の本当のおばあさんに当てたラブレターであり、自分とおばあさんとの関係を描くところから始まったものだからです。なのでダニエルはジョシュそのものなんです。悩んだり、何か分からないことがあってジョシュに相談すると、彼が自分の経験や家族との関係について細かいことまで教えてくれました。それから、衣装を選ぶ時に靴はどうしたらいいだろうとジョシュに相談しに行って、彼が履いていた靴を参考にして選んだこともありました。そのように実際のものをそのまま映画に反映させた例がいくつもありました。

例えば、最初の1週間で撮影をしたテルマが住んでいる家も、実際にジョシュのおばあさんが昔住んでいた所ですごく温かみがあって使い込んだ生活感がありました。とても素晴らしい経験をさせてもらいました。

-テルマを演じたジューン・スキッブとの共演はいかがでしたか。とても仲よくなったという話を聞きましたが。

 本当に素晴らしい体験になりました。撮影に入る少し前に彼女の家に呼んでいただいて読み合わせをしましたが、気付いたらお互いにいろいろな話をして打ち解けて、読み合わせがなかなか進まなかったほどでした。話をしながらいろいろなことに対する思いや考え方がすごく似ていると感じました。彼女は俳優としてはもちろん、人間としても本当に素晴らしい人なので本当にすてきな出会いになりました。

-『黒いジャガー』(71)でシャフトを演じたリチャード・ラウンドトゥリーとの共演はいかがでしたか。

 リチャードとは1シーンだけの共演でしたが、彼と知り合うことができてとてもうれしかったです。全体の読み合わせや、準備の段階でも接することができて、アーティストとしても人間としても素晴らしい人だと思いました。彼の演技はもちろん、俳優としてもとても尊敬しています。

おっしゃるようにシャフトは映画史上に残るキャラクターの一人だと思います。その彼がこの映画への出演を熱望していました。というのも、長いキャリアの中で自分がこれまでやったことのない演技を見せられるからということでした。とにかくすごく面白味のある役柄だったと思います。彼がいなければこの映画は成立しなかったと思いますし、もう彼に会えないかと思うととても寂しいです。

-『ミッション:インポッシブル』のトム・クルーズがテルマの後押しをするところが面白かったです。

 『ミッション:インポッシブル』は僕も大好きです。父と新作が待ちきれないと話し合ったばかりです。ジョシュが「自分のおばあちゃんが寝返りを打つのを見る時は、それこそトム・クルーズがパラシュートで飛び降りるのと同じぐらいドキドキする」と言っていました。それは、トム・クルーズのスパイがものすごいアクションをしてハラハラドキドキするようなことが、実は自分の日々の生活の中にもあるかもしれないということです。もちろん自分はスパイではなく、世界を救うようなこともしていないけれど、トムと同じように、日々の生活の中で身の回りに起きる惨事をいかに避けるか、周りの人の安全をいかに守るかということで結構頑張っているとジョシュは感じたそうです。彼のそんな考え方に僕もすごく共感しました。

-完成作を見た感想をお願いします。

 非常に感動しました。ジョシュが思い描いた通りの映画ができたと思いました。これはとても珍しいことだと思います。自分が思い描いた通りに映画を完成させるためには、集中力も必要ですが、愛情や粘り強さや忍耐も必要だからです。製作している途中でいろいろ妥協しなければならないこともあると思うので。それを見事に乗り超えて、彼が最初に「こんな映画を作るんだ」と僕に電話で話してくれた通りのものができたと思います。彼は決してフォーカスを失うことがありませんでした。サンダンス映画祭で初めて観客と一緒に映画を見た時のことは一生忘れないと思います。自分が関わった映画を世に出して、皆と分かち合うことができたと実感できました。

-この映画は今後の俳優活動にとってどんなものになったでしょうか。

 とても大きなものになったと思います。

この映画は、素晴らしいチームがとても愛情を込めて作ったものですし、こういう映画を作ることができるという光を照らしてくれたと思います。どんな年齢の人が主人公でも、感動を与えることができるということ。誠実で愛にあふれた映画を作りさえすれば、それを喜んで見てくれる人がいるということです。今の映画では、年配のキャラクターは脇役になることが多く、老人がいない世界が描かれることも多いと思います。ジョシュはそこにすごくフラストレーションを感じていたと思います。これまで脇役だったジューンが、今回初めて主演で輝いたところも素晴らしいですし、今後こうした年配の人の物語が作られるきっかけになればいいなと思います。

-大変映画好きとお聞きしています。日本の映画で好きな映画はありますか。

 黒澤明監督の『天国と地獄』(63)です。前半と後半とでは全くトーンが違います。前半は家の中で展開し、後半は舞台が広がってペースも早くなっていくところが素晴らしいです。何度も見て影響を受けました。

他にも日本の映画から影響を受けたことがたくさんあります。

-最後に映画の見どころも含めて、日本の観客に向けて一言アピールをお願いします。

 日本で公開されることにすごくワクワクしています。去年『グラディエーターⅡ』のプロモーションで初めて日本に来ましたが、本当にすてきな体験をさせてもらいました。日本映画もずっと見てきたので日本は大好きです。ジョシュ・マーゴリンは素晴らしい映画作家なので、アクションとコメディードラマというトーンが違うジャンルを見事に融合させたものになっています。これまでにない映画が出来上がったと思っていますので、ぜひ皆さん見てください。皆さんに共感していただけたらうれしいです。

(取材・文/田中雄二)

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