井端弘和「イバらの道の野球論」(15)

開幕直後の巨人・パーラと阪神・ボーア>>

 その成績によって、チームの順位を大きく左右する外国人助っ人。開幕から1カ月以上が過ぎ、今季からプロ野球でプレーする新外国人選手も明暗が分かれてきた。



 2018年まで巨人の1軍内野守備走塁コーチを務め、現在は解説者として活躍する井端弘和氏の目に留まった助っ人は誰なのか。「活躍が目立っている」というセ・リーグの新外国人選手について聞いた。

井端弘和がセの新助っ人たちを分析。阪神ボーアが復調してきた原...の画像はこちら >>

徐々に調子を上げてきた阪神のボーア

――今年の「新外国人助っ人」の中で、注目している選手はいますか?

パ・リーグでも、西武のリリーフで好投を続けている(リード・)ギャレットなどがいますが、ここまではセ・リーグの選手のほうで活躍が目立っている印象があります」

――では、セ・リーグの上位チームから新外国人選手について伺っていきます。首位の巨人では現在、先発のエンジェル・サンチェス選手(防御率2.67、3勝2敗)、野手ではジェラルド・パーラ選手(打率.293、3本塁打)が一軍で結果を残していますね。

「サンチェスは、最近の登板でボールにキレが出てきました。もう少し様子を見たいところですね。
パーラはここまでよくやっていると思います。ただ、各球団との対戦がふた回り目を過ぎ、苦手コースの研究も進んでいるはず。徹底した厳しい内角攻めにあう可能性もあります。その上で、どのコースでも対応できる、ボール球には手を出さないとなってくると、さらに怖いバッターになるでしょう」

――相手バッテリーの配球を研究して、対応できるかがカギになるということでしょうか。

「それは全選手に共通することですが、日本のプロ野球で活躍する外国人選手は、研究熱心な選手が多いですよ。私が中日でプレーしていた当時は、(タイロン・)ウッズもそうでしたし、(トニ・)ブランコは通訳にベンチまで資料を持ってきてもらって、熱心に説明を聞いていました。
シーズン中は、そういった相手との"研究合戦"を続けていくことになります」

――巨人を2位で追うヤクルトは、ショートのアルシデス・エスコバー選手(打率.274、1本塁打)が攻守でいい働きをしている印象がありますが。

「守備範囲が広いイメージはないですが、ハンドリングはうまいですね。ショートはヤクルトの弱点になっていましたから、彼が常に試合に出ていることがチームに安定感をもたらしています」

――ヤクルトは、開幕前には厳しい順位予想をされることが多かったですが、ここまでは勝ち星を伸ばしていますね。

「(ウラディミール・)バレンティンがソフトバンクに移籍し、山田哲人の調子が上がらない中で、特定の選手に頼っていられないという意識が強くなったのでしょう。今年は西浦(直亨)もよくなっていますね。打率は低いですが、パンチ力がある彼が打線の下位にいると怖いです。

4番の村上(宗隆)も打率や打点が上がってきていますし、ベンチでよく声を出している姿勢もいい。チームに勢いがついていると思います」

――3位の横浜DeNAで、オープン戦から調子がよかったタイラー・オースティン選手(打率.320、4本塁打)はいかがですか?

「ケガがちなのが心配ですが、いいですね。筒香嘉智(レイズ)に代わって4番に入った佐野恵太が、ホームランは多くないものの高い打率を残していますし、ベテランの梶谷隆幸宮﨑敏郎も調子がいい。もともと打線は強力でしたが、オースティンが入ることでさらに厚みが増しました。ゲーム終盤でリードされていても一気に試合をひっくり返せる力がありますし、相手ピッチャーに与えるプレッシャーはリーグ随一でしょう」

――オースティン選手のバッティングの特長は?

「軸がブレず、スイングスピードが速いので、かなりボールを引きつけて打つことができています。今後は、パーラの時にも言いましたが、研究された上でそれにどう対応できるかですね」

――続いて阪神は、野手のジェリー・サンズ選手(打率.280、6本塁打)、ジャスティン・ボーア選手(打率.248、7本塁打)が調子を上げ、チームの勝ちも増えてきました。



「特に開幕から苦しんでいたボーアがよくなってきましたね。左ピッチャーのボールを反対方向(レフト側)に運べるようになってきて、しっかり捉えた時の打球の飛び方は別格。『今の成績が絶好調』では困るでしょうが(笑)、勝負所でも効果的なホームランが出ています。

 サンズもデビュー戦で逆転スリーランを放ち、その後もチャンスでの強さを発揮しています。4番の大山(悠輔)も好調ですから、(ジェフリー・)マルテが戻ってきたら守備位置や打線はどうなるのか、采配に注目したいです」

――5位の中日は、育成あがりのアリエル・マルティネス選手が「20年ぶりの外国人捕手」として存在感が際立っています。その20年前の外国人捕手も中日のディンゴ選手でしたが、一緒にプレーした経験がある井端さんから見てどんな選手でしたか?

「捕球時のフットワークはイマイチでしたけど、外国人特有の腰を少し浮かせる構えが印象的でした。

肩がよかったわけでもないですから、打撃面で期待されていたと思います。実際に、シーズン中はほとんどマスクを被っていません(18試合中、捕手での出場は1試合のみ)。やはり外国人選手には難しいポジションですが、マルティネスには頑張ってほしいです」

――肩の強さを見せる場面はありましたが、7月11日の広島戦では19失点を喫するなど、リード面はうまくいっていないように感じます。

「育成から支配下登録されて即一軍でしたから、一軍のピッチャーの球をあまり受けられないまま出場したんでしょうね。ピッチャー側の戸惑いもあったでしょうし、失点が多くなる試合もあって仕方がないと思います。もう少しの経験と、チーム側の我慢が必要ですね」

―― 一方で、打撃は好調(.333、2本塁打)ですね。



「外国人選手は長打を狙うことが多いですけど、彼は的確にミートしてヒットを重ねています。反対方向(ライト側)にも打てるのが、打率が高い理由ですね。キャッチャーとして地位を確立するには先ほど言ったリード面の成長が必須ですが、それに悩みすぎてバッティングの調子も下げないようにしたいところです。

 あとは、ラテン系(キューバ出身)の選手特有の、気持ちのムラが出なければいいですが(笑)。守備面の課題が解決すれば戦略の幅が増えますし、将来的に外国人捕手として球史に名を残すような選手になってくれることを期待しています」

――最後に最下位の広島は、抑え候補のテイラー・スコット投手が誤算だった一方で、野手のホセ・ピレラ選手(打率.263、6本塁打)が出場を続けていますね。

「フルスイングができて躍動感がある選手ですね。現在はさまざまな打順で起用されていますが、1番でも十分にやれるように感じました。最初は『反応で打つ』タイプかなと思ったんですが、第1打席にストレートをドンと打ちにいった後に、次の打席では変化球を待っているという場面も見られます。意外と『考えて打席に立つ』タイプなんでしょう。チームの状況は苦しいですが、今後も活躍が楽しみです」