NHKで好評放送中の大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」。“江戸のメディア王”と呼ばれた“蔦重”こと蔦屋重三郎(横浜流星)の波乱万丈の生涯を描く物語は、快調に進行中。

田沼意知(宮沢氷魚)は抜荷(ぬけに=密貿易)の証拠をつかもうとする。そんな意知に協力を申し出たのが、吉原の花魁・誰袖(福原遥)だった。彼女は、協力する代わりに自分を身請けしてほしいと迫る。そして動き始めた誰袖がまず接触したのが、松前家当主・松前道廣(えなりかずき)の弟の松前廣年だった。廣年を演じた人気お笑い芸人のひょうろくが大河ドラマについて語る。

-大河ドラマデビューということで、周囲の反響をどう実感していますか。

 僕は鹿児島県の出身なんですけど、やっぱり田舎の方では大河ドラマを見ている人はめちゃめちゃ多いみたいで、そこに僕が出るということですごく喜んでいただいています。だから周りの方の反応を見て、何かすごいものに出させていただいているんだと改めて思いました。

-今回はドッキリだとは疑わなかったのですか。

 一瞬疑ったんですけど、渡辺謙さんがいらっしゃったので、やっぱり本当だったのかと。渡辺謙さんが僕のために動くことは絶対にないので(笑)。あとはスタッフさんが「これドッキリかもよ」ってすごく言ってくださったんですけど、本当のドッキリの時って絶対にそんなことは言ってくれません。

だからこれはちゃんとしたものだと思って逆に安心しました。

-今回のオファーについては、誰からどういうシチュエーションで伝えられたのですか。

 マネジャーさんからのグループチャットで「何か大河ドラマの話が来たよ」って。でもそれってめちゃくちゃうそっぽいじゃないですか。だから僕も「えっ大河ですか」ってなって。「多分出られても一瞬のことだから。でも出られれるだけでもうれしいです」って話をしたら、「ちゃんとせりふがあって、役もすごく面白いのを頂けるみたい」と徐々に話が大きくなっていきました。

-松前廣年という家老の役で言葉遣いも難しかったと思いますが、いかがでしたか。

 最初に言われたのが、「あまり演じることを意識しなくてもいいですけど、位の高い方なので一応りんとしていてください」と。僕自身は38年間ずっと普通に生きてきたので、上の人の立場というものがどうしても分からなくて。だから一つ一つのしぐさですごく悩みました。たやすくひれ伏さないようにするというか、普段は、困ったら「すいません」となりますが、多分それをしたら駄目なので。

あまり「ありがとう」と思わないようにしました。

-松前廣年をどのようなイメージで演じましたか。

 一応、位の高い方ではあるんですけど、お兄さんが怖いので、どちらかというとしゅくしゅくと生きているという感じでしょうか。絵がお好きな方で、僕もそういうことが好きなので、絵を描いたりするシーンがあってもいいと思いました。でも本物の廣年さんの絵を見たら全然レベルが違いました。

-今回どうしてひょうろくさんにオファーがあったのかという理由は聞きましたか。

 これこれだからひょうろくさんにお願いしますみたいなお話は特になかったです。だから、僕は勝手に僕と(兄の松前道廣役の)えなり(かずき)さんの顔が似ているからなのかなと思いました。昔よく、えなりさんに顔が似ていると言われたんです。でも、何かほかに意図するものがあったのかちゃんと聞いておけばよかったですね。

-えなりさんとの絡みの芝居はいかがでしたか。

 兄に呼び出されるシーンがあるんですけど、えなりさんの笑顔と狂気が入り混じった感じが本当に怖かった。

本当にこういう呼び出され方をしたら、めちゃくちゃ怖いなと思いながら見ていました。

-何か撮影中のエピソードがあれば。

 周りは本当にすごい方たちばかりで、最初の撮影の時は緊張でまばたきが止まらなかったんです。演出の方から「ちょっとまばたきが多いですね」と言われて、「気をつけます」って言ったんですけど、止めようと思っても止まらないんです。ところがほかの皆さんは、絶対にまばたきをしないんです。それが当たり前というか。ただ見ている分には気付かないけど、多分心掛けていらっしゃることがとても多いんだと思いました。一緒にやらせていただいてすごく勉強になりました。何が分かっていないのも分からないということが分かりました(笑)。

-誰袖花魁役の福原遥さんとの撮影の感想を。

 ドキドキしないければいけないシーンではあったんですけど、本当にドキドキしてすごく緊張しました。実際に手を握られるシーンもかなりドキドキしました。

福原さんは、言葉遣いも含めてすごく色っぽかったのですが、「花魁の言葉遣いが難しいんですよ」っておっしゃっていたので、福原さんでもそういう悩みがあるんだと思いました。

-大河ドラマに出たことで、俳優という仕事に対する思いは変わりましたか。

 作品を見た方に楽しんでもらえる一部になりたいです。これ面白かったねというところに一要素として入れたらいいなと思います。ほかの皆さんを見ていると、すごい重厚感がある方もいれば、ひょうひょうとしている方もいる。それぞれの味や良さがあります。僕にも何かそういうものがあればいいのにというのはすごく感じました。

-キセルを吸うシーンなど、所作もかなり苦労したのでは。

 本当に難しかったです。キセルを見てはいけないんだと思いながらも、見ないと距離感が分からなくて。一発で口のところに持ってくるのが難しかったです。それで2回ぐらいやり直させてもらいました。

-バラエティーと演技の違いは?

 バラエティーの方面は、準備できない怖さというか、もう本当にまっさらな状態。考えても結局自分の思い通りになりません。これからどうなっていくんだろう、これは一体何なんだろうという怖さがあります。演技の方は、逆にやることがきっちりと決まっていて、その通りにしないといけない。バラエティーだと失敗したことが逆に良さになったりもしますが、演技の仕事は、失敗はただの失敗で、本当にすいませんとなります。だから極力失敗しないようにしなければなりません。やることが決まっている分、その通りにしないといけない難しさがあります。

-演技で大切なことは?

 自分がどこまで楽しんでやれるかが大事なのかなと思います。今回は準備不足もあって楽しむ余裕がありませんでした。廣年さんってどんな人なのかということをもっと考えてやればよかったのかなと。もう1回最初からやり直したい気分です。

-廣年との共通点はありますか。

 誰袖花魁から色仕掛けを食らっちゃうんですけど、やっぱりそうなっちゃうよなって思いました。演じながら自分でも情報を流しちゃいそうだなと思っていました。ストーリーや誰袖さんの意図は、台本上知っているので、すごく悲しくなりました。それでも、いやもしかしたら本心なんじゃないかなと思ってしまうところは、自分と似ているかもしれません。

-大河ドラマに出た自分をどんなふうに思いますか。

 もちろんすごく緊張もしましたが、いまだによく分かっていないというか、すごいことなんだと思いながらも客観視できていません。何か台風の中にいた感じです。外から見たらめちゃくちゃ大きな台風なんだけど、その渦中にいるとあまり実感がないというか。もう1人の僕がいたら、「えーっ」てなっていると思います。

(取材・文/田中雄二)

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