カタールW杯アジア最終予選特集

「テクニック、フィジカル、どちらも日本は(アジア最終予選の)グループ中、一番だと言える。とりわけ、スピードはすばらしい。

オマーンに勝利して(W杯自動出場圏内の)2位に浮上したことは何よりだ」

 スペインの名伯楽、ミケル・エチャリは日本代表が0-1と敵地でオマーンを下した試合を振り返り、そう語っている。

「しかし、勝利に浮かれるのではなく、試合のディテールを突き詰めるべきだろう。たとえばアディショナルタイムに、古橋亨梧がどうにか粘ってファウルをもらってFKを獲得した後、後方の選手がなぜかロングボールを蹴り込み、時間を稼ぐことができず、相手ボールにしてしまった。その結果、相手に攻撃する機会を与えていた。これは勝負における大きな失態で、確かに何も起こらなかったが、高いレベルの相手だったら、それでケリがついていたかもしれない」

 戦術家としてフアン・マヌエル・リージョやウナイ・エメリなど、名将たちにも影響を与えたエチャリが、森保ジャパンのディテールに迫った――。

スペインの名指導者が日本代表の戦術的不具合や数々の問題を指摘...の画像はこちら >>

後半から出場し、日本の攻撃に厚みを与えていた三笘薫

「日本は4-3-3で挑んでいるが、前半は、明らかな戦術的不具合を生じさせていた。

 オマーンは中盤がひし形の4-4-2を構成し、トップ下とアンカーがいる形で、数的優位を作ることに成功していた。まずは2トップが日本のセンターバックにボールを横に回させ、中盤と分断。日本の遠藤航、柴崎岳、田中碧の3人の中盤には、中盤の前の3人がついて、アンカーがひとり余る形になり、ペースを握った。

 日本は、アンカーの23番の選手(ハリブ・ジャミル・アルサーディ)を封じる必要が出た。しかし南野拓実が中に入って封じようとするとサイドが空いてしまい、田中が詰め寄っても同じだった。そもそも左サイドバックの長友佑都は常にポジションが高すぎて、その背後が危険な状況になっていた。

システムがノッキングしていたのだ。

 その結果、攻撃は円滑に動かなかった。オマーンの帰陣が速く、戦術的に上回っていたのもあるが、前半はほとんど好機を作れていない。

 南野、伊東純也のプレスからボールを奪っての攻撃や、長友のクロスを伊東が合わせるシーンもあったが、どれも単発に終わっている。

 一方で、守備に関しては、吉田麻也、冨安健洋という二人のセンターバックが強固で、GK権田修一も地味ながらプレー判断(キャッチ、弾く、パス、ポジショニング)がすばらしく、大きな破綻はしていない。とりわけ、冨安のディフェンスは試合を通じて水準が高く、空中戦はスペクタクルだった。

日本の左サイドが狙われていたが、見事にカバーしていた」

 エチャリは前半の問題点を端的に指摘しつつ、後半に改善した理由も説明している。

「後半、日本は柴崎に代えて三笘薫を投入し、4-3-3を4-2-3-1に変更した。左サイドに入った三笘は崩し役になれる選手だったが、何より中盤の数的不利を解消した点が大きいだろう。トップ下に入った南野が相手の23番をケア。前半を通して不具合を放置したのは問題だが、システム変更によって攻守は潤滑に回るようになった。

 後半途中には、古橋、中山雄太を投入。

これでボールポゼッション率はより高くなり、プレーの奥行きも出た。不調だった大迫勇也は、古橋とのコンビで息を吹き返していた。各選手のポジション交換が活発になって、プレーに多様性が出るようになった。遠藤、田中のダブルボランチも前線と近い距離でプレーできるようになり、攻撃の効率は上がっていた。

 81分、三笘が左サイドを突破し、マーカーの前に入った伊東に合わせた先制点は必然だったと言えるだろう」

 そう語ったエチャリは、日本の勝利を高く評した。一方で、ディテールへの懸念を忘れず、以下のように試合を総括している。

「遠藤に関しては、チームの中心であり、優れた選手として高く評価してきた。しかし、最近は不用意なファウルが少なくない。オマーン戦でも、1枚目のイエローカードをもらったことは仕方がないとして、終盤、本人はプロフェッショナルファウルだと考えているはずだし、事実、審判もファウルの笛を吹いただけだったが、相手の攻撃をファウルで止めた場面があった。審判によっては、もう1枚カードが出ていても不思議ではなかった。

 もしあそこで2枚目を受けていたら、チームはひとり少ない状態で戦う羽目になっていた。『そうならなかった』で流すのではなく、プレーの価値を検証すべきだ。

 試合としては、日本は勝つべくして勝ったと言える。前半はうまくいかなかったが、守備は盤石だったし、後半は日本らしさが出た。遠藤、田中のダブルボランチが安定し、三笘が左から崩しに入り、チームとしての攻めの厚みが増していた。繰り返し言うが、伊東の決勝点は偶然ではないだろう。

 ただし、戦術的不具合をなかなか解消できなかったことや、見逃せないディテールのミスがあったことは、これからの戦いへ向けて肝に銘じるべきだろう。さもなければ、いつか痛い目を見ることになる。心から日本の健闘を祈りたい」